新宿オペレッタ劇場「小公爵」〜お客様とのキャッチボール〜

先週末、この日記にも何度か書いてきた「小公爵」の本番公演が終了。色々と小さなアクシデントはありましたが、なんとか大過なく、お客様にも楽しんでいただけたようで、ほっと一息。なにより今回は、2日間公演ならではの、お客様の反応の違いや、演じ手の意識の変化が面白かった。

若いカップルが、その若さゆえに引き離されながら、大人顔負けの知恵と勇気によって、周囲から一人前の大人のカップルとして認められる、という、非常に単純なストーリ。単純なのだけど、音楽は実にバラエティに富んでいて、登場人物のキャラクターも多様。こういう題材だと、演劇としても楽しめるし、音楽ももちろん楽しめる。その二面性が出たのか、2日間の公演で、1日目のお客様と2日目のお客様で、きれいに反応が分かれました。

1日目のお客様は、どちらかといえば、音楽よりもお芝居の楽しさに反応している感じがありました。そういう反応がすごく分かりやすく出たのは、コミックソングへの反応がすごくよくって、受けも拍手も大きかったのだけど、美しい音楽やアリアに対する反応が今ひとつだったこと。歌い手の出来は決して悪くなかったのですが、美しく歌い上げるかっこいい曲にあまり拍手が来なくて、お笑いソングへの反応がむちゃくちゃよかった。

1日目、というのは、演じる側も、お客様の反応を手探りで確認しながら進めている面もあって、演じ手としては結構「荒さ」も目立つ出来になります。でも、1日目のよさ、というのは、とにかく「初日」の勢いです。演じる側も初めて、見る側も(何せ日本初演ですから)初めての舞台。そういう意味で、1日目の舞台は、演じる側のテンションも相当高かった気がする。その分、粗さも結構あったんですけどね。

2日目のお客様は、どちらかといえば、音楽寄りのお客様、という感じがありました。美しい音楽にきっちり反応してくれる。ドタバタ芝居の部分は少し引き気味。でも、小公爵ラウルの美しいアリアや、モンランドリィが合唱を率いて歌う楽しい「せむし男の歌」といった歌への反応がとてもよかった。もちろん、コミックソングへのノリが悪かったわけじゃなくって、小学生のお客様がケラケラ笑ってくれて、おかげでとても会場が暖かく、舞台上もとてもやりやすかったです。

演じる側も、2日目、となると、1日目の反省を踏まえて、色々と修正をします。冒険に出る局面もあるし、抑制してくる局面もある。少なくとも、歌に関しては、1日目で拍手が来なかった曲に対するソリストの気合がすごかった。2日目に、歌に拍手が来たのは、歌い手がもぎとった、という側面も確実にあったと思います。プロの歌手の皆さんの根性を垣間見た気がしました。2日目のお客様は、「歌」という面ではかなり得をした、と言えるんじゃないかなぁ。

こういう小さなハコでの公演は、お客様の反応がものすごく明確に演じ手に伝わってくる。それが小劇場の醍醐味なんです。個人的には、幕間の舞台転換の時、お客様とアドリブで、ちょっとした小芝居をやれたのがすごく楽しかった。2日目の最前列に座っていた品のよさそうなご婦人のお客様、お休み中にいじっちゃって申し訳なかったですね。ニコニコ反応してくださって、本当にありがとうございました。1日目のお客様には舞台転換の手伝いまでさせちゃった。知り合いだったんで、いじりやすかったんだけど、すみませんでしたねぇ。

土曜日は、いつもの和平飯店で打ち上げ。共演者の方々と、遅くまで楽しい時間を過ごしました。男子校の部室みたいな感じで楽しかった楽屋を盛り上げてくださった、お小姓役の福留和大さん、中原和人さん。普段の素顔は、腰が低くて真面目な方なのに、舞台上ではぶっとんだオカマ役を見事に演じてらっしゃった柳隆幸さん。一挙手一投足が優雅なのに爆笑を誘っていた北澤幸さん(普段もとってもノーブルで素敵な方です!)。髭面が怖くて、うちの娘が泣いちゃったけど、根はとっても優しくて、歌唱表現に対してものすごくストイックな清水良一さん。「しっぱいぱい」「ばいばいきん」などの赤池ワールドが楽しかったオペラ界きっての美人ソプラノ、赤池優さん。そしてなんといっても、トライアスロンのようなヴァラエティに富んだ大きな曲ばかりのこの演目を、安定した歌唱と演技力で魅せてくれた猪村浩之さん。共演させていただいた合唱団の仲間たち。本当にお世話になりました。ありがとうございました。

舞台の出演者だけじゃなく、舞台を支えてくださった皆様にも、感謝感謝です。ただの酒飲みじゃないパワフルな伴奏ピアニスト児玉ゆかりさん。ハートマークがサイコーだった照明の寺さんこと寺西岳雄さん。お皿とワインの仕込みが受けてよかったね、の舞台美術の、やへ君こと長谷部和也くん。舞台裏で走り回ってくれた振付師のおってぃこと越智伊穂里さん。劇場支配人のY氏、日々の練習指導から、当日のアップまで、豊富で実践的なオペレッタ合唱指導の引き出しで、合唱陣を引っ張ってくれた大津佐知子先生(大変大変勉強になりました)。毎週の練習に付き合ってくれた我が娘、その他、このプロジェクトに関わった全ての方々に。ありがとうございました。

そして何よりも、あの小さな会場の、あの時間と空気を共有できた、お客様皆様に。おかげさまで、本当に楽しいキャッチボールができました。ありがとうございました。

また一つ、美しいメロディーと、笑いの詰まった、楽しい舞台が終わりました。やっぱり、舞台っていいなぁ。ほんとにいいなぁ。