日本って広いねぇ

明けましておめでとうございます。新年になっても相変わらず、くだらない独り言を綴って参ります。ご愛顧のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

年末年始は、毎年恒例の通り、花巻温泉で家族でのんびり過ごす。31日に新幹線で新花巻に降り立ったのですが、駅の周囲にはほとんど雪が積もっていない。それでも、雪が大好きな娘は、街がうっすらと雪化粧する程度の1センチに満たない降雪に大はしゃぎでした。駅から花巻温泉に向うタクシーの中でも、雪ではなくて湿ったみぞれのようなものが降り出し、「これは積もらないねぇ」「やっぱり温暖化の影響かなぁ」と言い合っておりました。

日が落ちてしばらくたったあたりからちょっと様相が変わり始める。みぞれ交じりだった雪が真っ白になり、風が出てきて横殴りに降り始めた。ありゃ、と思う間に、窓の外の木々の枝に真綿のような雪がずんずんと重なり始める。紅白歌合戦が進む間中、雪は勢いよく降り続け、深夜には数十センチの積雪に。

花巻温泉では、1月1日の午前0時に、「裸参り」という行事が開かれます。花巻温泉には、温泉街の入り口から、千秋閣、ホテル花巻、紅葉館、という3つの大きなホテルが並んでいるのですが、一番奥にある紅葉館の玄関から、花巻温泉の入口近くにある稲荷神社に向って、数十人の男たちが、褌一丁の裸姿で行進し、一年の商売繁盛と健康を祈願して初詣をするのです。行列の先頭には列を導く天狗姿の神官が立ち、松明のオレンジの光に照らされ、錫杖を響かせつつゆっくりと歩いていく。とても幻想的な行列。

激しく振り続ける雪の中、これでも裸参りはやるのかな、と思いつつ、紅葉館の大浴場に行ってみれば、ホテルの従業員さんが、大人2人くらいは楽に入れそうな巨大な青いバケツ2つに、なみなみと水を満たし、浴場の中にでん、と据えている。何をするものか、と思って見てみれば、バケツに満たされた水には氷が浮いている。どうも、裸参りに行く人たちが、雪の外気に飛び出していく前に、温泉に浸かったあと、氷水にドボンと浸かって体を引き締めるものらしい。

午前0時、降りしきる雪の中、ホテル花巻の前の道路に家族3人そろって出てみる。一度手ぶらで出たのだけど、あっというまに頭が雪で真っ白になり、こりゃだめだ、と、ホテルの傘を借りて出直す。娘はもう大喜びで、手近の雪溜まりに手を突っ込んで雪玉を作ろうとするけれど、気温が低すぎて雪がさらさらでなかなか固まらない。どこが地球温暖化だ。

雪でけぶる木々の向こうから、錫杖の響きとともに近づいてくる松明の炎と、どこかしら懐かしい感じのするその炎の香り。毎年見ている裸参りですけれど、やっぱり雪の中で見るのが一番きれいだなぁ、と思いながら見ました。参加した方々は大変だっただろうけどね。

31日の夜から降り始めた雪は一向に止まず、私たちが出発した1月3日の朝まで降り続き、1メートルを超える雪の壁が街のあちこちにそびえ立っておりました。娘はいとこのお兄ちゃんたちと雪合戦をしたり、雪玉を作って軒下のつららを落としたり、とにかく大はしゃぎでございました。

紅葉館では、毎年、新年を祝うイベントということで、1月2日に、玄関先のホールで郷土芸能の舞が披露されます。神楽権現舞鬼剣舞は毎年の出し物で、どちらも郷土芸能にふさわしく、長い歴史の中で洗練された土の力を感じる勇壮な舞です。昨年までは、この2つの舞の後、よさこい踊りが披露されていたんですが、なんだか現代的なビートの強い音楽とパラパラめいた今風のダンスで、あんまり興味が持てなかった。

ことしは、よさこい踊りの代わりに、盛岡さんさ踊りが演じられました。盛岡に住んだこともある女房は「私も踊ったこともあるぞ」と大喜びで見ていたんですが、子供たちも含めた踊り手の皆さんの所作がとても美しく、力強い太鼓の響きに合わせて風にそよぐ稲穂のように優雅に揺れる手のひらが目に鮮やかでした。肘から指先までの曲線が本当に優美。やっぱり伝統芸能はいいねぇ。

新幹線で東京に戻ってきてみれば穏やかな日和。年始に河口湖に行っていた、という親戚からのメールにも、青空にくっきり鮮やかな富士山の写真が添付されておりました。北日本は今日から大荒れだそうで、また花巻に新しい雪が降り積もっていくんでしょう。

雪深い土地もあれば、穏やかな晴天の広がる街もあり、言葉も伝統も地域によってまるで異なる日本という細長い国。世界ももちろん広いけど、ちっぽけな人間にとっては、日本だって、十分すぎるほど広い国ですねぇ。