夏の夕焼け

「夏は夕暮れ」という言葉があって、私も子供の頃から、夏の夕暮れは大好きです。特に、お盆が過ぎてからの夏の夕暮れが好き。夕暮れの風の中に、秋の香りがするのがいいんですよね。夕立の後の夕焼けなんて最高。雨のせいで透明度が増した空が様々な色合いの紅に染まると、そんな紅の空気が肺にまで充ちてくるような気分になって、息まで苦しくなるような気がする。

会社に勤めていて、さほどいいことなんてないんですが、都心の高層ビルの上層階に勤めることができたのはラッキー。上層階から見る夏の夕焼けがまた素敵。高層ビルに勤めている醍醐味の一つ。夏の通り雨なんかも見ものです。西の空から灰色の雲が押し寄せてきたかと思うと、窓に雨が叩きつけて滝のように流れる。見下ろす街のあちらこちらに落雷がバコバコ落ちて、地響きでビルが振動する。一度だけ、西新宿の高層ビル街に勤めていた頃、突然の嵐のスペクタクル・ショーの後、東の空に虹がかかって、この時ばかりは、この会社に入社してよかったと思ったのでした。

こんなことを書いているのは、お盆も過ぎて夏らしい気候になって、最近の夕暮れがなかなかいい感じになってきたから。先日も、近所のスーパーの屋上駐車場から、家族で夕焼け空を眺めて、なんともゆったりした気分になりました。とは言いながら、この時期の夕焼けってのは、見ようによってはちょっと怖かったりもする。先日、台風が千葉県沖をかすめて通過した後の夕焼けは、生き物の舌のような生々しい赤に輝いていて、これは相当怖かった。

今読み進めている、例の、養老先生の「バカの壁」の中に、「日本のサラリーマンの大半が、何らかの天変地異を期待している」と言う言葉があって、そうかもしれないなぁ、と思った。実際、この怖いような鮮烈な夕焼けを見ながら、「何か悪いことが起こる前兆かもしれないね」と、同僚たちは嬉しそうに言い合っておりました。昔は夏の夕焼けを見ながら、夏の終りの寂しさと一緒に、豊穣な秋への明るい期待感も感じていたような気がするんだけどなぁ。地球温暖化だの異常気象だので、夏の夕暮れも、昔のような爽快感がない気が確かにしないでもない。でも、ひょっとしたら変わってしまったのは気候だけじゃなくて、夏の夕暮れを眺める我々側の意識も変わっているのかもしれません。