「ひまわりの祝祭」〜ピカレスク・ロマン・ハードボイルド〜 「花も刀も」〜空回りする純情〜

先日、rangelさんが薦めてくれた、藤原伊織さんの「ひまわりの祝祭」を読了。先日の日記で取り上げた「てのひらの闇」同様、くたびれた中年男が主人公。しかもこれが無類の甘党。しかしこれが、かつて天才といわれた画家で、射撃の名手でギャンブルの天才、…

「きもの」〜社会とひとの間にあるもの〜

幸田文さんを少し追いかけてみようと思って、2冊目に手をとったのが「きもの」。明治の知恵をきちんと受け継いだ幸田さんが書かれた「着物」の本、となれば、これは絶対面白いだろう、と期待。日ごろから和服に興味があるから、そういう観点でも楽しめるだ…

「台所のおと」〜凛としていて力みがない〜

幸田文さん、という方は、幸田露伴の娘、という認識しかなく、その著作に触れたことは一度もなかったのですが、先日、図書館で何気なく手に取った「台所のおと」がちょっと気になり、借り出してきました。昨日読了。凛とした生き方の筋が、すっと通っていて…

「てのひらの闇」〜「サラリーマン」というアイデンティティ〜

藤原伊織さん、という作家は、ご他聞に漏れず、「テロリストのパラソル」で出会いました。すごく正統派のハードボイルド作家、という印象。登場人物のセリフがものすごく上手い作家、という感想もあったので、久しぶりに、ハードボイルド世界の洒落た会話を…

藤堂志津子「ジョーカー」〜バブル期の精神〜

バブル期、というのは、なんとなく私や私の女房の精神形成に色濃く影響している気がします。確かに異常な時代だったかもしれないけど、あの時代の空気を呼吸していた、という経験は、かなり貴重な体験だと思う。あのバブルの時代、日本人は全員、何かわけの…

小学館版「少年少女世界の名作」

女房が小学生の頃に買い揃えてもらった「少年少女世界の名作」という小学館が出していた小学生向けの文学全集があります。女房がすごく愛着を持っていて、娘が小学生になったら読ませたいなぁ、とずっと思っていたそうな。全55巻。今、ぼちぼちと岩手の実…

「その日のまえに」〜死についてきちんと語ること〜

この夏休みに、実家に帰ったとき、母の本棚で見つけて借りてきた重松清さんの「その日のまえに」。重松清さん、という作家は、お名前しか存じ上げなかったのですが、お昼ごはん時にぼちぼちと読み進み、今日のお昼に読了しました。あんまり書くとネタバレに…

「アンダーグラウンド」〜やせ衰える物語〜

先日TVのニュースを見ていたら、産婦人科医がいなくなってしまった隠岐の病院に着任した産婦人科医のおかげで島民がとっても喜んでいます、というニュースの直後に、横浜の掘病院の無許可診療のニュースが流れました。どうやら、ニュースの編集をしたヒト…

「バカの壁」〜リアルとヴァーチャル、身体と情報〜

この日記の中でも何度か言及しました「バカの壁」、昨日読了。読みながら、何度も激しく頷く。養老先生という方は、例によって、「驚異の小宇宙 人体」の「脳」のシリーズの案内役のおじさん、として最初に認識しました。なんだか突っ放したような、面倒くさ…

「東大生はなぜ「一応、東大です」と言うのか?」〜健全なジャーナリスト〜

新保信長さん、という物書きがいまして、私の灘高時代の同級生です。お互い、マンガだのアニメだのが好きだったので、多少なり親交もありました。彼が、東大文学部卒業後、フリーの編集者になり、西原理恵子さんの担当編集者になって、ジャーナリスティック…

「蒼穹の昴」〜エリートの孤独〜

浅田次郎さんの「王妃の館」がバカバカしくも面白かったので、引き続き、長編に挑戦。「蒼穹の昴」を昨日読了。清朝末期の歴史群像劇に圧倒される。浅田次郎的人物像、というのが確実にあって、ある意味浪花節的な、純情一本やりの類型的人物像。あ、また、…

「ミクロパーク」〜リアルと非リアル〜

J.P.ホーガンというSF作家には、「巨人たちの星」シリーズで出会いました。めくるめく超科学と謎解きのカタルシス。そのホーガンが、ナノ・テクノロジーの世界を描いている、というので、図書館で思わず借り出してきたのが、「ミクロパーク」。「巨人た…

最近子供が気に入った本

子供が楽しそうに読んでいる本、わりと傾向があるみたいで、最近の愛読書や、娘が気に入ったお話を並べてみました。 ・「ノンビリすいぞくかん」「ボンヤリどうぶつえん」「だれもしらない大ニュース」「ちょびひげらいおん」などの長新太さんの作品最初に長…

「ぱたぽん」〜子供のための詩集〜

最近、娘が、子供のための詩集「ぱたぽん」を図書館で借りてきて、親子で寝る前に読んでいます。何度読んでも味のある、いい詩が多い。子供に独占させておくのは勿体無い、と、家で購入しようと思っています。まど・みちおさんの含蓄のある人生哲学もいいし…

「ダ・ヴィンチ・コード」〜多様性に対する非寛容〜

ずっと読みたかったけど、単行本を買うのはなぁ…と手が出なかった「ダ・ヴィンチ・コード」。映画公開に合わせて文庫化されたということで、先週末にやっと購入。読み始めたら案の定止まらず、夜中までかかって読了。いや、面白かったっすよ。実に。あんまり…

「人は見かけが9割」〜歌い手/台本作家として考えてみると〜

以前にも、この日記でちらりと紹介していた「人は見かけが9割」(新潮社 竹内一郎)、先日読了。あっという間に読める本ですが、示唆するところは実に面白かったです。特に、舞台表現に携わっている人間として、とても勉強になると思う。人間のコミュニケー…

怪奇探偵小説名作選〈7〉蘭郁二郎集―魔像〜昭和のエログロの魅力と、オペレッタ〜

以前もこの日記に書いたことがあったと思うのですが、大正から昭和の初期、という時代に、すごく興味を惹かれています。日本に「ブルジョワ」文化が生まれ始めた時代。中流層が発達し、「大衆」文化が定着し始めた時代。そういう文化の勃興期において、新し…

「クージョ」〜解説の読み方を間違えた(T_T)〜

わりとせっかちな性格なもので、長い小説とか読んでいると、先のことが気になってくる。とはいえ、結末ページを先に読んじゃう、というのは反則と分かっている。というわけで、私がよくやる悪い癖(悪いと分かっているけど止められない)が、文庫本の解説を…

ねじまき鳥クロニクル〜絶対的悪の再登場〜

今週末の「カルメン」の本番を前に体調が怪しくなってきました。朝起きると鼻の奥がひりひりする。典型的な風邪の症状。にも関わらず、昨日は、今回の助演陣と、伊藤さん、演出助手のKさん交え深夜まで飲んだくれてしまったので、頭まで痛い。仕事に支障が…

カディスの赤い星〜スペイン行きたいなぁ〜

出張で大阪に行って帰ってきました。本場のお好み焼きはやっぱり美味しかったなぁ。さて、今日は、先日読了した、逢坂剛さんの「カディスの赤い星」です。この本を今のタイミングで読んだ、というのは、なにかしら、一種の「シンクロニシティ」を感じさせる出…

吉田秀和「たとえ世界が不条理だったとしても―新・音楽展望2000‐2004」

吉田秀和さんという方については、時々雑誌の文章を拝見する程度で、著作を本格的に読んだことはありませんでした。そもそも私は、オペラという舞台表現に関わっているとはいえ、いわゆるクラシック愛好家という所からは遠いところにいます。なので、吉田さ…

山本周五郎「五瓣の椿」を読了。

ひたすらに誠実に生きた父への思慕と、それを踏みつけにした母への憎悪から、母をもてあそんだ男達を次々と殺していく娘。文庫本の解説は、人を裁くということ、正義とは何か、というテーマに中心を置いた分析でした。そういうとらえ方も勿論可能だとは思う…

リチャード・バックマン「レギュレイターズ」

スティーブン・キングが、別名であるリチャード・バックマン名義で書いたB級ホラー小説。少し前にこの日記に書いた、スティーブン・キング名義の「デスペレーション」と鏡をなす小説。キングがすげぇなぁ、と思うのは、ホラー小説なのに、思わずラストシーン…

「博士の愛した数式」〜理想的な教師の物語〜

私が昔、ガレリア座で上演したオリジナルオペレッタの脚本を書いた時に書いた文章で、こんなのがありました。ちょっと引用してみます。 - 大学生のある夏、帰省の際、小学校時代の恩師を訪ねたことがあります。昔のままの、子供のような笑顔で迎えてくれた先…

「デスペレーション」〜スティーブン・キング版「クトゥルー神話」〜

今日から、会社のPCからHPの更新ができなくなりました。従い、この日記の更新は、夜間に自宅から実施することになります。これが当たり前なんですよ。建前上は、会社のPCを私的目的に使っちゃいけないんです。今までごめんなさい。これからは心を入れ替えま…

宮部みゆき「理由」〜妖怪化する現代人〜

会社のセキュリティ対策の強化に伴って、外部WEBサイトへのアクセスを制限する方向で検討されているようです。従い、私のこの日記の更新頻度も、来月あたりから、週1回くらいのペースに落とそうと思っています。毎日更新が日課になっていたので、ちょっと寂…

「謎とき 名作童謡の誕生」〜きれいな日本語の出発点〜

昔、丸谷才一さんが、小学校教科書に掲載されている「詩」の例文を取り上げて、「こんな下らない『詩もどき』を子供に読ませるんじゃなくて、古典詩や名作と言われる詩をきちんと学べせなきゃダメだ」と怒ってた文章を読んだことがあります。今、NHK教育…

「ママがプールを洗う日」〜80年代のアメリカの健全さ〜

1980年代というのは、アメリカがすごく暗かった時代、という印象があります。日本が経済的な繁栄を謳歌する一方で、米国流経営が国際競争力を失い、軍事的にもソ連の後塵を拝し、あらゆる分野で米国が自信を失っていた。そして、半ばヤケクソのような形…

「櫻姫東文章」〜「因果」に対してポジティブであること〜

日本人、というのは、海洋民族なのだ、というのを認識した方がいいのかも、と時々思います。それも、北の凍てついた海ではなく、南海の暖かい、命の充ちた海。海は深く死を内包した巨大な恐怖であると同時に、豊穣な命の源でもある。そういう海を精神の土壌…

「柳橋物語・むかしも今も」〜逆境の中での真情〜

昨日の日記で、「制約の中でこそ、逆に価値ある芸術が生まれるのかも」という話を書きました。最近、こういうことをよく考えます。NHKで放送したドラマ「ハルとナツ」の感想にも書きましたけど、逆境や苦難の中で明らかになる人の真情、というものがある…