カディスの赤い星〜スペイン行きたいなぁ〜

出張で大阪に行って帰ってきました。本場のお好み焼きはやっぱり美味しかったなぁ。

さて、今日は、先日読了した、逢坂剛さんの「カディスの赤い星」です。この本を今のタイミングで読んだ、というのは、なにかしら、一種の「シンクロニシティ」を感じさせる出来事でした。

先日の日記にも書きましたが、今、埼玉オペラ協会の「カルメン」の舞台をお手伝いしています。「カルメン」といえば、スペイン。今回の舞台でも、いかにして自分の中で、「リアルなスペイン」をイメージするか、というのが一つの課題だな、と考えていました。スペインといえば闘牛。スペインといえばガウディ、ダリ。スペインといえばアルハンブラ宮殿…そういう観光客的なイメージはあるのだけど、もう少し生活感というか、空気や匂いのようなものをイメージできないかしら。

そんなことを漠然と思っていたのですけど、図書館で「カディスの赤い星」を偶然手に取った時には、そんな意識はまるでありませんでした。ギターを巡る冒険小説、という宣伝文句を見て、「たまにはこういう、ハラハラドキドキの冒険小説を読むのもいいな」と借り出す。先日読了。あまりに見事なタイミングで、圧倒的な存在感のある「スペイン」を堪能することができました。この時期にこの本を読めたってのは、実によかったなぁ。

逢坂剛、という作家について、ほとんど前知識はなかったのですが、この方、スペインという土地に本当にどっぷり浸かっている方のようですね。スペインの底の底まで、自分の皮膚で感じ取った方だけが表現できる、乾いた空気、泥の温もり、そして血の熱さ。エンターテイメントとしての面白さは勿論、その「リアルなスペイン」の重量感に圧倒された本でした。

スペインといえば…ということで、いくつかのイメージを先に並べましたけど、実は、私の中で一番印象に残っているスペインの風景は、ビクトル・エリセ監督の「ミツバチのささやき」に出てくる荒野の風景だったりします。真っ直ぐに延びた地平線まで、何一つないのっぺらぼうの荒野。そこにぽつんと立つ小屋と、その側の井戸。井戸は命を飲み、小屋の中には秘密と恐怖と死があり、森には精霊が棲む。主人公の少女(アナ・トレント)の大きな黒い瞳の中に映ったスペインは、第二次大戦から長く続いた内戦と、フランコ独裁政権の下で、心に深い深い傷を負った人々の住む、生と死が渾然一体とした、どこか幻想的な国でした。

カディスの赤い星」の中に闘牛の場面は出てきませんが、全編に流れるどこか荒々しいリズム感と、生死の狭間を全速力で駆け抜けていくようなスピード感は、どこか闘牛のスリルを思わせます。この荒々しさもスペイン。そして、「ミツバチのささやき」の幻想的で繊細な精神世界もまた、スペイン。不安定な政情の下で、ひっそりと息を潜めながら、それでも熱く熱く身体の中でたぎっている民族の血の熱さ。カルメンという女の熱さも、ジプシー女のそれ、というよりも、スペインという土地の持っている熱さ、として捉えるのがきっと正しいんでしょうね。スペイン、まだ行ったことがないんです。一度行ってみたいなぁ。