日本怪奇小説傑作集(1)〜やっぱり日本語がきれいじゃないとね〜おまけの「あずきおばけ」〜

時々インプットしたくなるホラー系コンテンツ、今回は、図書館で見つけた、創元文庫の「日本怪奇小説傑作集」。ラインアップされている作家の名前を見て、迷わず選択。だってあなた、この作品一覧を見てごらんなさいよ。

小泉八雲「茶碗の中」
泉鏡花「海異記」
夏目漱石「蛇」
森鴎外「蛇」
村山槐多「悪魔の舌」
谷崎潤一郎「人面疽」
大泉黒石「黄夫人の手」
芥川龍之介「妙な話」
内田百輭「盡頭子」
田中貢太郎「蟇の血」
室生犀星「後の日の童子
岡本綺堂「木曾の旅人」
江戸川乱歩「鏡地獄」
大佛次郎「銀簪」
川端康成「慰霊歌」
夢野久作「難船小僧」
佐藤春夫「化物屋敷」

これだけ素晴らしい作家たちの名前を並べられちゃったら、別に「怪奇小説」なんて銘打ってなくても、「読まねば」という気になっちゃうでしょう。めくるめく怪異と幻想の世界のバラエティはもちろん、何よりも、その日本語の確かさ、語り口の見事さ、そして素材の新しさに感動する。

特に印象に残った作品をいくつか。夏目漱石「蛇」。人間存在を押しつぶすような圧倒的な水の量感と、その中にぽとり、と落ちる一瞬の怪異。あまりに不条理で、不可解で、その不条理さがものすごく現代的でスタイリッシュ。夏目漱石って、ほんとに古びない人だと思う。谷崎潤一郎「人面疽」には驚嘆。これって、「リング」そのものじゃないか。発想の新しさと素材の不気味さ、谷崎らしい官能表現の絶妙なバランス。

芥川龍之介「妙な話」は、芥川自身が、「これは本当にあったこと」として、その怪異に心底戦慄している様子が見える。どこかしらモーツァルトのレクイエムを思わせるような一人称のリアルな恐怖が、芥川らしいねっとりと濃密で神経質なタッチで描かれる絶品。大佛次郎「銀簪」は、ギリギリと最後の悲惨な結末に持っていく構成の力がすごくて、最後の最後まで緊張感が途切れない。

中でも、室生犀星「後の日の童子」には感動。日常生活の中にひっそりと、何気なく存在する怪異が、遺された者の哀しみから生み出されているそのリアリズム。そんな重たい現実が、胸を締め付けるほどに美しい日本語で、静かに静かに語られるからこそ、余計に、涙なしには読めない、本当に哀切極まりない名品でした。

他の作品も実に素晴らしくって、このアンソロジーのシリーズ、ちょっと追いかけてみようかな、と思っています。
 
あと、これはおまけの話。
別に、怪奇小説を読んだから、というわけじゃなかったんだけど、先週末行った図書館で、松谷みよ子さんの「日本のむかしばなし」のシリーズを見つける。これは娘に読んであげたい、と思って、日曜日の夜、娘に、「あずきおばけ」のお話を読んであげました。怖い話ってわけじゃなくって、ほとんど落とし噺のような、笑えるお化け話なのだけど、案の定、娘は夜中にフミャーと泣いて起きてしまった。娘の部屋の時計の音が、あずきおばけの「しゃかしゃかしゃか」というあずきを洗う音に聞こえて怖くなっちゃったんだって。そういうことって、あったよなぁ。