東京室内歌劇場「天国と地獄」その1〜浅草からパリ、そして仙川〜

GWに入って、5月・6月に予定している舞台の練習を結構休みなしに入れて、さぁ、追い込むぞ〜なんて思っていたら、扁桃腺炎を起こして発熱、寝込んでしまいました・・・なんてこった。解熱剤を服用して熱は下がったんですが、数日安静にしていなさい、ということで、色んな練習に不義理して、家でできること(パソコン仕事やら、衣装の加工やら)をへこへこやっております。ご迷惑おかけして本当に申し訳ございません。へこむ〜。

ということで、ぽっかり空いた時間を使って、最近停滞しているこの日記の更新を。まだ元気だったGWの前半に見に行った、東京室内歌劇場inせんがわ劇場オペレッタ公演「天国と地獄」の感想文を書こうと思います・・・

・・・ということでちょっと書き始めたらなんか止まらなくなってしまいました汗。ということで、投稿を2回に分けます。まず今日は、作品そのものの話、というより、舞台や出演者の感想から。次回は作品そのものや、今練習しているヨハンシュトラウスの「こうもり」の話など。ううむ、2回で本当に終わるだろうか。

で、まずは今回の東京室内歌劇場の公演に特化して。私は、4月29日(日)のAキャスト公演と、30日のBキャストの公演を拝見しました。 
 
指揮:新井義輝
 
演出:飯塚励生
 
出演:
ピアノ:松本康子(A) 頼田恵(B)
クラリネット:守屋和佳子(全日)
ヴァイオリン:澤野慶子(全日)
チェロ:三間早苗(全日)
 
キャスト:
オルフェウス:谷川佳幸(A) 相山潤平(B)
ユリディス:加藤千春(A) 大津佐知子(B)
世論:三橋千鶴(A) 中村裕美(B)
ジュピター:和田ひでき(A) 小林大祐(B)
ジュノー:田辺いづみ(A) 田代香澄(B)
ダイアナ:原 千裕(A) 花岡 薫(B)
ミネルヴァ:横内尚子(A) 伯田桂子(B)
ヴィーナス:上田桂子(A) 田村きの(B)
キューピット:植木稚花(A) 生駒侑子(B)
マーキュリー:吉川響一(A) 碓氷昂之朗(B)
マルス:酒井 崇(A) 佐藤 哲朗(B)
プルート:吉田伸昭(A) 中村祐哉(B)
ジョン・スティックス:三村卓也(A) 大岩篤郎(B)
 
という布陣でした。

天国をハリウッド、地獄をラスベガス、人間界をカンザスあたりの田舎町に設定した舞台設定については、すごく納得感があった、とだけ触れておいて、次回の投稿に譲ります。今日はとにかく、出演者のパフォーマンスについて感じたことを。

まず一番強く思ったのは、先日東京室内歌劇場が浅草東洋館で敢行した、「わが夢の街浅草」のロングラン公演が、出演者のパフォーマンスにプラスの影響を与えている感覚でした。出演者の方々にそれを言うと、「そんなことないよ」とおっしゃるかもしれないんですが・・・

今までのせんがわ劇場の公演では、皆さんが普段慣れている公演会場よりもはるかに狭く、客席の距離が極めて近いことに、少し演者が戸惑っているような感覚が時々あって、ありていにいえば、「演者が素になる」瞬間が結構あった気がするんです。例えば、客席と舞台が一体になって作り上げる作品だった「小さな煙突そうじ」でも、客席との距離感をつかみかねている感覚が時々あったんですが、今回は、演者の方々が、客席の反応やお客様の表情をしっかりとらえながら、自分が演じるキャラクターから逸脱することもなく、きちんと「天国と地獄」の世界観を演じ切っている感がありました。

それって、あの浅草東洋館で、お客様からのおひねりの雨を浴びながら何公演もこなした経験が、いい影響を与えているんじゃないかなぁ、と思う。お客様との距離感の取り方をつかんでいる、というか。もちろん、吉田信昭さんとか、加藤千春さんとか、谷川佳幸さんとか、ベテランの方のパフォーマンスはどんな舞台に行っても安定のクオリティなんだけど、「天国と地獄」のような群集劇では、脇役の一人一人にもしっかり見せ場と濃いキャラクターが与えられているので、そういう人たちが一瞬でも素になってしまう瞬間があると、全体のアンサンブルが崩れちゃう。今回はそういう瞬間が本当に少なかった。

AキャストとBキャストの公演をそれぞれ見比べることができたのも、演者の個性が見えて面白かったです。あまり個々の方々の感想を並べると色々支障が出たりするので、ざっくりいうと、Aキャストの方々はやはりキャリアの長い方が多い分、安定感とキャラクターの作りこみの深さが面白かった。オペレッタは大人の演者がやらないと面白くない、という人がいますが、確かにそういう重層的な感覚を感じさせる舞台でした。それぞれのキャラクターの癖の強さが半端ない感じなんですね。それぞれのキャラクターがそこに至った個人史まで感じさせるような。ジュピターの和田さんも、この地位に上り詰めるまでに何人か暗殺してそうな感じがするし(ん?)、ジュノーの田辺さんも、どことなく極妻の裏の顔が見えたり(え?)、ヴィーナス・ダイアナ・ミネルヴァの美女トリオにも、破滅させられた男たちの屍をベッドにしているような悪女感が漂う(ううむ)。無邪気な毒、ともいえる植木さんのキューピッドも、その毒矢で何人殺したんですかね、って疑っちゃう(また植木稚花さんが可愛いもんだから余計に・・・)。中でもすごかったのが、三橋千鶴さんの「世論」。もう出てきた瞬間から、一挙手一投足が「世論」というキャラクターそのもの。

Bキャストは、そういうキャラクターの作りこみの深さよりも、むしろ演者の若さとパワーと、自分のキャラクターそのもので勝負している感じがあって、これはこれで面白かった。舞台に満ちる空気感は、Bキャストの方がエネルギッシュだった気がします。その分破綻する瞬間もあったりするんだけど、それすらぶっ飛ばしていくような疾走感。個人的には、その中でも、ジュピターの小林大祐さんの美声と、意外と(失礼)軽やかな所作に感動。自分もバリトンなので・・・あとは、プルートの中村祐哉さんのぶち切れイケメンぶりと、生駒侑子さんの天使ぶり。生駒侑子さんって、普段から背中に羽生えてるんじゃないかと思ったり。

そんなエネルギッシュな舞台を真ん中でがっつり引っ張っていたのが、うちの女房の大津佐知子演じるユリディス。この役は下手に演じるとお客様の反感を買ってしまう役柄。キュートでパワフルで、でも人間臭くて、世の中の奥様方が共感するように作らないといけない。踊りと演技だけじゃなく、超難度の高音パッセージもあり、技術的にもハードルの高い役。例によって手前味噌になってしまいますが、技術的な部分もしっかりクリアしつつ、ワガママで悪女なのにキュートで憎めない、魅力的なユリディスに仕上がっていたと思います。ガレリア座で沢山のオッフェンバック作品に触れてきた女房にとっては、まさに憧れの役。今回、この役をもらってから、毎回の練習が本当に楽しかったみたいで、重量級の相手役の皆様にしっかり支えてもらいながら、4公演駆け抜けることができたようです。お疲れさまでした。

オッフェンバックはドイツ人なので、ものすごくきっちりしたアンサンブル音楽を書きます。今回、合唱がいなくて、熟練のソリストたちだけで作り上げられたアンサンブルが実に見事で、この距離感でオッフェンバックのアンサンブルを聞ける幸せをすごく感じました。特にそれが強烈だったのが、二幕の地獄の幕、冒頭の合唱。パロディと皮肉と嘲笑で作り上げられたエログロ世界の中に、突然悪魔的な陶酔と美が煌く、疾走感と重量感が半端ないアンサンブルに、思わず興奮で鳥肌が立ちました。そんな疾走感を供給し続けた安定のオーケストラにもブラボー。出演者の皆様、スタッフの皆様、本当にお疲れさまでした&女房がお世話になりました。仙川が見事に19世紀末のパリになりましたね〜。

ということで次回に続く〜(ほんとかよ)