ご近所の美味しいお寿司屋さん

昨日はノー残業デーで、久しぶりに家族で外食しようか、という話に。ご近所の西調布駅の駅前に新しくできた、「お魚旨屋さん」というお寿司屋さんの評判がいい、というので、3人で行ってみる。

カウンターで6席くらい、小さなテーブル席が2つくらい、という小さなお店で、西調布近在の常連さんたちがひいきにしているような、家族的な雰囲気のお店です。先客の常連らしいおばさま方が、我々のためにカウンターを空けてくださる。西調布近辺にはこういうこじんまりしたお店が多いんですが、その中でも小さい方だと思う。コース料理をお願いしたのだけど、どのお料理にも細かい手が加えてあって美味しい。お刺身のかんぱちもしっかり寝かせてあるせいか、とても濃厚な味わいだし、シメたキスもふんわりと仕上がっている。こはだの子供の「新子」というのを初めていただきました。青物の固くてすっぱい感じがなくって、実にさっぱりした味わい。

「こはだはね、1週間で育っちゃうから、今の時期、新子を何枚、握りに乗せたか、というのが話題になるんですよ」と、ご主人がニコニコおっしゃる。ちなみに我々がいただいたのは2枚乗せ。「2週間ほど前だと、10枚くらい乗せたのを握ったね。」とのこと。ほんとに季節ものなんですね。

拝見していると、シャリが少し茶色く色づいているように見える。「白くないシャリですね」と伺うと、「赤酢を使ってるんです。」とのこと。「だから甘くないんですよ。他のおすし屋さんのシャリだと甘いから、結構お腹にもたれたりするでしょ。これは甘くないから、しつこくないんです。」

ガリも赤酢で漬けてあって、甘くなく、しっかりした酸味としょうがの味がします。「昔、どの店でも、このガリをピンク色にした頃がありましたよね。あれは、春先のしょうがを赤酢に漬けたときに出る色なんです。その色合いがとっても良かったもんだから、着色料であの色を出そうとしたんだね。でもほんとは、春先のしょうがでしか出ない色。」

問わず語りに、旬の素材の美味しさや、毎日早朝の築地での仕込みのご苦労などを語ってくれるご主人。それが単なる薀蓄じゃなくって、実際に出てくるお料理の味にちゃんと現れている。焼き魚もお野菜も天ぷらも、どのお料理も美味しくて、素材の味をきっちり活かしながら、手をかけるべきところはきちんとかけている。

江戸前寿司ってのはね、手をかけるんですよ。ネタはきちんと一日寝かす。シメる素材はシメる。手をかけないで、素材をそのまま出すってのは、江戸前じゃないんだよね。」

コースの最後に出てきた穴子は口の中でふわっととろけて、しかもしつこくない。握りやすいように、と薄く焼いた玉子は、甘くてお菓子のような味わい。娘も大喜びでパクパクいただいていました。

「玉子ってのはね、デザートなんですよ。クレープみたいなもんでね。シャリが甘くないから、玉子の甘さが際立つでしょう?」

調布あたりでは珍しく、というと失礼なのだけど、本当に美味しいお寿司で、大満足。つい半年前に出来た新しいお店でしたから、「ご主人は、このお店の前にはどちらで握ってらっしゃったんですか?」と伺うと、

「僕はね、日本橋の吉野鮨で20年修行して、この近所で店持ってたんですよ。」と。なるほど本格的なわけだ。

「前の店が立ち退きくらって、10年ほど、近くの寿司屋で、ちょっと若い人向けの寿司の勉強しててね。そこの板さんにも教えたりしてたけどね。この店開くことにして、そこで一緒に働いてた若い人が手伝ってくれるって、来てくれたんですよ。とにかく、このシャリと、この穴子と、玉子さえ焼ければ、あとはどんな寿司も握れるよって、教えてるところ。」

狭いお店の奥で、くるくると働く若い職人さんが、「そうですね」と相槌を打つ。「サービスです」と最後に握ってくださったのが、ミョウガを赤酢でつけたものを、シャリの上にさらっと握ったお寿司。お口直しにぴったりの、後味のさっぱりした一品。

「この店を開くときにね、どうしても、お魚旨屋、という名前にしたかったんだ。鮨、という字は、魚が旨い、って書くでしょ。なんて読むか分からない人のために、わきに『おすしや』って書いてね」と、ご主人。旨い魚を食べてほしい。その魚を、一番旨い状態にするための手間はきちんとかける。そういう職人さんの心意気が、一つ一つのお料理にきちんと現れていて、実にいい気分でお店を後にしました。ご近所にこういう美味しいお店ができたってのは、ホントに嬉しいなぁ。