止まっていた時計は動き出し、そして新しい物語が始まる~2023年振り返り~

2023年も暮れていきますね。いつものように、この一年の自分のインプットやアウトプットを振り返ってみようかと思います。一言で言えば、コロナ禍の間に止まっていたような印象のある時計が動き出した2022年に、思い切って開いた扉が色んな世界につながって、そこからまた新しい物語が始まった年だったなぁ、というのが一番の感想。

まずはインプットから。今年、色んな舞台や演奏会などを拝見したんですけど、一貫していたのが、「音楽と時間」ということについて考えることが多かったなぁ、という印象。今年の2月、娘が参加したユニコーン・シンフォニー・オーケストラの演奏会の感想文で、この「音楽と時間」についてまとめているので、この文章を再掲します。

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音楽っていうのは色んな意味で時間との関係の中で語られる芸術のような気がします。特にライブ演奏が表現のメインとなっている音楽ジャンルでは、そのライブ会場の空間を共有する時間の中に満たされている音楽が、時間の経過と共に高揚していく状況自体が、その人の人生の中に忘れがたい記憶として残る。三次元の空間に「時間」という次元を加えた「四次元」の芸術である、というのが音楽の一つの特性で、「記憶」というのもそういう四次元の性質を持っている。そういう意味でも、「音楽」というのは他の芸術と比べて人間の感情に訴える力が強いんじゃないかな。

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「音楽」というのが時間芸術で、その音楽が演奏されているライブ空間という三次元の空間も含めた「四次元」の芸術である、という認識なんですけど、それを強烈に実感したのが、METのライブビューイングで見た「めぐりあう時間たち」というオペラだったんですよね。 

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違う感情や思惑を持った人々が同時に全く違う歌詞を歌っても、音楽によってそれが一つの織物として紡がれて、4重唱、5重唱、6重唱、と美しく重なっていくのがオペラの醍醐味で、特にモーツァルトのオペラとかそういうカタルシスが顕著だと思うのだけど、この「めぐりあう時間たち」は、それを、「同じ場面」ではなく、「異なる時代、異なる時間」に存在する登場人物たちが同時に同じ音楽を歌う、という、きわめて演劇的なアプローチによって、人間の魂の共感を時空を超えて紡ぎ合わせる音楽の魔法を見せてくれました。この作品に触れて以降、色んな舞台を見るときに、この「時間と音楽」というテーマがずっと自分の中で通奏低音のように鳴り響いていた一年だったなぁ、という気がします。

一つの人生という「時間」をシャンソンの名曲を綴ることで歌い上げる、田中知子さんプロデュースの「シャンソン・フランセーズ12」と、青島広志先生と萩尾望都先生のコラボで生まれた名曲「柳の木」で描かれた「時間」が解きほぐしていく血の呪縛の物語とか。

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時が過ぎても、自分の心が立ち返る場所としての「家族」という拠り所を中心に、一つの円環構造を作る物語を構成した、うちの女房プロデュースの「アメリカン・ソングブック2」とか。

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そして、消すことができない自分の過去、家、という呪縛、という裏テーマを、在阪球団の「アレ」と絡めて勝手に読み込んだ、青島広志先生のブルーアイランド版「コシ・ファン・トゥッテ」とかね。

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こうして並べてみると、今年の自分へのインプットにおいて、「時間と音楽」というのが凄く大きなテーマだったなぁ、というのが印象。

それって、自分が自分の過去や未来に向き合う、あるいは向き合わざるを得ない年齢に到達した、というのも一つの要因なのかもしれない、と思ったりします。自分も来月でとうとう59歳。いよいよ還暦、という、人生の第二ステージに向かう年齢に到達しちゃいました。そんな時にアノ球団がアレしちゃったから余計に、自分の過去と現在が色んな意味で共鳴したり、その先にある未来について考えることが多くなっているのかもしれないなぁ。

そういう観点で、自分の2023年のアウトプットを振り返ってみると、そんな年齢になっても、それでもまだ新しいことに挑戦できるのかもなぁって、これから始まる新しい物語に対するワクワク感が募る一年だった気がします。2022年の秋から、自分の本領であるオペラの舞台をやりたくて、地元の調布の調布市民オペラ合唱団に参加。1年間の練習を経て今年の10月に参加したガラ・コンサートで、「こうもり」や「カルメン」「トゥーランドット」などの合唱曲を歌いました。この合唱団に参加する、という新しい扉を開いたことで、地元に立脚したオペラ愛好家の方々とのネットワークが急につながって、一気に自分の世界が変わった気がしていて、それがなんだか嬉しいんですよね。

7月に開催した毎年恒例のソロリサイタルも、この合唱団の団員さんが沢山聴きに来てくれて、今までのお客様の反応とはかなり違う新鮮な印象がありました。新しいことに挑戦することで世界が広がった感覚ももちろん嬉しいけど、何より、自分にとって人生の目標でもある、「一人でも多くの人を笑顔にしたい」っていう目標が、地元調布のコミュニティで実現できる、というのがすごく嬉しい。

この合唱団で知ったVoci Cieliという合唱団で、久しぶりにモーツァルトのレクイエムを歌うことにして、こちらの本番は来年の5月。そして、調布市民オペラ合唱団で初めて参加するオペラ全幕舞台、「トゥーランドット」が9月にあります。自分のソロリサイタルも6月に開催することに決めています。コロナ禍がひと段落して、色んな表現手段が戻ってきたこのタイミングで、止まっていた時計が動き出した。新しく飛び込んだ場所での色んな出会いを通して、新しい物語が始まった。自分にとっての2023年はそんな一年だったなぁって思います。来年、この新しい物語が、どんな時間と空間を繋げてくれるのか、どんな音楽と出会えるのか、今から本当に楽しみです。