東京シティオペラ協会「シンデレラ」〜再演っていいですよね〜

8月5日、たましんRISURUホールで上演された、東京シティオペラ協会「シンデレラ」を鑑賞。今日はその感想を。


夢のような世界を彷徨う王子とシンデレラが、妖精の導きで出会う、このオペラの中で最も独創的でロマンティックな場面。
 
指揮:竹内聡
演出:川村敬一
訳詞:南條年章
 
シンデレラ:大津佐知子
妖精の女王:鈴木さとこ
シャルマン王子:大西啓善
パンドルフ(シンデレラの父親):大石洋史
アルティエール(シンデレラの継母):進 美沙子
ノエミ(シンデレラの義理の姉):高畑知世
ドロテ(シンデレラの義理の姉):勝政美紀
国王:佐々木典
伝令官:松橋孝人
妖精達:浦野なつき・木村優花・関口ひろこ・辻岡美沙子・長山なな子・堀江恵美子
 
合唱:東京シティオペラ協会合唱団
演奏:赤塚博美(エレクトーン)・田島葉子(ピアノ)
 
という布陣でした。
 
この公演、ちょうど一年前、東京シティオペラ協会が渋谷エレクトーンシティで上演した演目。女房はその公演でもタイトルロールを演じ、今回はその再演となります。

そのおかげか、今回は、舞台の流れがとてもスムーズだった気がします。あまり上演機会のない演目、ということもあって、若干手探り感があった前回と比べて、舞台としてこなれている感じがすごくあって、流麗な音楽をストレスなく楽しむことができた。

その大きな要因が、合唱の方々と、妖精達、というコロスの方々に、前回公演に参加された方が多かった、という点がある気がしました。コロスの方々が、音楽が分かっているので、動きや演技に無駄がない。それは「慣れ」ということだけではなくて、もう分かっているから出てくる余裕が、「攻め」の姿勢にもつながる。「ここはお客様が受ける場面だから、もう少しこんなこともやってみようか」みたいな姿勢が、舞台全体の熱量を上げている感じがしました。合唱指導をされた神田宇士さんのおかげもあったのかな。
 

なんでも叶えてくれる安心感のある妖精の皆様
 
二回目、という回数もよかったのかも、と思います。帝劇ミュージカルや劇団四季のように、何十回、何百回と同じ舞台を重ねると、「慣れ」が「馴れ」に変わってしまって、毎回の舞台の鮮度をどう保つか、という別の課題が出てくるのかもしれませんね。

再演っていいなぁ、というのは、今自分自身実感していること。私のようなアマチュア歌手にとっては、同じ演目の同じ役を二回以上演じる、というのは滅多にない機会です。でも、幸運にも、この11月にそんな機会をいただけることになりました。ガレリア座が、20年以上前に上演した「ホフマン物語」で、20年以上前の舞台で演じたのと同じ、クレスペル、という役を歌うことに。

20年の時間を経て、同じ楽譜に向き合ってみれば、以前できなかったことができるようになっている感覚ももちろんあるけど、逆にできなくなっていることも沢山ある。以前見えなかったものは沢山見えるようになっていて、こんな手があったのか、こんな音があったのか、と新たな発見多数。前回は絶対間違った音歌ってたよなぁ、なんて発見も多数。

でも、そういう作業は間違いなく楽しい。当事者の苦労はよく分からないけど、女房のようなプロの歌い手でも、同じような感覚はあるみたい。売れっ子の歌い手さんなら、ヴィオレッタはこれで30回目、なんてことも言えるかもしれないけど、日本のオペラ歌手の大多数を占めるソプラノ歌手の一人である女房にとって、同じ演目のタイトルロールを二回演じることができる、というのは、本当に滅多にない機会だったようです。

しかも、このマスネの「シンデレラ」、いい曲なんだ。甘ったるすぎる、ということで、マスネの他の演目に比べると上演機会の少ないようなのですが、甘美なところは徹底的に甘美でありながら、コミカルなシーンのフランスらしい洒落っ気、王子とシンデレラがそれぞれに抱える苦悩や厳しい現実と、それを突破する想いの奔流、クライマックスの華やかさのコントラストの鮮やかなこと。

女房の持ち声からすると、少し低めの音域で勝負しなければならない難役ながら、曲の美しさ、共演者の皆さんの温かなサポートと、竹内聡さんの淀みないスピード感あふれる指揮に支えられ、豊饒なダイナミクスとメリハリのある日本語歌唱、表情豊かな演技でタイトルロールを演じ切ることができました。


カーテンコールから。前回のシンデレラは白でしたが、今回は青。

王子様役の大西さんや継母の進さん、妖精の女王の鈴木さんも熱演。義理の姉役の高畑さんと勝政さんのアンサンブルの安定感も抜群。その中でも、お父さん役の大石洋史さんには痺れました。この物語の推進力になる役で、お父さんが自分の現状を突破することができたからこそ、シンデレラも現実を突き抜けた夢の世界で、王子様に出会うことができるのだと思います。物語のキーになる役を、大石さんは、コミカルな部分はしっかり押さえながらも、決して過剰にならず、どこまでも貴族の端正さを保ちながら演じてらっしゃいました。声の響きの美しさと安定感、言葉がクリアに届く日本語歌唱の見事さにも脱帽。


かっこよかったですぅ。

無限の色彩のエレクトーン伴奏と、それにエッジを加えるピアノ。このマスネの「シンデレラ」、来年METで初演されるそうで、これから世界で上演機会が増えてくるかも、とちょっと楽しみ。東京シティオペラ協会、METの先を行ってますねぇ。

炉端で寂しげに歌われる「素敵な王子様」の旋律が、クライマックスで至福の表情で再び歌われると、なんだか自動的にウルっと来てしまう。マスネの音楽の魔術。出演者の皆様、スタッフの皆様、魔法にかけられたような素敵な時間をありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします!


今回の王子様と。イケメン〜。