「重力ピエロ」〜お気に入り作家との出会い〜

以前この日記に、読書というのも一種の出会いだ、ということを書いたことがありました。世の中には沢山の作家さんがいて、沢山の本があるわけですけど、その中で、自分のお気に入り、といえる本や作家に巡り会う、というのは中々難しいこと。図書館の書棚や…

「孤宿の人」〜時代ファンタジーノベル〜

宮部みゆきさんの「孤宿の人」、本屋さんで何気なく購入、「エレーヌ」の本番直前に読了。静かに感動。宮部作品には駄作はない、というのは確かなことだけど、宮部作品群の中での相対的な出来不出来、というのは確かにある。そういう意味で言えば、「火宅の…

「蚊トンボ白鬚の冒険」〜マンガの「物語創造力」〜

藤原伊織さんの「蚊トンボ白鬚の冒険」を読了。藤原流ハードボイルドファンタジーを楽しんだのだけど、読後感はあんまり爽快じゃないなぁ。予定調和的なエンディングじゃなかったせいもあるけどね。ただ、藤原さんの小説に出てくる登場人物の「美学」という…

「北一輝論」〜読み手が物語を作る〜

北一輝、という人物には昔から興味がありました。苗字が私と一緒である、というそれだけの理由なんですけどね。二・二六事件の思想的な拠り所となった人物、という知識を得た後、片目の魔王と言われた数々のカリスマ的、宗教的、神秘的なエピソードを知って…

「クライマーズ・ハイ」〜死の価値、ということ/ジャーナリストであること〜

誰にも、自分が無条件に「反応」してしまうニュース、というのがある気がします。「反応」には色々あって、その時に自分が感じた感情の動きによって違う。なんともいえない不愉快感とか、心揺さぶられる感動とか、思わず思い出し笑いが出てしまうとか・・・…

宮部みゆき「誰か」〜ハードボイルド・マイホームパパ〜

宮部みゆきさんには、勝負をかける作品と、ちょっと息を抜くために書いてらっしゃるような作品がある気がしています。「レベル7」「火車」「理由」「模倣犯」・・・一種、宮部さん自身が、ものすごく意欲的に新しい試みにチャレンジしていこうとした作品群…

「火星のタイム・スリップ」〜離人症的世界〜

以前読んだ本に、木村敏先生の「時間と自己」という本があり、これが非常に知的興奮に充ちた本でした。離人症という精神症例において、時間感覚や存在への実感が希薄になる、という現象が起こる。そこで起こっていることを分析すると、人間が世界を把握する…

「海辺のカフカ」「アフターダーク」〜読書感想文が書きたくなる小説〜

最近再び読み始めた村上春樹さんの小説、2冊を立て続けに読了。1995年の精神的カタストロフを経て、新たなメッセージを発信し始めた村上さんの、深化し続ける世界観にどっぷりと浸る。村上春樹さんの作品については、この日記で何冊も取り上げているの…

「殺人を綴る女」〜根無し草たちのアメリカ〜

ここのところ、インプットの機会がすごく多くて、ありがたい話。デセイのリサイタル、二期会の「天国と地獄」だけじゃなく、日記に書ききれない勢いで、色んなインプットがあります。この日記に感想を書ききれるかどうかは別として、とりあえず、下に並べて…

「ラディゲの死」〜言語と肉体のバランス〜

三島由紀夫という人の本は、「金閣寺」「潮騒」「音楽」「仮面の告白」くらいを読んだだけかな。近代能楽集も読みました。非常に知的で緻密に組み上げられた、論文のような小説を書く人、という印象がありました。北杜夫に引き続き、ちょっと古典的な名作や…

池澤夏樹「静かな大地」・横山秀夫「半落ち」〜落ちが分かっているのに〜

ノルマの本番前から読み進めていた、池澤夏樹「静かな大地」。日本民族が過去に冒した犯罪の中でも最大のものの一つ、ともいえる、「アイヌ抑圧」の告発記でもあるのだけど、タイトル通り、全編が極めて「静か」に進む。その静けさが、声高な抗議の声ではな…

「母の影」〜圧倒的な両親〜

北杜夫さん、という作家は、思春期の頃に随分読んだ作家さんです。自分とちょっと名前が似ていたので親しみがあった、というのもそうだけど、初期の感傷的な短編や、重量感のある長編小説の中にある濃厚なロマンティシズムにすっかり心酔した時期がありまし…

「黒い家」〜女優で読む〜

「読んでから見るか、見てから読むか」という角川映画の有名なキャッチコピーがありました。映画とその原作・・・というのはその点、一種の緊張関係で結ばれていますよね。文字情報というのは画像情報に比べて情報量が格段に落ちるので、その欠落した部分を…

「フランチェスコの暗号」〜歴史暗号青春ミステリー〜

図書館に行って、なじみの作家の本や、昔話題になった本なんかを漁る中で、時々、題名だけを見て、「これは面白そう」と借り出す本があります。この「フランチェスコの暗号」もそんな感じで手に取りました。「ダヴィンチ・コード」でブームになった、ルネッ…

「ハルモニア」〜究極の音楽〜

篠田節子さんの作品は結構読んでます。「絹の変容」「夏の災厄」「カノン」あたりを読んだかな。基本的にホラー小説家、と思っているのだけど、その枠にはまらないジャンルレスの作家、という認識。先日、NHKの音楽番組に、黒田恭一さんや諏訪内晶子さまと一…

「舞姫通信」〜NHKっぽいよね〜

重松清さん、という作家は、「その日のまえに」という本を偶然手にして、それで初めて知りました。ちょっとあざとさも感じるけど、うまい作家だな、という感想。もう1つ2つ読んでみるか、と思い、図書館で手に取ったのが、「舞姫通信」。「その日のまえに…

「闘」〜背筋が伸びる小説〜

病院を舞台にした群像劇・・・というと、「病院へ行こう」というお茶らけた映画があったりしましたっけ。幸田文さんの「闘」は、気品あふれる文体と、結核という死病と闘う患者たちの壮絶な群像、という点で、お茶らけからは遠いところにありますけど、描か…

「依頼人」〜弁護士ってのはヤクザな商売で〜

昔、ある弁護士の友人が、こんなことを言っていたのを聞いたことがあります。「トラブル解決に、弁護士を使う手と、ヤクザを使う手があります。解決手段は、双方とも似たようなものです。暴力を使うか、法律を使うか、というのが違うだけ。でも、弁護士の方…

「花筵」〜極限の中での喪失体験〜

あまり日記には書いていないのですが、相変わらず、山本周五郎作品は読み進めています。図書館で3冊本を借りるとき、その中の1冊は、山本周五郎の短編集であることがすごく多い。今回も例に漏れず、割とどうでもいいホラー短編集と、「ペリカン文書」のほ…

「幻の祭典」〜やっぱ、スペインは熱いね〜

以前、「カディスの赤い星」でその熱さに魅了された逢坂剛さん。他のスペインものも読んでみたくて、今回手に取ったのが、「幻の祭典」。内部に紛争の火種を多数抱え込んでいるスペインという国の熱さを味合わせてもらえました。スペイン内戦、という国を二…

「夢見る宝石」〜サーカス、あるいは畸形へのこだわり〜

サーカス団、あるいは「カーニヴァル」というものに対する西洋文化のこだわり・・・というのは何なのかな、と思う時がよくあります。極端な事例としてのフェリーニの映画以外にも、「カーニヴァル」、特に、小人を代表とするいわゆる「Freak」ショウに対する…

「ゴースト・ストーリー」〜絶対的悪〜

例によって図書館をふらついていて、なんとなく手にとったピーター・ストラウブの「ゴースト・ストーリー」を先日読了。それなりに面白かった。面白かったんだけどね。ちょっと疑問も沸いてきた。この本の解説にもあったのだけど、よく、「モダン・ホラー」…

「東京の地霊」〜大阪・神戸編もやってほしいなぁ〜武蔵野の地霊〜

会社の上司に、「古い洋館とか結構好きなんですよ」という話をする。結婚式を挙げた都ホテルが、昭和初期の財界人かつ政治家の藤山愛一郎の元邸宅跡で、彼が残した立派な日本庭園が残っている話。その近くにある東京都庭園美術館は旧朝香宮邸で、世界で最も…

「取り替え子(チェンジリング)」〜あり得ないものの共存〜

ワイドショー的スキャンダルと芸術、私小説と神話・・・大江健三郎の「取り替え子」は、そういうあり得ない要素が共存している。・・・便所の落書きと言われる2チャンネルの中に、突然目を見張るほど美しいヴィジョンが浮かび上がってきたような・・・近親…

「所有せざる人々」〜政治小説であり、多層的世界であり、そして、一個の感動的な物語である〜

先日日記に書いたティプトリーの本を読んで、同じく「男女」ということについて先鋭的に思索し続けているアーシュラ・K・ル・グィンの本を読みたくなる。以前一度読んで、あんまりピンと来なかった「所有せざる人々」が我が家にあったので、再読。中々ピン…

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「星々の荒野から」〜私小説的SF〜

急にSFが読みたくなって、以前、「たった一つの冴えたやり方」を読んだことのあるティプトリーの本を図書館で借り出す。昨日読了。ティプトリーといえば、ティプトリー・ショック、と言われる、ある意味スキャンダラスなこの作家の生涯を語らないわけには…

日本怪奇小説傑作集(1)〜やっぱり日本語がきれいじゃないとね〜おまけの「あずきおばけ」〜

時々インプットしたくなるホラー系コンテンツ、今回は、図書館で見つけた、創元文庫の「日本怪奇小説傑作集」。ラインアップされている作家の名前を見て、迷わず選択。だってあなた、この作品一覧を見てごらんなさいよ。小泉八雲「茶碗の中」 泉鏡花「海異記…

「リヴィエラを撃て」〜浪花節的スパイ小説〜

高村薫さんの作品は、「マークスの山」を読んでいます。警察内部の組織の確執を、偏執的といっていいほどにリアルに描写しながら、過去の因縁に結ばれた男たちの悲劇を骨太に描ききった傑作。ちょっと「骨太」な作品を読んでみたくなって、その高村さんの「…

「天下騒乱 鍵屋ノ辻」〜智謀・深謀、そして、覚悟〜

年末年始読みふけっていたのが、池宮彰一郎さんの「天下騒乱 鍵屋の辻」。池宮さんの本は、忠臣蔵を、赤穂浪人と吉良・上杉の「智謀戦」という戦記ものとして再構築した「四十七人の刺客」を読んでいて、その観点の新鮮さと共に、豊かな日本語表現に魅了され…

「丘の上の向日葵」〜中年男の夢、中年女の現〜

昨夜、自宅PCのメール環境を整備終了。光Oneの導入はまた後日になりますが、これでネット環境は完全復活です。DIONの24時間サポートのカスタマーセンターのお兄さんがとても親切で丁寧だったのでいい気になって、ついでに私の個人メールアドレスまで新たに…