地縁を支える「学校の先生」

地縁、というものが消滅しつつある現代日本ですが、今でもやっぱりこの地縁というものは残っていて、たぶんその一つの拠点になっているのが、地元の学校なんじゃないかな、と思う。その地域の公立小中学校、地元の高校で机を並べた同級生の絆。部活動を共にした仲間の絆。学校を中心とした人のつながりは、学ぶ子供だけじゃなくてその父兄も巻き込むので、そこに大きな人の輪が生まれる。多くはゆるやかな結びつきなのだろうけど、全国レベルの部活動を支える父兄会などは、子供以上に組織化された共同体になっているのかも、と想像。

私自身は、といえば、小学校時代は転校を重ねたこともあり、中学校からは、神戸の学校に大阪から遠距離通学していた、ということもあって、あまり、地域の学校で結びついた「地縁」ということを実感できずにいます。でも、あえてそれを感じるといえば、学校、というよりも、先生、なんですね。小学校時代の音楽の先生。

私が卒業したのは、大阪の長居小学校、という学校なんですが、この学校の音楽の先生が、松前幸子先生、という、児童合唱指導に情熱を傾けている先生でした。この先生に、「あんた、歌上手やなー。」と褒められたのが、現在の私の歌唱活動の出発点になっていると思う。長居小学校は、児童合唱の大会でも上位入賞を続け、その後、長居小学校の合唱部を母体にした、「大阪すみよし少年少女合唱団」が発足、ネットで見ると、今年の4月には創立40周年記念演奏会を開催した、とか。松前先生はまだ指揮をされているみたいで、お元気なんだー。うれしいなー。

学校を中心にしたこういう活動って、当たり前ですけど、原則、非営利活動になりますよね。スポーツ活動、芸能活動、地域のお祭り。経済活動と結びついていないから、数値化することが難しい。安部内閣が「地方創生」なんて言っているけど、経済指標に直接的に寄与しないこういう地域の活動が、地縁を生み、地方を活性化する見えない力になっている側面って、あると思う。経済指標だけに注目すると、企業誘致だの土木事業だのにばかり目が行ってしまうのだろうけど、地域の学校を中心とした色んな活動への支援や、教育の充実が、地域の力を高める、という要素もあると思う。地方の力を高めるために、地域を支える学校の力を高めることって、すごく大事なことなんじゃないかな、と。もちろん、学校には、相応のアウトプットを出す義務が生じるんだろうけど、それは経済活動ではなくて、地域の非営利活動を支える拠点としての役割をきちんと果たす義務、なのじゃないかと。そして、学校の力を高めるには、指導者の力を高め、支える必要がある。部活動の顧問やったおかげで休日出勤、それもただ働きが増加して疲弊する、なんて話をいっぱい聞きますけど、そういうところを改善しないといかんのではないかと。

なんでそんなことを考えたか、というと、ここ数週間、我が家では、地元に根差した活動が続いたせいです。ずらっと並べてみると、
 
・8月24日、府中青少年音楽祭に、私が麗鳴の一員として参加。
・同じ8月24日、府中を拠点に活動されている川村敬一先生のテノールコンサートに、女房がゲスト出演。八ヶ岳の綺麗な教会でのコンサート。
・8月31日、娘が小学校5年生までお世話になった、府中のむさしの学園の同窓会。娘は、すっかりでかくなった同級生たちとカラオケで大盛り上がりだったとか。
 
特に、私が、活動の拠点としての「学校」の力、それを支える指導者の力、というのを実感したのは、府中青少年音楽祭。地元の小中高校生を母体とする合唱団と、そのOBで作る合唱団が出演。OB合唱団とはいえ、青くも少なくもない、どっちかといえば赤くて多い私みたいなオッサンが「青少年音楽祭」に出演すること自体、一種の罰ゲームのような気がしないでもないんですが、そんなオッサンが驚嘆するようなクオリティの高い演奏、パワーあふれる演奏が続く。それを支えているのは、やっぱり優秀な指導者なんですね。府中四中を指導されている横田純子先生、西高を指導されている櫛田豊先生(ウィテカーは鳥肌ものでした)。そして、大阪の松前先生のケース同様、学校合唱団の活動が外へ広がっていく。府中の子供たちを集めた府中少年少女合唱隊。横田先生の指揮される府中四中OB合唱団のA.D.Aの見事なパフォーマンス。西高出身の中館先生は、合唱指導者として、麗鳴だけでなく色んな合唱団を指揮されているし、西高卒業生には、今をときめくテノールの望月哲也さん、ソプラノの半田美和子さん、バリトンの青山貴さんなどがいて、府中でのコンサート活動も継続されている。地元に根付いた活動がしっかり維持され、受け継がれて、外に向かって広がっていく。

そういう合唱団の活動を支えているのが、学校という場であり、聴衆を集められる立派な会場であることは確か。青少年音楽祭を講評された鵜崎庚一先生も、「府中はこの府中の森芸術劇場という素晴らしいホールを持っている、というのが最高の強みだ」とおっしゃっていて、それも一つの要因だとは思う。でも、学校も会場もハコモノにすぎなくて、合唱団が活動する必要条件ではあっても、十分条件ではない。やはり、優秀な指導者がいなければ。

高校野球の監督、というのは大変なお仕事だ、という話をよく聞きますが、公立学校の合唱部の指揮者、というのも同じように大変な仕事だと思います。大きな大会で実績を上げたり、過去立派な演奏活動を続けた歴史があったりすると、OB/OG、地元有力者からの有形無形のプレッシャーが半端ないそうです。現役学生の父兄からも様々な要望が飛んでくるだろうし、もしかしたらモンスターペアレント的なご要望に対応しないといけないケースもあるかもしれない。一方で、体罰禁止だのなんだのと指導上の制約も多い中で、労働対価は雀の涙。その中で、成長する子供たちの姿や、一つの作品を完成させる喜びをモチベーションにして頑張っている先生たちを見ると、ひたすら頭が下がります。

8月24日には調布の花火大会があり、8月31日には調布よさこいもあって、夏は自分の住む街への地縁を強く感じる季節。ガレリア座の活動や会社などで結びついた人の縁も大事だけど、ご近所で活躍されている川村敬一先生とのご縁や、娘のむさしの学園での同級生のご縁など、調布・府中という土地に根付いたご縁を、これからも大事にしていきたいと思います。地元の学校で頑張っている教師の方々を応援しつつ。そういえば、地元じゃないけど、知り合いの顧問教師の方が頑張って指導されている、東大和高校吹奏楽部のみなさん、東京都高等学校吹奏楽コンクールC組金賞おめでとうございます。恐ろしくタイミングを逸したコメントだな。