万年筆女子会Vol.2「国産礼賛」〜違う色だから生まれるアンサンブル〜

8月9日(水)、渋谷ラトリエで、女房が所属しているオペラ歌手集団、「万年筆女子会」の第二回目の演奏会が開催されました。「国産礼賛」というお題で、国産=邦人曲をネタに国産万年筆の魅力について語りつくそう、という企画。あ、逆だ。国産万年筆をネタにして邦人曲の数々を楽しんでいただこう、という企画。今日はその感想を。井上亮さんが撮影してくださった写真とともにお送りします。大津佐知子(Sop)・末吉朋子(Sop)・中島佳代子(Sop)・橋本美香(Sop)・田辺いづみ(Ms)・田中知子(Piano)、という皆様。


冒頭の松島音頭から、ほぼ満席の客席はすっかり盛り上がり。

万年筆好き、という共通項で女性歌手が集ったこの「万年筆女子会」、面白いのは、それぞれの歌い手の得意分野やレパートリーがびっくりするくらい重ならないことなんですよね。今回も、「邦人曲」というテーマで、各人のソロと、アンサンブルやデュエットで構成しましょう、という話になった時、各人が、「じゃあ私はこのソロ曲やります」と持ち寄ったのが、見事なくらいにてんでんばらばら。結果として、日本にはこんなに素晴らしい作曲家の方々がいて、魅力的な曲がたくさんあるんだなぁ、ということに、改めて気づかされた演奏会になりました。團伊玖磨の正統、木下牧子の幻想、橋本国彦の重厚、大中恩の純真、なかにしあかねの煌き。一人の歌手のリサイタルだと限界があると思うけど、5人の全く違う声色の歌い手さんが持ち寄ったプログラムで、邦人歌曲の豊饒なヴァラエティを十二分に楽しむことができました。

これだけヴァラエティに富んだプログラムを、一貫して破綻なく支える田中知子さんのピアノの安定感と説得力。今回、私はちょうど田中さんがピアノを弾いている背中を見る場所に立っていたのだけど、背筋から肩、腕のラインがものすごく綺麗なんだよね。楽器に向かって自分の意思を十分に伝えるための、アスリートとしての肉体ががっちりできている人なんだなぁ、と改めて思いました。


中高バスケ部でしたからね!と、知子さん。

これだけお互いの得意分野が違うのに、チームとしての一体感があるのは、万年筆好き、という共通項だけじゃなく(それも大変大きいようですが)、お互いのセンスや技量に対するリスペクトがあるから。歌に対して妥協しない、真摯に向き合っていく姿勢や、自分の表現を突き詰めていくプロセスが共通している。女房もプロの声楽家として色んな現場に関わることになりましたけど、文句なしに「楽しい!」と言うのが、万年筆女子会の現場なんだよね。練習の後の飲み会と万年筆談義も含めて楽しいらしいけど。


あら楽しそう。

中でも今回の演奏会の白眉だったのが、アンサンブル。とりあげられた「村の鍛冶屋」や「ずいずいずっころばし」などの童謡は、ハマると大変なカタルシスをもたらすけれど難度は大変高い、という信長貴富編曲。練習では相当苦労したようですけど、女房曰く「さすが万年筆女子会、ポイントをつかんだら一気に仕上がる」そうで、本番では、信長編曲とオリジナルの童謡の魅力を十二分に楽しめる素晴らしい出来に仕上がっていました。


後半はドレスに着替えて。

他にも、女声合唱曲の定番、小倉朗編曲の「ほたるこい」や、山口恵子編曲の「故郷」「からたちの花」「初恋」などが、二重唱や三重唱、五重唱などのアンサンブルで演奏されたのですが、どれも極めてハイクオリティ。オペラ歌手数人が集まっての演奏会、というのは、各人のレパートリーは上手でも、合唱になった途端に練習不足が露呈してなんだか悲しい出来になっちゃうことが結構ありますけど、妥協しない万年筆女子会のアンサンブルは見事の一言でした。


「からたちの花」の二重唱は、シャンソンフランセーズで「二人の天使」を歌った時と同じ衣装で

面白いのは、クオリティの高さをもたらしているのが、同質化された声のハーモニーの美しさ、ではないんですね。以前聴いた豊島岡女子学園の合唱部の演奏が、200人以上の大人数の合唱でありながら、見事なまでに同質化された声質と歌い口で、完ぺきなハーモニーを聞かせてくれて、それはそれでクラクラするくらいにカタルシスがあるんだけど、万年筆女子会のアンサンブルはその対極にある。5人が5人とも、全く違う声質を持っているし、日本語の母音も違えば歌い口も違う。一緒に歌えば、それぞれの声がしっかり立って聞こえるのに、がっちりハモる。

以前、ジャズコーラスグループとして一世を風靡した、マンハッタントランスファーのメンバーが、皆さんどうしてそんなにそれぞれガンガン歌ってるのにしっかりハモるんでしょうね、と問われて、「僕らは声をそろえようとしてるんじゃない、声をブレンドさせようとしているんだよ」と説明していたのを聞いたことがあります。今回の万年筆女子会のアンサンブルを聞いて、そんなことを思い出しました。


ほぼ満席となった客席と一緒に、アンコールは「夏の思い出」の全員合唱。アンコールでサイリウムを振るのは、あるピアニストが自分のリサイタルで始めたもの、とか、今回のサイリウムはその時に余ったものだとか、様々な噂が。


終演後。出演者が楽しそうっていうのは客席にも伝わりますし、スタッフとして手伝ってても楽しかったです。

前回同様、ハイクオリティな演奏を聞かせてくれた万年筆女子会、次回は一体いつになるのやら。いろんな企画がすでに俎上に挙げられているようで、今から本当に楽しみ。これからも裏方頑張りますので、次回も声かけてくださいね〜


この写真大好き〜