山本周五郎「五瓣の椿」を読了。

ひたすらに誠実に生きた父への思慕と、それを踏みつけにした母への憎悪から、母をもてあそんだ男達を次々と殺していく娘。文庫本の解説は、人を裁くということ、正義とは何か、というテーマに中心を置いた分析でした。そういうとらえ方も勿論可能だとは思うのだけど、構造的には、いわゆるエレクトラ・コンプレックスの物語として読むこともできる。あるいは、思春期の少女の「純潔」「処女性」に対する強烈な意識と、それに対する「性」というものへの異常な嫌悪感がもたらした、一種のアンファン・テリブルの物語として読むこともできる。自分が処女であることを最後まで主張しつづける主人公の姿には、淫蕩な母親の行状に反発するあまりに、異常なまでの潔癖症を背負ってしまった少女の悲劇を見ることができる気がします。その少女が、殺人を犯すたびに感じる高揚感が、一種の性的エクスタシーとして描かれているところもすごい。そういう意味では、解説に書かれている「法と正義」という論点よりも、むしろ精神分析的なアプローチで読むと面白い、サイコ・サスペンス的な小説だな、と思いました。やっぱり周五郎さんは本当にうまい。