女房の本番立て続け

年末あたりから女房の目の色が変わり始めて、毎晩呪文のようにイタリア語とフランス語を交互にぶつぶつ言い始める。風呂場からも頓狂な声でイタリア語とフランス語が聞こえてくる。ひょっとして家に一人でいる間は日本語よりもイタリア語とフランス語を口にしている時間が長いんじゃないか、と思うくらいにぶつぶつやっている。1月26日(日)には、東京シティオペラ協会の公演で、「愛の妙薬」アディーナ役を、その翌週の2月1日(土)には、東京室内歌劇場の公演で、フランスオペラのアリアと二重唱を一曲ずつ、という無茶な日程のせいで、さすがの土俵際の魔術師もかなり追い詰められた1月を過ごした模様。

先週末、二つの公演が終わり、今週になってやっと女房がまともに日本語をしゃべっております。次の公演は、3月12日からせんがわ劇場で開催される、同じく東京室内歌劇場のスペシャルウィーク2014、ヤナーチェクの「利口な女狐の物語」。女房はかけすと雄鶏を演じます。日本語上演なので日本語をしゃべっていますが、日常の動作が鳥になってくるかもしれません。「利口な女狐」は、ボヘミア・オペラの来日公演を見て以来、我が家親子三人そろって大好きなオペラなので、今から楽しみ。演出が、以前女房もお世話になった「市場のかみさんたち」の飯塚励生さんで、これも実に実に楽しみ。

1月26日(日)の東京シティオペラの公演は、「椿姫」と「愛の妙薬」の2部構成で、抜粋、しかも演奏会形式、というコンサートだったのですが、川村先生のキャラクターの立ったお話と、選曲と構成がとてもうまく仕上がっていて、それぞれのオペラの魅力が十分伝わる演奏会でした。「妙薬」のネモリーノを演じた川野浩史さんがとにかく圧巻の歌唱力で、「人知れぬ涙」は鳥肌ものの出来。世の中には色んな歌い手さんがいるんだなぁ。女房も相手役に恵まれて、本当に勉強になった、と感激していました。新宿オペレッタ劇場の「ヴェロニック」でお世話になった伊東剛さんに久しぶりにお会いできたのも嬉しかった。

2月1日(土)のフランスオペラの演奏会は、企画構成の和田ひできさんのフランスオペラに対する愛情と造詣の深さが詰まった企画。でも決して独りよがりになっていなくて、選ばれた曲のバランスもいいし、間の和田さんの解説のお話も面白くて飽きさせない。「こんないい曲があったんだ」というアカデミックな発見とエンターテイメントとしての完成度が見事に両立している。とても楽しい企画でした。女房が歌った、マスネの「ラオールの王」なんて、タイトルさえ聞いたことないオペラだったけど、かっこいいアリアでびっくり。ガレリア座でやった「真珠採り」からも4曲歌われたんだけど、改めていいオペラだなぁ、と再認識。「真珠採り」を取り上げながら、一番有名な「耳に残るは君の歌声」を採用しないで、テノールバリトンのホモの、じゃない友情の二重唱を持ってくるあたり、さすがバリトンの和田さん、いい選曲。

アリアや二重唱を重ねていく演奏会なので、たくさんの歌い手さんの色んな面を見せていただけたのも楽しかったです。歌い手さんからすると、いきなり舞台に出ていきなり盛り上がらないといけないから、すごく大変だとは思うんですけどね。ちょっと不謹慎なことを言えば、出演した女性歌手のみなさんがどなたも美女ぞろいでびっくり。石原麻由さんなんか、ちょっとローラに似た感じの美女だったしなー。前澤悦子さんもベテランらしい存在感とあでやかさ。男性陣も素晴らしく、和田さんの安定したバリトン歌唱は素晴らしかったし、テノールの青地英幸さんは文句なしの輝かしい響きで感動。女房はこの青地さんと「真珠採り」の二重唱をご一緒させていただくことができました。今回の2つの演奏会では、本当に素晴らしい相手役と共演させていただけましたねー。

愛の妙薬」は、ガレリア座で以前日本語上演した演目で、その時も、女房はアディーナをやり、私はドゥルカマーラをやりました。女房が数年前、府中のアルモニア・ヌォーヴァの「アドリアーナ・ルクヴルール」でプロの方々とご一緒した時、共演者のどなたかから、「あなたは以前日本語でやった役を原語でレパートリーにしていくところから始めるといい」と言われた、と言ったことがありました。今回はそれを実現した形。フランスオペラは、以前から好きだったプーランクの歌曲をリサイタルで仕上げた過程で、フランス歌唱のスキルを磨いたからできたパフォーマンスだと思います。そういう過去の積み重ねから、また新しいステージが広がっていく。そこからまた人の輪が広がっていく。そうやってどんどん、活動の幅が広がっていくといいね。