銀座七丁目オペラ劇場「伯爵令嬢マリツァ」

一週間後にGAGの本番を控えた先週末、それでもインプットは大事、ということで、土曜日の午後、行ってきました、銀座七丁目オペラ劇場。銀座の「ライオン」で定期的に開催されている、菊池美奈さんと瀧田亮子さんが仕掛けている舞台です。私は、銀座の「ライオン」の音楽ビアプラザ(例の「ライオン」のビアホールの5階にあります。)に行くのは初めてなので、そういう意味でもすごく興味があった。さらに、ガレリア座サントリー・ホールのガラ・コンサートで共演させていただいた菊池美奈さんが、マリツァを歌い、さらにさらに、「小公爵」でその美声とテクニックに感動した猪村浩之さんがタシロを歌われる、と聞けば、これは行かずばなりますまい。
 
マリッツァ 菊地美奈
タシロ   猪村浩之
リーザ   海野真理子
ジュパン  手島英
マーニャ  杣友恵子
ヴァイオリン 古館由佳子
ピアノ   黒木直子
企画    瀧田亮子/菊地美奈
訳詞    菊地美奈

という布陣でした。
 
感想を一言で言えば、とにかく、「懐かしい!」。「マリツァ伯爵令嬢」という演目は、ガレリア座の創設期の頃、とにかく何もかも手探りかつ手作りで作り上げた舞台。私も、チラシのイラストを描いたり、本番舞台の背景を描いたりしながら、ジュパンの歌と踊りと演技をこなしていましたし、何より、リーザを演じた女房と結婚してしまう勘違い・・・じゃない、きっかけになった演目でもありました。同じ舞台でタシロを演じたY氏も、隣の席で観劇していましたから、3人して、「とにかく懐かしいねぇ」と言い合う。

その懐かしさ、というのは、「銀座七丁目オペラ劇場」の特徴である、音楽ビアプラザというハコの特性にもありました。客席と舞台の距離が近い・・・というよりも、居酒屋の片隅にある小さな舞台で、まさにお客様と舞台が同じ平面で上演されている、という状況は、初期のガレリア座の舞台を彷彿とさせる上演スタイル。マリツァ演じる美奈さんが、客席の色んなお客様に声をかけていくシークエンス(Y氏も、新宿オペレッタ劇場支配人として「イジリ」の対象になっていましたけど)とか、初期のガレリア座でもこういう遊びをやったなぁ、なんて思いながら、感慨深く拝見。

その上に、出演者のパフォーマンスはもちろん、プロの一級のパフォーマンス。美奈さんの存在感、海野さんの可憐さ、手島さんの怪しいジュパンのツボを押さえたお芝居。杣友さんの、まさに神秘的なジプシー女そのもの、という演技。そして何よりも、難曲がやたらと多いタシロ役の猪村さんの見事な日本語歌唱。哀愁たっぷりに歌われるタシロの名曲の数々を聴きながら、思わず目頭を熱くする場面が何度もありました。

以前もこの日記に書いたかもしれないけど、こうやって、自分が演じた演目を見ていると、自分たちがやった上演スタイルや演出と、その舞台を比較して見て、「この曲を削ったね」とか、「このシークエンスをふくらませたね」とか、そういう見方ができる。Y氏も言っていたのだけど、「やった人間が舞台を見るってのは、全然見方が変わってくるよね」。

そういう見方で見た場合、今回の「マリツァ」は、かなり大胆に登場人物をカットしたおかげで、食事をしながら楽しむ、というスタイルにとてもしっくりくる、シンプルでありながらツボを押さえた実にすっきりした「マリツァ」だったと思います。厳選された曲とシンプルな台本で、最後まで飽きさせず、物語にも音楽にもお客様がしっかり没入できるように、実に見事に構成されていました。

もう一つの感想としては、「やっぱりこういう上演スタイルって、いいなぁ」という感想。以前から、この日記でも、サロン・コンサートのような小規模なハコで、お客様との距離の近いところで表現する楽しみ、ということを繰り返し書いているのだけど、銀座七丁目オペラ劇場は、まさにそういう場所。お客様の目の前で歌い、演じる歌手たちを見られる、というのは、お客様としても嬉しいし、歌い手の側もすごく楽しいと思います。もちろん、目の前で見られている分、ボロも見えやすいから、緊張感も倍加するんですけど、それもまたいいんだよね。自分のパフォーマンスに対する反応が目の前に直接返ってくる緊張感と充実感。

1000人以上のハコで表現する幸せ、というのもあるけど、少人数のハコで、お客様とダイレクトに会話するような表現の幸せってのも確かにあるんだよね、という話を、女房やY氏と語り合う。どんなハコでも、きちんと全てのお客様に自分の表現を伝えることが大事。一級のパフォーマンスを目の前で楽しめた充実感も相俟って、なんだかとても新鮮な気持ちで、すがすがしく会場を後にしました。娘は日記に、「おとうさんとおかあさんと、二人がけっこんしたきっかけになった、『マリツァはくしゃくれいじょう』というオペレッタを見に行きました」と書きました。先生のコメントが今から楽しみ。