よしなしごといくつか

最近思ったことをいくつか、とりとめもなく。

オリンピックのメダルラッシュが続いていますね。どのメダルにも一つ一つドラマがある。先日の麗鳴の演奏会で、中館先生が、「震災の後、人の心をつないだのは、スポーツと芸術でした」というお話をされたのだけど、少しでも高い場所をひたすら目指していく人の姿、というのはやっぱり感動的だよね。

特に競泳チームを見ていると、自分たちのやっているオペラ舞台と重なる感じがあって面白い。今回の競泳チームの活躍には、若手を引っ張る北島選手の存在が大きかったと思うんだけど、それって、オペラ舞台のソリストと重なるんだよね。連覇を期待する周囲のプレッシャーを一人で受け止めることで、他の選手へのプレッシャーが相対的に軽くなる。そのプレッシャーの中で、ひたすら自分の高みを目指して努力を続ける背中が、「あの人の頑張りに比べたらまだまだ」と、若手に対するお手本になる。一つのチームの中で、ある意味圧倒的な存在感を持っている「核」がいて、その核になる人が全力のパフォーマンスを見せることで、チーム全体のパフォーマンスが上がる。北島選手自身の結果は、ある意味残念なものでしたけど、それでも自分の限界に向かっていく真摯な姿勢が見えているから、若手たちの尊敬や全体を引っ張る牽引力が切れることがない。

オペラ舞台のソリスト、というのも、そういう役割を与えられていて、難曲のアリアに立ち向かっていく姿勢とか、個人競技のように見えるけれど、舞台全体の総合力を上げていく上で大きな力になる。そういう個々のパフォーマンスをチーム力に仕立てていける、というのもその団体の総合力だったりします。個人がものすごく頑張ってても、周りがそっぽ向いている舞台、なんてものたくさんあるしね。

「One for All, All for One」という言葉があって、マゾヒストが多い日本では、前半の「一人はみんなのために」という部分を取り上げて、個の犠牲、という部分が強調されるのだけど、本当に大事な部分は後半にある。「All for One」というのは「みんなは一人のために」という訳ではなくて、「全ては一つの目的(ゴール)のために」と訳するのが正しくて、原典のデュマの「三銃士」では、「全ては勝利のために」という意味なのだそうです。そう読むと、前半部分も、チーム全体のパフォーマンスを上げるために、一人ひとりがやるべきことをしっかりこなしていく、という文脈になるよね。そこには、個の犠牲、というニュアンスよりもむしろ、全体の目的のために自分がやるべきことを自覚することと、自分がやるべき分野において最高のパフォーマンスを出そうとする姿勢が見えてくる。

また話が変わります。娘が今、学校のバスケットボール部の合宿に出かけていて、この週末は夫婦二人で過ごしています。昨日は深大寺の「湧水」にそばを食いに行く。ここのお蕎麦は深大寺の他のお店と比べても本当に美味しいです。


お店のホームページから。本当に美味しいんだよー。

そこで女房と、この9月の女房のリサイタルの話をする。そもそもリサイタルをやろう、と思ったのは、アメリカでレッスンを受けたエイミー・バートン先生の一言がきっかけなんだそうです。レッスンを始める時に、先生が、「それで、あなたの『Goal』は何なの?」と聞いてきたんだって。

レッスンを受ける、というのは手段にすぎない。「歌が上手になりたい」なんてのも理由にならない。どこかのカンパニーのオーディションを受けたいのか、日本に戻って挑戦したいオペラの役があるのか。色んな目標があるべきで、その目標によってトレーニングのプログラムが変わってくる。そこで女房は、「自分一人でリサイタルを開く」というのを自分の目標にしたそうです。

実際、アメリカの音楽学校では、卒業の時に、半分くらいの生徒さんが、自分の「卒業リサイタル」というのを開くのだそうです。それは、歌手としてのレパートリーの広さや、お客様が飽きないようなリサイタルのプログラムを構成する構成力を問われるだけではなく、会場を確保したり、チケットを販売したり、チラシを作ったり、当日のスタッフを確保したりというマネジメント力も合わせて問われる。一つの「リサイタル」というパフォーマンスを最高のものにする、という目的に向けた、その歌手の総合力が問題になってくる。

女房は今、自分の夢だった「リサイタル」というGoalに向けて頑張っているのだけど、私自身はほとんど何も手伝っていません。チケットも私自身は全然売ってないしなー。チラシやチケットをデザインしてくれたYaheくん、伴奏の児玉ゆかりさんや、音楽事務所シン・ムジカさんにはすごくお世話になっているんだけど。まぁそれでも、All for Oneの精神でいえば、この女房の夢の実現という目標に向けて、私のしてあげられることは何か、及ばずながら考えながら、最近の日々を過ごしています。美味しいレストランに連れて行ってあげるくらいしかできることはないかもしれんが。