「河童譚」「奥様女中」〜とっても楽しかったです!〜

ちょっとしたご縁と個人的な興味で、7日の土曜日、家族3人で行ってきました、東京シティオペラ協会の「河童譚」「奥様女中」の2本の喜歌劇。こじんまりした小公演でも、大劇場の大公演よりよっぽど満足度が高い舞台を作ることができる、というのを実感。とても素敵な公演でした。
 
総監督 : 川村 敬一
指揮 : 竹内  聡
演出(河童譚) : 粕谷 博通
演出(奥様女中) : 古澤 利人
エレクトーン編曲・演奏 : 赤塚 博美

第1部 日本の名曲を訪ねて
第2部 民話による四重唱曲『河童譚』
作曲:石桁真礼生
作詞:松本重真

 河童:神田 宇士
 お花坊:中村 寛子
 おっ母さん:出口 けい子
 与作:藤巻 信哉

第3部 『奥様女中
作曲:G.B.Pergolesi

 セルピーナ:西田 さとこ
 ウベルト:古澤 利人
 ヴェスポーネ:岸上 昌司

音楽スタッフ : 大杉 祥子/丹原 要
照明 : エイペックス・クライム
制作 : 川村 慶子
 
という布陣でした。

最大の収穫はなんといっても第3部の「奥様女中」。演出と出演者3名のセンスが抜群にいい。今回、演出と訳詩の両方を、ウベルト役の古澤さんが担当された、とのことですが、とにかく日本語がこなれていて、とても分かりやすい。女房も、「なかなかあんなふうに見事な日本語にはできないものだよねぇ」と感嘆しておりました。この時代のオペラ・ブッフォの基本になるのが、同じフレーズを何度も何度も「繰り返す」ことだと思うんですが、おしゃれ心あふれる日本語が何度も何度も繰り返されるのがおかしくてたまらず、会場は何度も爆笑に包まれる。本来オシの役のヴェスポーネを、なんと「犬」にしてしまうという遊び心も楽しい(岸上さんの演技も素敵!)。西田さとこさんのキュートなキャラクターも魅力的で、本当に楽しい舞台。3人の出演者の絡みも見事に決まっていて、手抜きのない丁寧な作りこみを感じました。一緒に行った娘も大喜びで、「この前見に行った『エトワール』より全然面白かった!」と大満足でした。

「エトワール」の時にも書いたんですが、この手の「喜歌劇」というのを上演するとなると、演出や脚本が、やたらと時事ねたを出したり、「受けなきゃ」という脅迫観念からか、妙にはしゃいだ芝居や演出になることが多いと思うんです。今回の「奥様女中」では、原作の楽しさをそのまま再現することに加えて、ほんの少しの、最小限の遊び心やひねりを加える、という「節度」が、実に好印象でした。いいんだよねぇ、そのままやれば絶対面白いんだから。

さかのぼって、「河童譚」。小学校などで上演されることが多い小品ですが、演劇として見ると、河童役の神田宇士さんのキャラクターが飛びぬけていた感じ。悪意のない無邪気な河童を魅力的に演じてらっしゃいました。若干古臭い作品、ということもあって、娘は「あんまり面白くなかったなぁ」との感想。まぁ、「奥様女中」がすばらしかったからね。ただ、音楽的にはとても難しい作品で、そういう意味では、歌い手4人の方々のアンサンブルは見事だったと思います。

全編通して、赤塚博美さんのエレクトーン伴奏には驚嘆。パーカッションや管楽器の音がしっかり響き、完全にオーケストラ伴奏。以前、エレクトーン伴奏の「第九」のソロを経験している女房に言わせると、「今回はまだ、PAのパワーが小さいからさほどでもないけど、会場全体に響く大きなPAでやったら、もう完全にオーケストラだよ」とのこと。本当にすごい。

上演スペースは、渋谷のヤマハエレクトーンシティ。この場所がまず、とってもいいなぁ、と思いました。新宿オペレッタ劇場の常ハコになっている新宿文化センターの小ホールのような、こじんまりしたスペースです。こういうこじんまりしたスペースでやる演奏会やオペラ、というのは、ある意味怖いなぁ、というのもちょっと実感。演奏会をやれば、聴衆と歌い手の距離が近い分、歌い手の息遣いや声の生の色までが届いてしまうし、オペラをやれば、はしゃいだ力んだ演技がすぐに客席を飽きさせてしまう。そういう意味で、「河童譚」と「奥様女中」は、抑制されたセンスのいい演出と演技で、出演者のキャラクターがきれいに際立ったいい舞台でしたが、第一部の歌曲はちょっとしんどかったかな。厳しいことを言うと、歌唱力だけで勝負をかけるにはもう少し・・・というパフォーマンスで、この第一部がなかったら100点満点の舞台だったんだけどねぇ。娘も、第一部が終わったあたりでは、「またパパママの道楽に付き合わされてえらい所に来てしまった」と、ふくれっつらだったんだけど、第二部の「河童譚」あたりでちょっと機嫌がよくなり、第三部の「奥様女中」ですっかりご機嫌になりました。子供は厳しい。

東京シティオペラ協会という団体は、このヤマハのエレクトーンシティで、かなりの頻度でオペラや演奏会を開催されているようです。女房ともども、いろんな団体があるんだねぇ、と感心。名の知れた団体の大きな公演が必ずしも出来がいいとは限らなくて、探せばいろんな小さな宝物が見つかる。東京というソフトの宝庫の奥深さも垣間見た舞台でした。