合宿楽しかったなぁ

ガレリア座でずっと活動していると、結局、週末がほとんど練習に費やされる、ということになります。仕事で毎日午前様の私からすれば、貴重な家族サービスの時間が、全てガレリア座の練習に費やされることになる。疲れた身体を休める貴重な睡眠時間も削られる。ほんの数時間の舞台本番のために、毎週末の貴重な時間を費やして、時には呑んだくれてヘロヘロ状態で月曜日に出社。贅沢な趣味だ、といえばその通りなのけれど、折角そうやって貴重な時間を削っているのだから、その週末の練習の時間を楽しく過ごしたい、という気持ちはすごく強い。

でも、長く舞台活動をやっていると、楽しいことばかりじゃありません。ものすごくストレスを感じる練習だってあります。中々上手に歌が歌えないストレス。共演者とのアンサンブルがどうしてもうまくいかないストレス。一人でやる趣味じゃなく、団体でやっている活動だから、色んなコミュニケーション不足やすれ違いなどもあって、週末の練習が本当に楽しくない!ということだってあります。

正直に言えば、過去、そういう「楽しくないなぁ」という気持ちばっかりで本番までたどり着いてしまった舞台も、ないわけじゃありません。そういう週末を過ごすと、なんだかどっと疲れるんだよねぇ。折角の貴重な週末、それも趣味の時間なんだから、楽しく過ごしたいじゃないですか。なのに、その趣味の時間が逆にストレスになっちゃうと、いったい何のためにやってるんだろうって気分になるよね。まぁそれでも、本番の舞台を終えてしまえば、そういう苦しい思い出も、楽しい思い出に変わってしまうんだけどね。それが舞台の魔力といえば魔力なんだが。

この週末、岩井海岸で、「美しきエレーヌ」の合宿がありました。最後には歌とセリフだけ(動きはなし)で一通り通し練習。「楽しくないなぁ」と思っている舞台の合宿だと、この合宿が相当苦痛だったりします。色んなところがギクシャクしていて、自分でもイライラが募る。単純な話、合宿なんかじゃなくて、都内で強化練習した方がいいじゃん、なんて気分になる。実際、移動する時間とかを考えると、岩井海岸まで行って合宿するより、都内で土日集中的に施設を借りて練習した方が、練習時間は長く確保できたりするんです。身体も疲れないし、その方がよっぽど楽。

でもね、今回の「美しきエレーヌ」の合宿は楽しかったなぁ。それも、ただ楽しい、で終わったわけじゃなく、自分なりに色んな課題が明確になった、と言う意味で成果もあったし、何より、「この演目は本当に楽しい、本当にいいオペレッタだなぁ」と思えたことが最大の収穫だった。

女房も、「こうやって通してみると、それぞれの楽曲の配置といい、ものすごくバランスのいい素晴らしい曲だね」との感想。物語も馬鹿馬鹿しいし、キャストの数も多いし、ソロ曲ばっかりで重唱がすごく少なかったり、ぱっと見るとバランスの悪い曲のように見えるんですけど、ざっと通してみるとものすごく座りがいい。重唱と言えるのは2幕のパリスとエレーヌの長大かつ流麗な二重唱と、3幕のアガメムノンメネラウス・カルカスの馬鹿馬鹿しい三重唱だけなんだけど、それぞれがすごく存在感のある重唱になっていて、きっちり役割を果たしている。演出のY氏の台本も、楽曲の楽しさをさらに倍増させる馬鹿馬鹿しさと品性のバランスが見事に取れたいい台本。

そういう、演目自体の楽しさもありますけど、ソリストの一人一人から合唱陣に至るまで、この舞台を楽しいものに仕上げていこう、という気持ちが共有できた気がしたのも大きかった気がします。ソリスト陣も、それぞれの課題に対して非常に真摯に向かい合っていて、それぞれがクオリティの高いものにチャレンジしようとしているし、合唱陣もそれにきっちり応えてくれている。楽しいのだけど、決してぬるま湯的な感じのしない、とっても密度の濃い時間が過ごせた気がする。

こういう時間の過ごし方ってのは不思議なもので、ただ長い時間一生懸命楽曲に向き合っていればいいか、というとそういうわけでもない。実際、自主練習の時間がかなり長かったり、みんなで浜辺に遊びに行ったり、それこそ「練習」として見れば無駄な時間も一杯あったんです。でも、そういう無駄な時間も含めて、「美しきエレーヌ」という演目を作り上げていくのに必要な時間、と思えるような、そんな不思議な時間だった気がします。娘も、今年初めての花火をみんなで浜辺で楽しんだり、パパが見つけた小さなヤドカリに歓声を上げたり、団員の皆さんと沢山遊んでもらって、十分合宿を楽しんだようです。

出来上がった通し練習の完成度が高かったとは思いません。MDに録音して聞きなおしてみても、ずっと課題にしているパッセージや、大きな三重唱とか、まだまだ全然出来上がっていない。自分では得意なつもりのセリフも、意欲ばっかりが空回りしてあんまり出来がよくない。本番まで2ヶ月ちょっと、これから演出がどんどん付いてきて、その過程でまだまだ作りこまないといけない部分が一杯ある。でもそういう課題をクリアしていくことが、なんだかワクワクする。今のこの仲間たちとこの舞台を作っていく過程で、苦しいこともあるだろうけど、でも、きっと楽しめる、そんな気がすごくする。6月の本番が、今から待ち遠しいような、もっともっとこういう時間を過ごしたいような・・・そんな気分になってきました。これはいい感じだぞぉ。