時代小説の楽しみ11『魔界への招待』〜ホラー小説の命脈〜

先日読んだ時代小説のアンソロジー「闇に立つ剣鬼」が面白かったので、また図書館で借りちゃいました、時代小説のアンソロジー新潮文庫の「時代小説の楽しみ11『魔界への招待』」。でもここで、普通の剣豪小説とかに手が行かないで、まず「魔界への招待」なんていうオドロオドロしいアンソロジーを借りちゃう所が、悪趣味なところだよねぇ。分かっちゃいるんだが。

この新潮文庫のアンソロジー縄田一男さんが編集されたもので、ネットで見ると、時代小説のアンソロジーの決定版、という感じらしいですね。実際、この文庫本に納められた作品群を読むと、伝奇小説のバラエティをきっちりそろえつつ、各作家の個性が凝縮された好中短編がそろっている。バラエティに富んでいて、しかもはずれがない、というのがすごいことだと思います。

いわゆる伝奇小説、とか、ホラー小説の類に踏み込むきっかけになったのは、少年時代に読んだ江戸川乱歩だったりします。さらに、中学・高校時代に角川が仕掛けた横溝正史ブームで、横溝正史の絢爛たるドロドロホラー小説を読み、その醜怪にして耽美な世界にハマる。

でも今回、このアンソロジーを読んでみると、戦前派の作家と言われる野村胡堂岡本綺堂、あるいは山田風太郎や柴田練三郎が、極めて完成度の高い伝奇小説の世界を作り上げていることに驚きました。江戸川乱歩横溝正史の世界というのは、こういう伝奇小説の山脈の中に連なる一つの峰に過ぎなくて、他にも堂々たる巨峰が数多くそびえているんですね。以前から、江戸川乱歩が活躍した大正末期から昭和初期の爛熟した文化、というのにすごく興味があるんですけど、そういう時代背景もあるのかもしれない。

例によって、特に印象に残った作品を並べておきます。角田喜久雄の「蝋怪」。まさしく横溝正史に連なる猟奇的世界。野村胡堂の「大江戸黄金狂」。子供の頃に読んだモーリス・ルブランの「怪盗ルパン」シリーズのような、ワクワクドキドキの冒険物語。いいなぁ。山田風太郎の「幽霊船棺桶丸」。山田風太郎さんは「魔界転生」を読みましたけど、血液とか粘液とか、なんだかぬるぬるした液体に絡めとられるようなべっとりした読後感がたまらん。光瀬龍の「多聞寺討伐」、すごく、「百億の昼と千億の夜」っぽい話だったけど、なんだかよく分からなかった。半村良の「太平記異聞」。久世光彦さんの、「一九三四年冬――乱歩」(これもすごく面白かったなぁ)に出てきた、くちなし姫の話を思い出しちゃった。

中でもすごく印象に残ったのが、柴田練三郎の「木乃伊館」。なんとも陰惨な話なんですが、いくつもの入れ子構造になった迷宮のような物語世界に迷い込み、最後にそれが一刀両断されるようなカタルシスが素晴らしかった。なんとも切ない読後感があったのが、大好きな藤沢周平さんの「荒れ野」。この作家には珍しい怪談の形をとりながら、哀愁漂うラストシーンは、紛れもない藤沢さんの作品。

このアンソロジー、全部で12巻あるらしいので、ちょっと追いかけてみたいと思っています。時代小説ってやっぱりいいねぇ。