プロジェクトX〜省略と修飾〜

今週の火曜日に放送されたプロジェクトXが、淀川工業高校のグリークラブを取り上げている、というので、周辺でかなり話題に。ばたついていてリアルタイムでは見られなかったのですが、昨夜、録画していたのを見る。

プロジェクトX、という番組は、出てきたばっかりの頃、その斬新な切り口と、感動的な物語に衝撃を受けました。バブルを経て完全に自信を失っていた日本人への、「昔の日本人はこんなにすごかったんだ」「俺たちだってできるはずだ」という強烈なメッセージ番組。そのメッセージをとても素直に受け止めて、「いつか我が社もプロジェクトXに出るんだ」というのを、会社の公式目標に掲げている会社もあるそうな。

そうなってくると、この番組、非常に胡散臭くなってくる。当初放送されていた頃には、大きなプロジェクト、大きな事件の陰で奮闘した無名の人々のドラマ、ということで、「よくこんな題材見つけてくるなぁ」「こんなことがあったのか」と、題材そのものの斬新さに感動することも多かった。さらに、番組の作り方自体が、もっと淡々としていて、ドキュメンタリー色が強かった。決して滑舌のいいわけではない田口トモロヲさんを採用したのも、その淡々とした語り口が、ドキュメンタリー性を高めたからだと思います。しかし、田口さん、AVとか、塚本晋也さんの自主映画に出てた頃に比べると、すっかりメジャーになりましたねぇ。

しかし、最近のこの番組を見ると、ドキュメンタリー、というより、ドラマ、ですね。とにかくドラマティックにするために、そうとう修飾されている部分があるし、相当省略されている部分もある。プロジェクトXがすっかりメジャー番組になった後、あるNHKのラジオ番組に出ていた永六輔さんが、「僕はああいうパターンにはまった美談を流す番組は大嫌いです」と言い切っていて、大笑いしたことがあったのですが、全く同感。

淀川工業高校のグリークラブが、幾多の困難を経て全国大会で金賞を取るまでの軌跡、というのは、確かに感動的な物語だし、「知られざる物語」でしょう。荒れた生徒たちが、コーラスという目的と情熱を持ってぶつかってくる教師に出会い、自分の価値に目覚め、人生の生き方を学ぶ、という姿は、確かに感動的です。

でも、背景をある程度知っている人間が見たとき、ドラマをシンプルにするための省略、という以上の省略が存在していることに驚く。そうなってくると、省略、というよりも、それは修飾だろう。例えば、今回の淀川工業高校の話で、女房と私が「うーむ」とうなってしまったポイントが3つありました。

1つ目は、淀川工業高校が、荒れた学校で音楽とは全く無縁な学校、という位置づけで描かれていたこと。しかし、淀川工業高校には、合唱部よりも長い歴史を持つ、「吹奏楽部」という存在があるんです。この淀川工業高校吹奏楽部については、以前この日記でも取り上げたことがあります。確かに、吹奏楽部には専用の練習室があって、合唱部には専用の練習室もなく、ピアノも長らくまともなものがなかった、というのは事実のようですが、「音楽とは全く無縁な荒れた学校」ということではない。吹奏楽、という音楽を通して、生徒に目的意識を持たせるアプローチは、この学校では既になされていたはず。そのあたりの関係がよく見えない、というか、あえて見せないようにしているように思えました。まぁ、「音楽なんてだっせー」と言う生徒達が変貌していく、という方がドラマになりますからねぇ。

2つ目は、淀川工業高校が金賞を受賞した、「御誦」の演奏。実は昨夜、番組を見る前に、この金賞受賞の演奏録音を、女房が聞かせてくれたのです。前半は、本当に背筋にぞわっと来るような、迫力とエネルギーに充ちた名演なのですが、後半になってかなり失速してしまう。音程の粗さ、歌唱法のテクニックの未熟さが表に出てしまって、ハーモニーが破綻する部分もある。全体として名演であることに変わりはないのですけどね。番組では、この後半部分を完全にカットしてました。まぁ、これはしょうがないか。時間の問題もあるし、一番いい所を切り取った方が、ドラマになるからねぇ。

3つ目は、番組では、「日本一」「日本一」と連呼していたけど、この「御誦」の演奏で、淀川工業高校は日本一になったわけではないはずなんです。この年の高校の合唱コンクールでは、金賞団体は5団体ほどあったはず。番組でも紹介されていた安積女子高校は、この年も金賞を取ったはず。番組を見たら、安積女子高校を破って日本一になったように見えちゃうけど、それは事実と違う。前述の通り、「御誦」の演奏は、名演ではあるけれども、完成度が高い演奏とはいえないものでした。でもまぁ、「金賞」という、合唱界の頂点に立った、というのは事実だからねぇ。

プロジェクトXという番組がまとってしまったそういう胡散臭さが、最近のこの番組の感動を削いでいる気がどうしてもしてしまいます。「美談」「ドラマ」に仕立てようとするために、かなり大事な部分で「省略」や「修飾」がなされてしまう。多少なり、その背景を知っている人間が見ると、どこか「シラケ」た気分になってしまうんですよね。

それでも、そういう胡散臭さによって飾られていながら、高嶋昌二さんという、淀川工業高校グリークラブの指導者の個性と情熱は伝わってきました。そして、このパワーあふれる先生によって、「かけがえのない自分」を発見した子供達の変化のドラマは、確かに見ごたえがありました。事情通ぶってないで、素直に感動した方がいいのかもねぇ。なんだか、日本語の合唱曲を歌いたくなってきたなぁ。