子供向け音楽嫌い

先日のクラス合唱嫌いネタに引き続いて、好き嫌いネタ。

合唱団の演奏会の構成を決める時に、「リラックスステージ」とか、「お楽しみステージ」みたいな呼び方をするステージを挿入することがあります。お客様がよく知っているポップスとか、映画の主題歌、懐メロなんかの合唱アレンジ曲を歌うステージ。お客様に肩の力を抜いて楽しんでもらおう、ということで、演出付きで演奏されることも多いステージです。

こういうステージを入れるとすごく喜ばれることもあるんだけど、一方でこういうステージが大嫌いな人もいる。実際、この手のステージっていうのは、よく知られた曲だけに、かえって演奏のアラが目立ったり、あるいは悪ノリの独りよがり演出や中途半端な振付でお客様が白けちゃったり、やり方によっては大失敗することもあるので要注意。リラックスしていただくのはお客様であって、歌い手がリラックスしちゃったらいけない。ちゃんと本気で取り組まないと痛い目に会う。

演奏する側に、楽曲をあなどっている姿勢とか、お客様に媚びている姿勢みたいなのが見えてしまうことが多いことが、こういう選曲が嫌い、という人がいる一つの要因かな、という気もする。この「お客様に媚びる」というのと、「お客様に音楽に親しんでもらう」というのは本当に紙一重で、そういう微妙な一線を越えたり越えなかったりするのが、よくある「子供向けクラシック演奏会」というシロモノ。

うちの娘は、この手の「子供向けクラシック演奏会」というのが大嫌いなんだけど、実際、まだ小さかった娘を連れて行った「子供向けクラシック演奏会」というのが、微妙な演奏会が多かったんだよね。いい演奏会もたくさんあったけど、一緒に行った親の目で見ても、「こりゃあ失敗だったなぁ」と思う演奏会も結構ありました。

一つの例は、とにかくやたらと、「お勉強」の姿勢を聞き手に強制する演奏会。カルメンの抜粋をやったんだけど、歌い手の演奏の素晴らしさや楽曲の美しさをそっちのけにして、ビゼーやらスペイン音楽の影響やらオペラの形式やらなにやらを延々と解説してくださる解説者。クラシック音楽というのは貴様ら下々の者には理解しがたい高尚かつ選ばれた民の楽しむものであるのだぞよと言いたげな上から目線。それをどこかの音楽教室が主催してて、だからあかんのじゃと思った。

もう一つは、サントリーホールでいきなりハリーポッターを聞かされた時。しかもパフォーマーがオーケストラの前で魔法使いの格好をして中途半端なパントマイムをやって、オーケストラの音へのお客様の集中力が殺がれちゃった。わざわざサントリーホールまで来て、立派なオーケストラを立派な指揮者が振ってるのに、ハリーポッターの小芝居かよ、と、家族三人ちょっとむくれて帰ってきました。

演奏会を企画する側も大変だと思うし、いろいろ考えた結果だとは思うんですけどね。たぶん必要なのは、演奏者自身がその楽曲が好きだと思う気持ちと、その魅力を最大限お客様に伝えよう、という熱意と、その楽曲の力に対する信頼なんじゃないかな、という気がします。ハリーポッターの音楽が悪い、と言ってるのじゃなくて、多分プロのオーケストラが本気でぶっ放すハリーポッターの音楽は、生の楽器の音の迫力と楽曲の力だけで聴衆を感動させてくれるはずで、変なパフォーマンスの力を借りる必要はない。ましてや学校の教室みたいに、この楽曲を学問的に理解しなければ、なんて言い聞かせられて音楽が楽しめるはずがない。

タモリさんがヨルタモリで、「入門者向けのジャズ、なんてのはないんだよ。本物のジャズか、偽物か、それだけなの。最初から本物のジャズを聞いていればいい。頂点が高ければ、すそ野は自然と広がるでしょう。最初から本物を聞いていれば、色んなジャズを受け入れることができるんだよ」と言っていたのを思い出す。本当に力のある楽曲と、演奏家の本気がかみ合えば、子供も大人も感動する本物の演奏になるはず。子供向けだと言ってあえて古典楽曲を避ける必要もないし、やる気のない演奏で流行りの楽曲を適当に演奏したら、感性の鋭い子供はいっぺんで見抜く。

というか、わざわざ子供向け演奏会、というのを設定する意味ってあるんだろうかなー、とも思う。基本は大人向けの演奏会なんだけど、子供も入場可能ですよ、という演奏会ならあっていいと思うんだけどね。客席に子供がいることがストレスになるお客様もいるから。ラ・フォル・ジュルネとかでそういう演奏会があって録音を聞いたことがあるけど、子供の泣き声もまじりながらも演奏は完全に本気モードで、いい企画だなぁ、と思った。

耳に馴染んだ流行りの曲だけど、地力のある楽曲を選んで本気で取り組んだ結果を見た気がしたのが、娘がやっている学校のオーケストラが昔やった「パイレーツ・オブ・カリビアン」。楽曲そのものもすごくかっこいいんだけど、青春を燃やし尽くす学生さんたちの渾身の演奏で、女房と二人してボロボロ泣いちゃった記憶があります。この曲ってこんなにいい曲なんだぁ、と再認識させられました。

長い年月を生きぬいてきた名曲はもちろん、新しい楽曲であっても、その楽曲の力を信じて真剣に向かい合ったパフォーマンスは人を感動させるし、そうじゃないパフォーマンスは子供にも大人にもそっぽ向かれる。演奏家は、「子供向け」とか、「お楽しみ」なんていう言葉を言い訳にしちゃいけないと思う。演奏する時にも選曲するときにも、その楽曲に対するリスペクトを忘れないようにしないと。