本当に嬉しかったこと

先週の金曜日は、我々夫婦の結婚記念日でした。毎年、結婚記念日には、結婚式を挙げた白金台の都ホテル東京に家族で一泊して、ちょっと贅沢なディナーを楽しむ、というのが我が家の年中行事です。今年もおかげさまで、その年中行事を繰り返すことができました。

金曜日の午後、年休を取り、都ホテルに。土曜日から天気が悪くなるかも、という天気予報を聞いていたので、都ホテルの庭園散策は、土曜日の夕方にする。庭園の池に流れ落ちる滝の上から、我々が披露宴をやった宴会場を覗き見ることができます。ここは昔、「クレドール」というフランス料理のレストランでした。都ホテルが「ラディソン都ホテル」に変わり、大幅な改装をした時に、このレストランはなくなってしまいました。我々夫婦としてはそれがとても残念で、毎年の結婚記念日のたびに、「クレドールが懐かしいねぇ」という話になる。クレドールがあったころは、毎年の結婚記念日のディナーは、当然クレドールだったのですけど、なくなってしまってからは、「四川」という中華料理屋さんでのディナーになっていました。このお店もとっても美味しいお店なんですけど、やっぱり思い出の場所で食べたいよねぇ。

今年、女房がホテルの案内をネットで再チェックしていたところ、アメリカンスタイルのカフェで、軽食が中心のメニューしかない、と思っていた「カフェ・カリフォルニア」というレストランで、創作フレンチのディナーコースがあるという。全然知らなかったのですが、ひょっとしたら、クレドールの味をまた楽しめるかも、という期待で、今年はそのレストランに行ってみました。

ちょっとイタリアンの感じもする美味しい創作料理。娘も、ヴィシソワーズや牛フィレステーキをぺろりと平らげて、デザートのチョコケーキまでしっかり楽しんでおりました。お箸でもいただける創作料理を楽しみながら、女房と「この子をベビーカーに乗せてクレドールに行った記念日もあったねぇ」などと、10年間の思い出を語らう。すると、デザートが出たくらいの頃合に、サーブをしてくれていた従業員さんが、

「失礼ですが、クレドールで結婚式を挙げられた方ですか?」

と聞いてきた。そうなんですよ、ちょうど今年で10周年なんです、という話をしたら、

「このレストランに、以前クレドールに勤務していたスタッフがおりまして、『あのご夫婦は以前、クレドールにいらっしゃった気がする』と申していたものですから・・・」

とにこにこおっしゃる。ちょっとクレドールを思い出すようなディナーでしたねぇ、という話をしたら、このお店のシェフも、クレドールの厨房にいたことがあったそうな。クレドールがなくなったのは、たしか7年くらい前の話だから、ずっと都ホテルで働いている古参の従業員さんがいたんだねぇ。

なんだか、とても嬉しい気持ちになって、部屋に戻ってのんびりしていたら、チャイムの音がする。女房が出ると、初老の従業員さんが立っていて、

「『カフェ・カリフォルニア』の、元クレドールの従業員が、ご結婚10周年のお祝いに、フルーツをプレゼントしたいと申しまして・・・」

と、フルーツの盛り合わせにお祝いのカードを添えて持ってきてくれました。この従業員さんも、「私も少しだけ、クレドールで働いたことがあるんですよ」とニコニコされていました。

10周年のお祝いに、思わぬプレゼントで、女房ともども、とても温かい気持ちになりました。都ホテルも、この10年間に随分と変わってしまって、今年の4月からは、ラディソングループからシェラトングループに提携先が変わり、名前も「シェラトン都ホテル」に変わっています。色んなことが変化していく中で、あのクレドールのお店の雰囲気や、そこでの我々の披露宴の空気を、共有し、記憶している人がこの場所にいてくれる・・・そう思えたことが、何より嬉しかった。

舞台の「一期一会」の感覚が好きだ、と、この日記でよく書いています。二度と再現することができない同じ時間・空間を、お客様と共有すること。そこに集う人たちが、同じ思いを共有できたときの幸福感。そして、その思いを共に思い出し、一体感の記憶を共有することも、とても幸せなこと。そんな幸福な気分を味わうことのできる場所は、変化の激しい東京都内には中々見つけることができないけれど、都ホテルクレドールという場所は、我々にとって間違いなく、そういう特別な場所だった。今はなくなってしまっても、そこにいた人々の心の中に、クレドールは今も変わらずしっかりそのたたずまいを守っていて、今でも間違いなく、我々にとっての特別な場所であり続ける。クレドールで働いた皆さん、我々の思い出を守り続けていてくれて、本当にありがとう。これからも、毎年の結婚記念日に、お世話になろうと思います。