ガレリア座第31回公演「小鳥売り」〜役が好きになるって、幸せなことだよね〜

ガレリア座の公演、「小鳥売り」が終演。台風接近で首都圏の鉄道が次々運休する中、練馬文化センターに足を運んでくださったお客様に、まず感謝。とにかく冒頭から舞台に対する反応が本当に温かくて、その温かな拍手や笑い声に乗せられて、本当に気持ちよく演じることができました。


トランペット吹きのマナちゃんが、とっても素敵な写真を撮ってくれました。

ガレリア座オペレッタに出会って、いろんな役を演じてきたのだけど、そんな中でも印象に残っているのが、「天国と地獄」のジュピター、「乞食学生」のオルレンドルフ、「美しきエレーヌ」のカルカス、「ヴェニスの一夜」のデラックア。今回やらせていただいた、ヴェプス男爵、という役も、これらの役と共通項があって、要するに権力をふりかざして民衆から金や色をむしり取ろうとする小悪党なんだよね。これらの共通項を持ったキャラクターを、少し前の日記で、イタリアに古くから伝わる「コメディア・デラルテ」の「パンタローネ」という、ステレオタイプのキャラクターの系譜を継ぐものじゃないか、みたいなことを書きました。でも、そういう伝統的なステレオタイプ、という位置づけだけでなく、ヨーロッパ各国に共通する風刺精神や諧謔精神が、金や色に汚い権力者を舞台上で笑いものにする、という仕掛け自体を必要とした、という側面も勿論あると思う。実際、オッフェンバックオペレッタには、ジュピターを初めとして、当時の最高権力者であるナポレオン三世を笑いものにするためのキャラクターが沢山出てくるし。

でもね、この小悪党たちが、本当に人間臭くて憎めなくって、やりがいがあるんですよ。その役についてすごく深掘りしたくなるし、このオッサン、どんな奴なのかなぁ、と思いながら役作りをしていくプロセスが楽しくて仕方ない。ヴェプス男爵なんてね、ドイツの小さな領国を口八丁手八丁で渡り歩いていて、ある程度事務処理能力も高いし、色んなイベントとか上手に仕切ったりするんだろうけど、出入りの業者から袖の下もらってたのがばれたり、宮廷の女官に手を出したりして、その領国から逃げ出して、みたいなことを繰り返してたと思うんですよ。爵位も貴族の中では最低位の男爵どまりだし。で、妹かお姉さんがうまく嫁いだ先の伯爵家を頼って、ライン・プファルツの大公家に家令みたいなポジションで雇われていて、相変わらず袖の下取ったり女の子のお尻追いかけたりはやめられない。そして、同じようなチャラい生き方をしている、伯爵家の跡継ぎで自分の甥っ子のスタニスラウスが、もう可愛くて仕方ない。

そんなことは台本には全然描かれていないんだけど、そういう書かれていない裏歴史みたいなのを考えたり、色んなセリフをアドリブで付け加えたりするのが楽しい。やっぱりこういうオヤジって、外見の威厳みたいなのに拘るから、髭生やすだろう、なんて思って、生まれて初めて髭生やしてみたり、昔はドンファンとしてならした、とは言え、ちょっと女性の口説き方は古臭いところがあるだろうから、求愛のセリフは歌舞伎調にするとそういうニュアンスが出るかな、とか。そういうことを考えさせてくれる役って、やっぱりやりがいのあるいい役、だと思うんです。(ちなみに、アドリブで付け加えた「ピコ太郎」ネタにちゃんと反応してくれた優しいお客様にも本当に感激しました。大感謝。)

昔、お芝居をやっていた時に、共演したプロの役者さんから、「北さんはそれなりに声色の引き出しとか、技術の引き出しがあるから、演技プランに煮詰まってしまった時に、そういう技術に頼っちゃうんですよね」と言われたことがあります。でも、今回のヴェプス男爵では、自分の技術とか、声の色やテンポ感をどうするか、みたいなことはあまり考えずに、この胡散臭いオヤジはこういう時どうするだろう、というのをひたすら役に寄り添って演じていた気がする。それが楽しいと思えたってことは、本当にこのヴェプス男爵っていう役が好きだったんだなぁ、と、演じ終わってみてから改めて思ったりします。

役作りのプロセスでは結構癇癪持ちで、色々周囲を不愉快にさせることも多かったですが、我慢して付き合ってくださった共演者の皆さん、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。いつまでたっても発展途上の歌唱に辛抱強くダメを出し続けてくれたマエストロ、それを支えてくれたオケのみんな、素敵な舞台を作り上げてくれたいつもの裏方スタッフさんたち。そして、このヴェプス男爵、という愛すべき役を、私に演じさせてくれた主宰の八木原くんに。本当にありがとう。そして何より、この役を一緒に愛してくれたお客様一人一人に、ありがとうございました。

一つ終わって、また次のこと。役者の醍醐味は、色んな人の人生を疑似体験できること。その楽しみを探して、また新しい舞台に挑戦していきます。今後ともよろしくお願いいたします。やっぱり舞台っていいなぁ。


二幕舞台。本当に綺麗な舞台でした。