新宿オペレッタ劇場10〜貧乏性〜

先週は木曜日から社外研修に出かけていて、この日記もしばらくご無沙汰しておりました。ご無沙汰しているうちに世間は8月になっちゃいましたねぇ。時の流れは本当に速い。

さて、例によって、週末のインプットを並べましょうか。

・水曜日、新宿オペレッタ劇場10を見に行く。ちょっと疲れた。
山本周五郎の短編集「おごそかな渇き」を読了。今年は山本周五郎読破年にするぞ。
村上春樹「国境の南 太陽の西」を読了。永遠なる不充足感。
・録画していた黒澤明「夢」を見終わる。純然たるプライベートフィルムだね。
・録画していた「日本海大海戦」を見終わる。戦争映画が製作できた幸福な時代。
大田区民オペラ合唱団の練習に参加。
 
・・・なんか、今週中に書ききれるかしら。とりあえず、水曜日に行った、新宿オペレッタ劇場10のことを書きましょう。

出演歌手(順不同):
三塚直美/佐藤一昭/嶋崎裕美/北村哲朗/三角枝里佳/相馬 純/北澤 幸/清水良一/菊地美奈/柳 隆幸/赤池 優/近藤政伸/猿山順子

ピアノ伴奏:児玉ゆかり

という布陣でした。
 
新宿オペレッタ劇場の支配人、という男は、私の舞台仲間、というか、腐れ仲間です。この男、無類のオペレッタキチガイであると同時に、無類の貧乏性でもあります。某ガレリア座という団体で、サントリーホールでガラ・コンサートをやった時、「もう二度とサントリーホールが使えるかどうか分からん」という脅迫観念に取り付かれ、客のこともオケのことも一切考慮しない4時間のてんこ盛りコンサートを敢行した男です。

この男、私と同い年の40歳なんですが、「オレは絶対に長生きできん。あと20年くらいしか生きられない。だから、とにかく新作をやりたい。新作を聞きたい。昔の作品なんか再演している余裕はない」という脅迫観念に取り付かれているのです。気持ちは分からないでもない。私も最近、とみに体力の衰えや、色んなところの痛みに悩んでいる。そして、1つの企画をきちんと仕上げるのには時間が必要です。例えば1年かかるとすれば、残り20年、あと20作品しか上演できないわけです。世の中に、まだまだ日本に紹介されていないオペレッタの佳作、というのが、それこそゴマンとあります。ゴマンvs20作品、と考えれば、焦りも募ろうというもの。

・・・でもねぇ、歌い手からするとね。新宿オペレッタ劇場 第10回記念コンサート、と言われたら、「あの時、あんなに焦ってわちゃわちゃと歌ったあの歌を、今度はもっとしっかり、きちんと歌いたいなぁ」と思うよ。絶対そう思うと思うよ。観客の方もね、「あの歌、もう一回聴きたいなぁ」と思うのよ。絶対そう思う。でも「あと20年」という脅迫観念に取り付かれた貧乏性の支配人は、そんな周囲の思惑だのなんだのには耳を貸さないわけです。かくして、例によって例のごとく、並んだ並んだよくも並んだ、聞いたこともない作曲家の聞いたこともないオペレッタの聞いたこともない歌の数々。まさにドプリンガーの蔵出しコンサート。プログラムの最後のページに掲載された、マメツブのような「過去上演作品リスト」を見て、女房ともども噴いておりました。貧乏性ここに極まる。

しかし、この劇場はまさしく、オペレッタフリークによる、オペレッタフリークのための劇場。それが、決してオペレッタフリークではない普通の人々の心も捉えてしまう所が、オペレッタの曲の魅力と、歌い手の方々の力量のおかげなんでしょうね。次から次から登場する歌手のバラエティと、次から次から登場する聞いたことのない歌の数々に、少々ゲップの出そうな豪華なフルコースをいただいたような、なんとも贅沢な時間を過ごさせてもらいました。

魅力あふれる歌い手の皆さんの一人ひとりについて述べていくと、もうキリがないので、本当に一言ずつ。三塚直美さん、どこまでも柔らかく伸びのあるお声。隣の女房が「うまいなぁ」と絶句しておりました。佐藤一昭先生、オペレッタを歌わせたらまさに水を得た魚。ピアニッシモの切なさが見事。嶋崎裕美さま、真っ赤なホリゾントとロスコの前で、シルエットで決められる歌い手さんに出会えて、私は本当に幸せでございます。北村哲朗先生、洒落っ気と構成力と見事なコントロールの共存。三角枝里佳さん、本当になんて美しいの。初めてお会いした旦那さまも素敵でした。相馬 純さん、声の響きが本当に安定してきましたよねぇ。ダンスも決まってました。

北澤 幸さん、これぞオペレッタのメゾ。色気と柔らかさと茶目っ気の素晴らしいバランス。清水さんとのデュエットは最高。清水良一さん、ただの茶目っ気ではない、歌の構造を完全に理解し再現する高度な歌唱。菊地美奈さん、こういう歌をこういう風格できっちり仕上げてくる安定感。見事です。キャンディキャンディ衣装も素敵。柳 隆幸さん、甘い声と二枚目半のキャラクターの絶妙な共存。赤池 優さん、もうあの瞳を見ているだけで私は幸せ。近藤政伸先生、品格と色気とテクニックと素晴らしい求心力。猿山順子さん、軽やかで可憐。オペレッタには欠かせないキャタクターソプラノ。

終演後の打ち上げ会場にもお邪魔させていただき、例によって先生方と楽しい時間を過ごすことができました。児玉さん、一人で2時間弾きっ放し、本当にお疲れ様でした。貧乏性の支配人はじめ、歌い手の皆様、訳詞家の三浦真弓ちゃん、照明のTさん他の新宿文化センターのスタッフさんたち、このゴージャスな時間を作り上げた全ての方々に、本当にお疲れ様でした。楽しい時間を、本当にありがとう。