変わっていくこと、変わってはいけないこと

あけましておめでとうございます。今年も例によって、この駄文を綴ってまいります。ご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

さて、今日のタイトル、なんか、毎年年始になるとこのテーマで書いている気がしますね。でも、年始ってのはそういう時期なんですよね。1年の中でも、「年中行事」が一番集中している時期ですから、どうしても「変化」ということに対して過敏になってしまう。昔の人が、「月やあらぬ 春や昔の春ならぬ」と嘆いたのと同じ感慨ですね。

我が家では、年末から年始にかけて、女房の実家と合流して、花巻温泉でのんびり過ごす、というのが恒例になっています。充実した温泉と美味しいお料理に囲まれて、本当にくつろいだ年末年始。今年は例年になく大雪で、雪が大好きな娘は大喜び。軒下にぶらさがる長い透き通ったつららを折って、小さな雪だるまの腕にしたり、東京では決して味わえない雪国の遊びを満喫しておりました。

この花巻温泉という保養地、経営難で外資投資ファンドに身売りしてしまった国際興業グループの傘下にあるホテル。バブル崩壊の波をモロにかぶったこともあり、私が女房と結婚して以降、急激にホテルのサービスが悪くなってしまった時期があります。お料理の質やルームサービスの質。体制変更の過渡期には混乱や試行錯誤が宿泊客にもはっきり見える形で現われてしまったりした。ここ数年、景気が好転し、経営が安定してくるとともに、サービス品質も安定してきて、かなり安心できるようになりました。でも、今から振り返ってみると、以前のサービスというのは、本当に最高級のサービスだったんだなぁ、と、いまさらのように実感します。贅沢のできる自分の別宅、とでも言うような、お客様一人一人を特別扱いしている感じのする最高級のサービス。

例えば、以前は、こちらの名前と顔を全部覚えていてくれている仲居さんがいました。女房の名前を覚えていて、結婚して私が加わったら、こちらが何も言わなくても、「ご結婚されたんですね、おめでとうございます」と、気の利いた小さな贈り物をくれたりした。いつもの浴衣のサイズから、お布団の上げ下ろしのタイミングまで、こちらが何も言わなくても、その仲居さんが全部把握してくれている。こちらが何かと指示しなくても、黙って先に目配りをしてくれている。大浴場を出れば、入浴客のスリッパは常に行儀よくきれいに並べられていた。お料理の膳には、必ず一品、「これはすごい」と思わせる創作料理が混じっていた。そういう細かい所まで、本当に行き届いた、素晴らしいホテルでした。

でも、最近は、お布団の上げ下ろしなどのルームサービスには、ホテルのスタッフではなく、外部業者が入っていて、時々お布団の数を間違えたりする。大浴場のスリッパはいつもてんでんばらばらの向きを向いている。細かい話なんですけどね。コスト削減を進めていくと、そういう細かい作業のノウハウを持っていた人材が、維持できないんでしょうね。ホテルというのはそういう細かいサービスの積み重ねがすごくよく見える業種だから、逆に経営者は難しいだろうなぁ。

と、この文章、いつかこの日記で書いたことのある文章に似てるなぁ…と思って考えてみると、我々夫婦が結婚式を挙げた、都ホテル東京で書いたのと同じ話ですね。結婚式以来、毎年の結婚記念日には、夫婦で都ホテル東京に泊まっているのですが、このホテルも、外資系ホテルの傘下に入ってから、ホテルの雰囲気が随分変わりました。

こういうことを書くと、「だから外資系はよくないんだよね」と言いたがっているように誤解されるかもしれませんが、そういうことではないと思います。外資系でも、東京のホテルランキングで常に第一位を獲得している、新宿パークハイアットホテルといったすごいホテルもある。それこそ同じ国際興業グループの傘下にある帝国ホテルだって、サービスの質がそれほど下がったという話は聞かないですよね。(常連のお客様には別の感想があるのかもしれないが…)

以下は私見ですけれど、外資系であるかどうか、という問題というよりも、ホテルの経営者の発想が、「差別化」と「集中」という、最近のビジネスで必須のキーワードに沿って動いている結果じゃないかな、という気がします。最高級のサービスとスタッフをそろえ、VIP顧客を集客する、帝国ホテルのような旗艦ホテル。それに比べて、「このホテルのメインの客は、ビジネスマンだ」とターゲットを絞れば、都ホテル東京のように、アメリカンスタイルの合理的なサービスが前面に出てくる。「このホテルのメイン客は、首都圏からの観光・スキー・温泉目当ての家族客だ」とターゲットを絞れば、花巻温泉のように、旅行代理店を経由したパックツアー客を中心とした、低価格・低コストでのサービス提供が勝負どころになる。スキー客にも安いお値段で泊まってほしいけど、家族で長逗留してのんびり、というような贅沢なお客様にも、やっぱり最高級のサービスを、なんていう、「あれもこれも」のサービスを維持するには、コストやムダがかかりすぎる。

どのホテルを経営されている方も、そういった「選択」「差別化」「集中」という所で常に悩みながら経営されているのだと思います。そういう経営戦略の中で、ターゲットから外れてしまった常連客の足が遠のいてしまったり、サービスの低下を嘆く声が出てくるのはある意味、仕方のないこと。でも、ホテルというのは、集まってくるお客様が作る雰囲気が、そのホテルの雰囲気を作ったりする空間でもありますから、そうやって集まってくる客によって、ホテルの性格自体がどんどん変化してしまうんですね。我々夫婦にとっては贅沢すぎる、本当に快適なホテル滞在ではありましたけど、夫婦して、「昔のサービスは本当にすごかったねぇ」と、なんとなく寂しい気持ちも感じておりました。あの仲居さん、元気でらっしゃるかなぁ。