高畑勲さんと音楽のこと

先日投稿した日記で高畑勲さんのことを書いたけど、ひとつ書ききれなかったのが、音楽のこと。ということで、FACEBOOKにちょっとだけ、と思って書き始めたら、思ったより長文になってしまって、これはFACEBOOKというより、日記向きの投稿だなぁ、と思い、こちらに転載することにしました。FACEBOOK投稿時に少し間違えた記述もあったので、その辺は改訂しつつ。

クラシック音楽その他、音楽全般に造詣が深かった高畑勲さんの作品には、印象に残る劇伴が数えきれないくらいあって、それについても沢山の人がネット評論を書いているから、私が書けることはあんまりないんですが、とりあえず、高畑作品に出てくる音楽についての感想をいくつか。

おもひでぽろぽろ」が個人的に一番好き、と書いたんだけど、その一番の理由は、音楽で泣かされた、というところにあるかもしれない。ドラマに大きく関わってくる「ひょっこりひょうたん島」を始めとする、昭和40年代のヒット曲の使い方はもちろんだけど、ハンガリー民族音楽集団ムジカーシュの曲の素晴らしさ、そしてなんといっても、ラストで流れる「The Rose」の都はるみの歌声(訳詞は高畑さんご自身)。ここで完全に涙腺決壊。

そして、合唱人としてちょっと恥ずかしいんだけど、間宮芳生さんの名前を知ったのは「太陽の王子ホルス」の方が先でした。大学に入って、間宮さんってこんなすごい作曲家だったのか、と知った時に、そんな人に、はじめての劇場長編作品の劇伴を頼んだのか、と逆に驚愕。間宮さんはあまり映画音楽を書かない人だけど、高畑さんとは「火垂るの墓」でも組んでるし、「柳河掘割物語」の主題歌も書いてる。音楽が主役の一人とも言える「セロ弾きのゴーシュ」で、「インドの虎狩り」と「愉快な馬車屋」を作曲したのも間宮さんで、高畑さんに対して、音楽を理解している映画作家、という信頼関係があったんだろうな、と思います。

例の「魔女の宅急便」で、高畑さんが、音楽演出、というクレジットで参加しているのも、久石譲さんが多忙であまり現場に参加できなかった、という製作上の背景はあるとしても、高畑さんが劇伴音楽に対して一流の仕事ができる人だった、という一つの証明。あの映画で荒井由実を主題歌に使える発想力ってのは、絶対他人には真似できないセンスだと思う。後になって、典型的なコバンザメプロデューサの鈴木敏夫が、ユーミンを使ったのは自分の手柄、みたいな発言をしていて、ほんとにこいつは宮崎・高畑の寄生虫だな、とすごく腹立ったことがある。

そして、高畑さんと音楽、といえば、絶対に欠かせないのが、テレビシリーズでの主題曲の充実度。

アルプスの少女ハイジ」で、前代未聞の海外録音までやってホンモノのアルペンホルンとヨーデルを取り込んだことに、高畑さんの音楽へのこだわりが反映されていないはずはないと思うし、宮崎駿の最初で最後の長編テレビアニメ演出作品だった「未来少年コナン」で、池辺晋一郎さんが主題歌を担当したのも、高畑さんが作った日本アニメーション時代の人脈が関係してるんじゃないかな、と密かに思ってたりします。

でも、その主題歌へのこだわりが凝縮したのが、アニメ主題歌史上最高難度のピアノ伴奏と歌唱技術が求められる名曲、「赤毛のアン」のOP/ED曲、「きこえるかしら」「さめないゆめ」。

私は「赤毛のアン」はリアルタイムでは見ていなくて、逆に合唱人になって三善晃さんの名前を知ってから、「三善晃さんが作曲したアニメ主題歌があるんだよね」と聞かされて初めて聞いたんです。三善晃にアニメ主題歌頼むって、一体誰だよ、と思ったら、高畑さん、ということで、すごく納得。「きこえるかしら」の間奏部分のオケの響きの豊饒さ、「さめないゆめ」のキラキラ輝くピアノ伴奏の美しさ。うちの女房は今でも時々、「さめないゆめ」を突然歌いだしたりします。近所迷惑だからやめておくれ。