ガーデン・エア・タワー ロビーコンサート「モーツァルト作品を集めて」〜歌ってのは声だけじゃない〜

昨夜、職場のロビーで開催されたイブニング・コンサート。大好きな赤池優さんが出演される、というので、行ってまいりました。

モーツァルト作品を集めて」
赤池優(ソプラノ)・布施雅也(テノール)・青山貴(バリトン)・赤木香菜子(フルート)・福崎由香(ピアノ)

という布陣でした。

歌い手にフルートが加わると、選曲の幅が広がりますね。モーツァルト作品、と言いながら、日本歌曲やシューマンピアノ曲も少し散りばめつつ、実にバラエティに富んだ選曲で飽きがこない。それぞれの演奏者のレパートリーを持ち寄った、というだけではなくて、この編成用にアレンジを加えていたり、構成がとても工夫されていて、楽しめました。

中でもやっぱり、お目当ての赤池さんは本当に素敵でした。モーツァルトの「アレルヤ」、「パパパの二重唱」、中田喜直の「さくら横ちょう」、フィガロの結婚のフィナーレ、を歌われたのですが、「アレルヤ」のコロラトゥーラの技巧を軽々とこなしながら、曲の明るい快活な雰囲気を全身で表現される。またパパゲーナのキュートなこと。でもこういう明るさ、軽さだけでなく、「さくら横ちょう」では、明快な日本語歌唱の中に、胸が思わず切なくなるような、しっとりした叙情を歌いこまれていました。見るたびに表現の幅が広がっていくような、本当に素敵な歌い手さんです。

バリトンの青山さんも、とても色気のある方。温かみのある豊かな響きのバリトンで、パパゲーノのような軽さのある歌も、アルマヴィーヴァ伯爵のような品格のある歌も共に見事に歌いこなしてらっしゃる。柔らかでいながら芯のしっかりしたお声で、実に素晴らしかったです。

テノールの布施さんは、とにかく恵まれた美声と技術を持っている方、と思いました。まさしくモーツァルト歌いのテノール、という感じの、硬質なガラスのようなクリアな響き。その響きが、細い所でも全くぶれない。みごとなブレスコントロールでとても安定して聞こえる。途中歌われた、越谷達之助の「初恋」は、日本語の母音と子音の一つ一つが見事に響いていて、本当に素晴らしい歌唱でした。

ただ、布施さんに関しては、声量があまりないのと、直立不動で歌う姿にあまりに色気がなくて、ちょっとオペラ歌いとしては如何なものなのかな、と思っちゃいました。ドン・オッタービオのアリアを歌われて、確かに見事な歌いっぷりだったし、技術的には完璧だったと思うのだけど、色気がないんだ。東海林太郎がドン・オッタービオを歌ったってつまんないんだよねぇ。

CDなどの音だけの媒体で楽しむ分には、外見であるとか、プレゼンテーション力とか、演技力なんてのはあんまり関係がないのかもしれないけど、人前で舞台に立って歌う以上、その歌をきちんと「演じきる」というか、「あらゆる手段を使って伝えきる」という意識がないとダメなんじゃないかなぁ、と思います。歌の中のメッセージを伝えるのに、楽譜に書かれたメッセージをいかに忠実に声で再現するか、という技術的な部分は、勿論、一番重要ではある。でも、楽譜に書かれたメッセージを、身体全体で表現し、身体全体でお客様に伝えよう、という姿勢がないと、折角の歌が客席に届いていかない、ということだってあると思う。

赤池さんの歌が素晴らしかったのは、赤池さんが、宗教曲であれ、オペラアリアであれ、歌曲であれ、歌を「歌いきる」だけじゃなくて、歌を「演じきる」、歌を、声だけじゃなく、顔の表情や身体全体を使って「伝えよう!」とされている、その全体のプレゼンテーション力が素晴らしかったからじゃないかな、と思います。歌というのは声が一番大事。でも、声はやっぱり、「伝える」ための一つの手段に過ぎない。伝えるために使える手段は、他にも一杯ある。そういう手段を全部使い切って「伝える」ことで初めて、一つのパフォーマンスとして完結するのじゃないかな。そんなことを考えました。勿論、肝心の歌をおざなりにして、その他の手段ばっかりに頼ってしまう中途半端な歌い手さんも多いから、布施さんのように、とにかく技術をきちんと磨いてらっしゃる歌い手さんも、それなりに応援したくなるけどね。若いうちは徹底的に技術を学んで、どこかで表現の幅を広げることを考え始めれば、きっと素晴らしい歌い手さんになられるでしょうねぇ。

例によって偉そうなことを並べてしまってすみません。フルートの赤木さん、ピアノの福崎さんも、とっても素敵な演奏。福崎さんは素晴らしいピアノを弾かれた後のMCがやたらに可愛くて、印象が全然変わってしまった。このコンサートに出演される方はみんな、美男美女が多いのだけど、今回もその例に漏れず、皆さんかっこよくてお美しい方ばかりで、そのあたりでも楽しませていただきました。しかし、赤池さんのドレスはあれはお手製か?おとぎ話の王女さまのようで、ほんとにキュートだったなぁ。