アメリカン・ソングブック2 Fancy Parade ~「アットホーム」って和製英語なんだけどね~

今日は昨日、11月22日に開催された、うちの女房プロデュースのコンサート「アメリカン・ソングブック2~Fancy Parade~」の感想を書きます。アメリカが音楽に求めていた温かさ、人との絆がそのまま会場を包み込んだような、本当に「アットホーム」な空気感の中で、多様で芳醇な米国歌曲の世界を堪能した演奏会でした。以下、掲載している写真は、女房のFACEBOOKからの転載となります。


誰もが聴いたことがあるような有名な曲から、知られざる名曲まで、アメリカ歌曲というジャンルを掘り下げるこの演奏会、昨年10月の第一回目(感想文はこちら)から、ほぼ1年を経ての第二回目。今回は、初期のアメリカ歌曲がジャズに出会うまでの流れを紹介する第一部と、ミュージカルの名曲を紹介する第二部、という構成でした。

 

ヨーロッパの各地から大西洋を渡った移民たちが、故郷から持ち込んだ欧州の音楽が、本場欧州の最新の音楽潮流にも影響されながらも、黒人音楽のリズムを取り入れて独自の世界を生み出していく。そのダイナミズムは音楽が生まれた時代背景をダイレクトに反映しているが故に、アメリカ歌曲を語ることは、その時代そのものを語ること。19世紀から20世紀に向かう激動の時代の最先端にあった国ならではの激しさと先取の精神に満ちている魅力あふれる名曲の数々。第一部で紹介された、作曲家として成功した初の女性であったエイミー・ビーチの作品や、現代音楽の手法を貪欲に取り入れたチャールズ・アイヴズの曲などは、そういう時代性を感じる作品群でした。

 

そんなアメリカ歌曲の先進性を追求していくだけだと、演奏会自体のアカデミズムは高まるかもしれないけど、エンターテイメントとしての楽しさはちょっと後退してしまうと思うんですが、今回のプログラムはそのあたりのバランスがよかった。冒頭の「ラブミーテンダー」は、プレスリーの歌唱で耳なじみの曲で、自然に舞台に引き込まれるのだけど、家族が寄り添いながら素朴なリコーダーが奏でるメロディに耳を傾ける演出の中で、何もかも捨てて大陸に渡り、家族の絆だけを頼りに生きた移民たちの姿が浮き上がる。言葉遊びが楽しいコープランドの「チンガリングチャウ」、今を生きる幸福を輝くように歌うエイミー・ビーチの「牧場のヒバリ」など、ワクワクする曲が各所に散りばめられて、飽きが来ないように考えられてるなぁ、と思いました。

「ラブミーテンダー」のリコーダーのデュエット、なんとなく胸に沁みたなぁ。

 

後半のミュージカルパートでは、オペラ歌手がマイクなしで歌うミュージカルナンバーが、歌の持っている音楽性を際立たせる感じがして、そういう感覚って、シャンソンの定番をオペラ歌手が歌うピアニスト田中知子さんプロデュースの「シャンソン・フランセーズ」にも通じる感覚だなぁって思った。でも、人生の始まりと終わりを描く「シャンソン」に比べて、「アメリカン」では、終曲の「屋根の上のヴァイオリン弾き」の名曲「サンライズ・サンセット」で、冒頭の「ラブミーテンダー」に耳を傾けていた同じ家族が戻ってくる、という円環構成を取っていて、これが、第一回でも感じた、「家族」という絆がアメリカ音楽のベースにある、という印象を強く浮かび上がらせる演出になっていました。

 

第一回目の感想の中で、アメリカ歌曲の持っている哀愁が、何もかも捨てて新天地にやってきたアメリカ移民たちの喪失感から来ているのかな、という文章を書いたし、その喪失感は、世界中を放浪し続けるユダヤ人の心情と響き合い、アメリカとイスラエルの同族感につながっているのかもな、とも思います。ラストの「屋根の上のヴァイオリン弾き」が、ウクライナで迫害に会うユダヤ人の家族を描き、新天地へと嫁いでいく娘たちと両親の絆を歌う「サンライズ・サンセット」の中で、冒頭の移民の家族達の姿が再度戻ってくると、自分達を支える唯一の絆であり、帰る場所としての「家族」が強く浮かび上がってくる。そう思って振り返ってみれば、第二部で紹介された「マイ・フェア・レディ」「キャメロット」や「ザ・ミュージックマン」、「ファニー・ガール」などのミュージカルも、音楽でつながる人の絆、新しく生まれる家族の物語にも見えてくる。

 

歌い手さん達はそれぞれの個性が際立ちながら一つの「家族」像をくっきり浮かび上がらせて、どの方も印象的だったのですけど、個人的には、今回が初参加になった神田宇士さんと渡辺将大さんの二人の男性陣が、がっしりした存在感とほどよいキュートさがあってしっかり軸になっている感じがありました。

女性陣は、圧倒的なオーラの三橋さん、北澤さん、声の色の魅力を存分に聴かせてくれた海野さん、丹藤さん、そして相変わらずキュートな富永さんと、皆さんそれぞれに存在感があったのだけど、個人的には田中紗綾子さんの透明感と安定感のある歌唱が好きだったな。

「アットホーム」=at home、というのは、日本では「家の中にいるみたいに居心地がよい」というニュアンスで使われることが多いけど、もともとの英米ではあまりそんなニュアンスでは使われず、単に「家にいる」という事実を表現することが多い言葉なんだそうです。内向きな日本の精神文化を表した和製英語って感じもしますけど、でも、やっぱり唯一の絆としての「家族」を大事にする心って、アメリカ歌曲の底流に強く流れているような気がしますし、そんなアメリカ歌曲の数々を浴びた客席も含めて、すっかり温かい「アットホーム」な空気感に包まれた演奏会でした。

 

今回、演出・制作をやりながらソロ曲とアンサンブル曲をしっかりこなした我が女房どの、お疲れさまでした。新しいメンバーも加わって、この「アメリカン・ソングブック」が、お客様も含めて一つの「チーム」=家族を作り上げていくような、そんな企画に育っていけるといいね。