五つのクリスタルはどこから来てどこへ行くのか~METALVERSE THE END OF INNOCENCE~

昨日、今日と豊洲PIT で開催されたMETALVERSE #2 THE END OF INNOCENCEに参戦。将来性溢れるこのグループが歩み出した新たな一歩を見届けてきました。5人の美少女達の輝きいっぱい浴びた上に、1日目は関係者席のアミューズキッズ達の天使ぶり目にしてメロメロになり、2日目は退場の時に颯爽と帰路に着く野崎珠愛さんを数メートルの距離で拝見して余りのカッコ良さに呼吸困難になるという至福経験重ねたので、理性的な文章書けるかどうか分かりませんが、例によって思ったことをダラダラと。

 

最初にちょっとネガティブなことを言ってしまうけど、このグループの最大の弱点は、グループ独自の「物語」を持っていないことだと思うんだよね。「物語」という言い方が分かりにくければ、「コンセプト」と言い換えてもいい。グループの誕生自体が、姉貴分であるBABYMETALの異世界における鏡像としての誕生だったし、そしてメンバーのほとんどが、閉校してしまったさくら学院を中学3年生になる前に卒業してしまった卒業生達、ということもあり、BABYMETALの物語やさくら学院の物語への依存度が高すぎて、このグループ自体がどんなコンセプトでどんな物語を紡いでいくのか、がはっきりしない。

 

BABYMETALが持っていた、メタルとカワイイの融合、というコンセプトや、キツネ様や、巨大勢力アイドルとの戦い、METAL RESISTANCE、と言ったギミックは、それが多少カリカチュアライズされたものであったとしても、彼らのパフォーマンスに強い推進力と軸を与えていた。それに、中元すず香菊地最愛水野由結岡崎百々子、という、それぞれ強烈な個性と才能に恵まれたパフォーマー自身の人生の物語が絡み合うことで、BABYMETALという壮大な叙事詩が生み出されていったのだと思います。

 

それに対して、METALVERSEは、BABYMETALの影、あるいはさくら学院への郷愁、という以外の強い物語を持たされていない。彼らが背負っているクリスタルがどこから生まれてどこへ行くのか、ギミックとしても提示されていないし、THE END OF INNOCENCE、THE GARDEN OF EDENというタイトルは、メンバーの成長物語を見守るさくら学院的コンセプトを暗示しているようにも見えるけど、メンバーが匿名性を保っているので、個々の成長を見守ることもできない。

 

匿名性、というのはパフォーマー個人の物語を切り離す仕組みなので、逆にグループそのものが物語を持たないと、グループの行き先が見えなくなってしまう気がする。パフォーマンスも楽曲も物凄く魅力的なんだけど、他のアイドル達やガールズユニットとの差別化ポイントってどこにあるんだろうか、と。ベビメタの妹分、とか、さくらの残党、という以外に差別化要因はないのかと。1日目を終わって、Xでかなりの方々が、「これでいいの?」という感想を上げていたのが印象的で、結局「コバさんはこの子達をどうする気なのさ?」というのが私自身も感じた一番の感想。同じさくら学院の卒業生で構成された@onefiveが、ある時、明確に、さくら学院生という過去の自分達からの決別を宣言し、周囲の先入観や偏見と闘い続けるZ世代女子の代弁者として自らを規定して、4人の個性を前面に押し出している姿勢の潔さとも比べてしまう。

 

とかなりネガティブなことを先に言ってしまったけど、こういうプロデュース面での弱点をねじ伏せてしまったのが、戸高美湖さんをはじめとする5人のメンバーのキラッキラのパフォーマンスでした。このグループの強みはなんといっても戸高さんの圧倒的なボーカルと、5人の美少女達がまさにクリスタルのように輝きながら魅せる美しいフォーメーションダンスのクオリティの高さにあって、しかもそのダンスは、揃っているのに表情の豊かさとダンスの個性で各人が際立って見える。八木美樹さんの華やかな笑顔、野崎結愛さんのアイドル能力の高さ、木村咲愛さんのパワフルなのに可憐さを失わない存在感、加藤ここなさんの末恐ろしいような妖艶さ。こういう才能と個性溢れるAmuse Kids達を材料にしたカワイイMETALの実験場、というのがこのグループのコンセプトと言えるのかもしれないのだけど、実験場という自己規定では匿名性は確保できても物語は生まれないんだよなぁ。

 

戸高美湖さんはさくら学院に転入した当初から、ASH仕込みの高い歌唱技術を持っている人でした。でもASH時代には歌唱よりダンスの実力の方が評価されていたらしいから、ASHってすげぇなぁって思うんだけどね。同じASH出身でも、中元すず香先輩のように、持っている声帯を自然に伸びやかに鳴らすストレートな発声ではなく、声門への圧力を変化させたりファルセットを巧みに織り交ぜたりする、どちらかというとハロプロやスターダストのシンガーさん達や演歌歌手の方々の歌い口を感じる歌い手さん。もっと簡単に言えば「コブシ」が魅力の歌い手で、中元パイセンのようなメタルに対する貫通力よりも歌のラインを聞かせていく歌い手だなぁと思います。言ってみれば、演歌とメタルとJ-POPがこの人の中で融合しているような。この人の歌声に笠置シズ子のパワフルな歌が重なったのは決して突飛な連想ではないと思う。

 

戸高美湖をはじめとして、八木美樹、野崎結愛、木村咲愛、加藤ここな、という、才能溢れるクリスタル達が、METALVERSEという形のはっきりしない場所を与えられて、この異世界でどんな物語を紡いでいくのか。大人の半端な思惑に潰されたり、凡百のガールズグループの中で埋もれてしまうには、この子達の輝きはあまりにも強い。ライブの最後、次回の予告映像に、今までプロフィール画像を見せなかった5人が、はっきりとその美しい姿を見せてくれたのは、このグループの物語を抑制していた匿名性を捨てて、これから5人の個性を前面にアピールしていこう、という宣言だったらいいな、と思ったりします。

 

5人の笑顔も、ステージ上で見かわす視線と微笑も、あの学校のキラキラした思い出と重なったよ。次に会う日まで、元気でいてね。