東京室内歌劇場の歩み Part.6 ~いっぱい盗みたい!~

今日は昨日お邪魔した、渋谷伝承ホールで開催された「東京室内歌劇場の歩み Part.6」の感想文です。なんだか、いっぱいヒントをもらえた素敵な演奏会でした。

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プログラム。青島先生直筆の作曲家のイラストとそのコメントがなんとも青島先生らしくて笑

最近、女房がお世話になるようになってから、すっかりおなじみになってしまった東京室内歌劇場ですけど、それまではその活動をよく存じ上げていませんでした。記憶や記録をたどると、初めてこの団体の舞台を拝見したのは、ガレリア座でもお世話になっていた近藤政伸先生が出演された、1997年上演の「ポッペアの戴冠」。次に認識したのは、NHKBS放送でも放送された、2002年に新国立劇場の中劇場で上演された、コクトー二本立て、プーランクの「声」とミヨーの「哀れな水夫」。コクトー二本立ても、なかなか日本で上演される機会のない演目ですし、「ポッペアの戴冠」に至っては、市川右近さんが演出し、ローマ時代の愛憎劇を歌舞伎に置きなおした舞台。それだけでもとても「とんがった」演目に挑戦する団体だなぁ、と思いますけど、今回の演奏会で、本当にこの団体でしか見ることができない、実験的で挑戦的な作品を上演し続けてきたんだなぁ、と実感。

 

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プログラムに掲載されていたこの時期の上演作品。ああ、なんだかどれもこれも見てみたいなぁ。

そして、今回取り上げられた作品はどれも、メジャーなオペラ作品とは言い難いながら、本当に「佳作」という単語がぴったりくる作品ばかりなんです。「白秋旅情」はどちらかというと前奏的な位置づけだったような気がしますが、林光先生の「白いけものの伝説」の、シンプルなのに神秘的な深い響きが美しい後半の二重唱。青島先生の「黄金の国」のラスト、合唱の中に「のろ作」のアリアが突き通ってくる時の鳥肌が立つようなカタルシス。青島先生が何度も、「これはモーツァルトの失敗作なんです」と繰り返していた「カイロの鵞鳥」の、モーツァルト節、ともいえる、ソロから重唱と声部が増えていく陶酔感。どこか「ヘンゼルとグレーテル」を彷彿とさせるファンタジー「クリスマスの妖精」の多幸感。「ああ、世の中には自分の知らない素敵なオペラがいっぱいあるんだなぁ」という思いで、なんだか嬉しくなってしまう。

極めつけが、最後に上演された、「シュフルーリさんのコンサート」。オッフェンバックという作曲家は、ガレリア座その他で散々取り上げているので、なじみ、という以上の親近感を感じていて、彼が大量に書いたと言われている一幕もののオペレッタを一つでも多く見てみたいし、できるものなら自分でも歌ってみたいと思っているんです。女房が東京室内歌劇場にご縁をいただいたのも、オッフェンバックの一幕もの、「市場のかみさんたち」でしたし、自分が出場したオペレッタコンクールで歌ったのも、ネットで見つけてきた、「ブラバントのジュヌヴィエーヴ」という一幕もののオペラのアリアでした。それくらい愛着のあるオッフェンバックの作品、演奏された一部分だけを聞いてみても、自分が歌ったマイアベーアの「悪魔のロベール」の旋律がそのまま出てくるわ、どう聞いてもヴェルディのジャンジャカジャン伴奏に合わせた三重唱が始まったと思ったら、バスが「呪うぞ!」と叫ぶのは「リゴレット」だし、いきなりドニゼッティの「ランメルモールのルチア」のソプラノとフルートの掛け合いをソプラノとテノールが二重唱でやりだすわ、本当にやりたい放題。そして全編パロディであるにも関わらず、本家を換骨奪胎して現れてくるオッフェンバックメロディのなんて悪魔的に美しいことよ。この演目、全編見たいなぁ。やってくれないかなぁ。

オッフェンバックも含め、どの演目も難曲ばかりで、歌い切った演者の皆さんは本当に素晴らしいと思いました。自分がバリトンなので、やっぱり注目してしまう同じバリトン歌手、福山出さん、古澤利人さん、山田大智さんの歌唱の完成度に感動しましたけど、一番カッコイイなぁ、と思ったのは、「のろ作」を歌われたテノールの相山潤平さん。せんがわ劇場の「天国と地獄」でもオルフェウスを歌ってらっしゃいましたけど、表現の幅が本当に広いのに、声の打点が全くぶれない感じがすごい。

でも、今回の演奏会で一番印象深かったのは、実は青島先生のMCでした。当然のように台本なんぞ持たず、しゃべることは全部頭に入っているのに淀みなく、青島先生らしいユーモアたっぷりの語り口で客席は大ウケ。毒舌キャラらしいシニカルなコメントもいっぱい出てくるんだけど、それが決して嫌味な臭いがしないのは、お客様を楽しませよう、という心遣いと、出演者に対する行き届いた目配り気配りがベースにあるから。出演者の表現を先生がさりげなくサポートして補うような場面もあり、演奏会の満足度をどうやって上げるか、ということをものすごく細やかに気遣ってらっしゃるんだなぁ、と感心しました。まさにMC(Master of Ceremony)の鑑。

自分も演奏会のMCをやったりするので、そういう意味でも勉強になりましたし、同じバリトン歌手の方々の身体の使い方、演奏会全体の構成から、オッフェンバックの演目まで、いっぱいマネしたい、いっぱい盗みたい!と思えるポイント満載の演奏会でした。とはいえ、「いいなぁ」と思って自分でマネしても、なかなか簡単に再現できるものじゃないんだよねぇ。まだまだ精進せねば。