東京フィル第九

会社の関係で招待券が2枚手に入り、行ってまいりました、サントリーホールの第九。クリスマスシーズンに第九を聞くっていうのもなんだか年末ぽくっていいじゃん、と、娘を誘って二人で行く。女房も、クリスマスイルミネーションに飾られたサントリーホールを見てみたい、と、家族3人で行ってきました。


サントリーホールの前のイルミネーションは期待通り素敵でした。

サントリーホールでは、この4月にガレリア座の20周年ガラ・コンサートが予定されています。そういう目で見ると、余計にこの華やかなホールに足を踏み入れるのがうれしくなる。ロビーの雰囲気とか、METのラウンジをちょっと思い出させる大人の雰囲気があって、やっぱり殿堂なんだなーと思う。客席には皇室の方がどなたかいらっしゃっていたらしく、開演前に客席で拍手が起こる。残念ながら我々の席からは死角になって、どなただったのかは確認できず。そういう社交的な雰囲気も含めて、ちゃんとした大人の場所、という感じがします。


いいですよねー。娘はレンコンっていうんですけどね。
 
さて、演奏会のプログラムはこんな感じでした。
 
モーツァルト:オッフェルトリウム「主の御憐れみを」K.222
ベートーベン:交響曲第9番「合唱付き」
 
東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:大植 英次
ソプラノ:アンナ・ガブラー
アルト:スザンネ・シェファー
テノール:ヨセフ・カン
バリトンアンドレアス・バウアー
合唱:東京オペラシンガーズ
 
という布陣でした。
 
何と言っても見ものは大植さんの指揮。当然のように指揮台の上には譜面台はなく、完全に暗譜。体全身を使ってのダイナミックかつケレン味たっぷりのパフォーマンスで、見ているだけで面白い。それだけじゃなくて、やっぱりすごい指揮者なんだなぁ、と思うのは、出てくる音の繊細さ。ここをしっかり聞かせたい、という部分がはっきりしていて、それがタクトにも分かりやすく表れているし、さらに東フィルがそれにきっちり答えてくる。そうか、第九ってこんなに魅力的な旋律に溢れていたのか、と改めて思いました。

ライブでオーケストラの演奏を聴くと、いつもCDとかで耳慣れていたはずの曲の中に、全然気が付かなかった旋律が突然ふっと浮かび上がってくる瞬間がある。あれ、こんなパートがあったんだ、とか、ここでこの楽器が鳴ってたのか、なんて、改めて気が付いたり。その話を女房にしたら、「CDとかの録音の中から個々の音を聞き取るのっていうのは至難の技なんだよね」と言う。確かに、昔、大学の講義をテレコで録音した時に、すごくノイズが多くて講師の声を聞き取るのに苦労したことを思い出す。でも、生の演奏よりも録音の方が情報量は少ないはずだよね。「そうじゃなくて、逆に、生の演奏の時には、人間は聴覚だけじゃなくて、視覚とか空気感とか、五感の全てで音を聞き取ろうとするでしょう。一つ一つの音を聞き取るために、CDとかだと聴覚しか使えない。だから、CDで音楽を勉強してわかったような気になってちゃだめなんだよ。音楽はやっぱり、視覚も含めた全身で感じとるものだから、やっぱりライブを聞くのが一番だし、CDで勉強するなら、ものすごく聴覚を研ぎ澄まして聞かないと。」

第九は何度も聞いたこともあるし歌ったこともあるのだけど、アマチュアのオーケストラの演奏が多くて、東フィルのようなプロのオーケストラの生演奏で聞いたのは初めてかもしれない。それもあって、この楽曲の奥深さをより感じることができた演奏会でした。そして何より、東京オペラシンガーズの合唱がすごかった。テノールのパートソロがあんなにかっこよく響く第九を初めて聞きました。一番感動したのはソリストと合唱団の入場のやり方。第四楽章が始まっても舞台上に歌い手がおらず、どこで歌うのか、と思っていたら、例の低弦の主題が鳴り始めた時、上手からそっとバリトンソリストがゆっくりと入場、次にテノール、アルト、と続き、最後にソプラノが入場。そしてTuttiになったところで、音もなく合唱団が入場してくる。それがまさに、「歓喜によって人々が兄弟となる」第九のテーマに見事にマッチしていて感動。やられてしまえば成程、と思うのだけど、なかなかできない演出だよねー。

娘は、演奏会の前には、「第九にはあんまり興味はないんだよねー」とか、「途中で寝ても起こさないでね」などとネガティブ発言ばかりしていたのだけど、実際の演奏会が始まってしまえば、ずっとチェロの演奏に注目していて、「第四楽章のチェロって最高にかっこいいい!」とご満悦でした。いつか第九の演奏会で同じ舞台に乗れるといいね。