「あかんべぇ」〜宮部みゆき流予定調和の世界〜

週末、図書館で借りてきた、宮部みゆきさんの「あかんべぇ」を読了。宮部みゆき流時代小説の予定調和の世界を楽しむ。予定調和、というのは悪口ではなくて、「収まるところに収まっていく」快感がいいんです。女の子が主人公、という所、ストーリーが割とシンプルな所、これはジュブナイルだなぁ、と思って読みました。霊験お初シリーズの「天狗風」に共通する感じ。特に傑作、とは思いませんが、きっちり楽しませてくれる。やっぱりハズレのない作家ですねぇ。

宮部さんは、こういう幽霊ものも含めて、沢山の超能力モノを書いてますよね。でもいつも面白いなぁ、と思うのは、普通の超能力ではなくて、どこかに宮部さん流の「制限」とか、「理屈付け」があるんです。この「あかんべぇ」でも、「幽霊が見える人と見えない人がいる」という理由に、宮部さんらしい「理屈付け」があって、それがストーリの重要な部分を占めている。と同時に、ありうべからざる幽霊という存在に、リアリティを与えている。タイムトラベルものの「蒲生邸事件」も、単純なタイムトラベル能力ではなかったし、「クロスファイア」の青木淳子の発火能力、というのが、非常にリアルに描かれていたのは、それが女性の生理に似た生理現象として捉えられていた点も大きいと思います。

ちょっと惜しいなぁ、と思ったのは、玄之介の過去が知れる展開のようなワクワク感が、他の幽霊さんにもあってもよかったのになぁ、ということ。他の幽霊さんの過去が判明していく過程が、なんだかばたばたっとしてしまった。「レベル7」のあのめくるめく謎解き、どんでん返しの迷宮のようなカタルシスがちょっと弱いなぁ、と思っちゃいました。

でもまぁ、この本の主題はそういうサスペンス部分にあるのではなくて、幽霊さんという存在を通して、生きている人間の哀歓を描く方に主眼がある。兄弟の葛藤、親子の葛藤、男女の葛藤。そういう生きている人間の葛藤を、幽霊が映し出していく。そして悪霊が去った後、生きている人間の間の葛藤が精算されていく爽快感。

舞台が料理屋、ということもあり、細かい料理の描写には、池波正太郎の諸作品を読むようなこだわりを感じました。宮部さんの作品は、引き続き追いかけていこうと思っています。