「ウィーン気質」〜蓄積・成長・発見〜

週末、ガレリア座公演「ウィーン気質」が終了。舞台監督としてお手伝いさせていただきました。出演者の皆さん、照明の寺西さんはじめ外部スタッフの皆さん、ボランティアで舞台設営を手伝って下さったKさん、その他関係者の皆様、本当にお疲れ様でした。

舞台監督としては、タイムマネジメントのミスあり、きっかけミスあり、舞台設営もKさんに頼りっぱなしで、出演者と団内スタッフの頑張りに支えられてようやく乗り切った、という感じです。皆さんには本当にご迷惑をおかけしました。オペレッタ舞台の舞台監督が久しぶりだった、というのもあるんですけど、合格点には程遠い出来で、お恥ずかしい限りでした。次の機会には、もうちょっと何とかします。すみません。

「ウィーン気質」は、ガレリア座が一番大事にしている演目で、ガレリア座が唯一、再演を重ね、少しずつ少しずつ育てている演目です。ガレリア座旗揚げのきっかけにもなった有志公演があり、旗揚げ後の一回目の舞台は、一幕と三幕の抄演。私も、ヨーゼフ役で参加させてもらいました。二回目の公演で初めて、二幕も含めた全幕公演。今回はガレリア座としては三回目の公演で、初めて小編成のオーケストラがつき、序曲や挿入曲をオーケストラが演奏。練習後の飲み会に参加してふと眺めてみれば、有志公演含めて4回の舞台のヨーゼフ役4人が並んで座ってた、なんてこともあった。ガレリア座自体も、出演者たちも大人になったんだなぁ、と、舞台を見つめながら、そんなことをしみじみ考える。じじくさいんだけど、「ウィーン気質」というのは私にとってはそういう演目です。歴史、とか蓄積、とか、成長、ということを考える演目。

でも、舞台と言うのは色んな意味で生き物で、同じ演目でも、公演の都度変化していく。成長、ということだけではないその日限りの要因もあって、その空気の中でしか見えなかった新たな発見があったりする。今回の舞台では、2つほど、新しい発見がありました。

一つ目は、練習を見ながら女房と話していて、ふと気がついたこと。セリフの中に、ドン・ジョバンニへの言及があるんですけど、それって偶然じゃないんだね、ということ。伯爵を巡る三人の女性(伯爵夫人/フランツィ/ペピ)は、そのまま、ドンジョバンニを巡る三人の女性(エルヴィラ/ドンナ・アンナ/ツェルリーナ)に重なる。女性の類型を3人の女性で代表させる、というのは、実は他の作品にも結構あるなぁ、と考えてみる。「ホフマン物語」のオランピア/アントニア/ジュリエッタ。「コシファントゥッテ」のフィオデルリージ/ドラベッラ/デスピーナ。3という数字が舞台構成的に座りがいい、というのもあるとは思うのですけど、多分、2人の女性の対決、という形にしてしまうと「アドリアーナ」のような悲劇になってしまうところを、3人目の女性を出すことによって喜劇に仕立てることができる、という要素もある気がする。

二つ目の発見は、公演二日目のお客様たちに教えてもらったこと。「ああ、ウィーン気質って、シチュエーションコメディーなんだなぁ」ということ。

公演二日目のお客様はとにかくすごくノリがよくて、とにかくよく笑ってくださったんですけど、その笑いのツボが、ことごとく、物語の芯になる、「正妻と愛人を取り違える」「自分の主人が自分の恋人を口説く片棒を担ぐ」というシチュエーションへの笑いだった。これはお客様が単純にノリがいいだけじゃなくて、非常に洗練された知的な観客だった、ということだと思います。今回の公演はこの素晴らしいお客様にすごく助けられた部分があって、私自身も、「そうか、そこがこのお話のキモになる部分なんだ」とあらためて気付かされる部分がたくさんあった。

こういうことって、意外と演じ手には見えにくい部分だったりするんです。演じ手は役になりきることが大切で、役になりきると、「自分が話している相手は正妻である」と思い込むことが求められる。そう思っている自分が、客観的に見るととてもおかしい、という認識は、かえって演技の邪魔になったりするんです。こうなると、つい先日の日記で書いた、「アドリアーナ」の感想にもつながるんですね。「観客の目は、役者の目に映っていない、あるいは映ってはならないものを見る」ということ。

そういう意味では、舞台袖に控えている舞台監督、というのは、さらに大きく、お客様と役者を含めた会場全体を見渡すことができる場所で、だから自分は舞台監督というポジションが好きなんだなぁ、とあらためて思う。この素敵な演目を大事に育て続け、今回の舞台の裏方を任せてくれた主宰のY氏には、本当に感謝です。打ち上げでは結構コケにしましたけど、ちゃんと尊敬してるし、感謝してるんだよ。誤解しないでね。本番の途中に予定してない芝居をしようが、突然行方不明になろうが、遅刻しようが、感謝と尊敬の念は変わらないからね。十分コケにしてるね。わはははは。