機内映画棚卸し

まずは見た映画を片っ端から。
 
・「アンコール!」

最近飛行機で見た映画が、「東京家族」だったり「愛、アモール」だったり、妙に老夫婦の映画が多くて、この「アンコール!!」も老夫婦の話。それも合唱がネタだ、というので見たのだけど、合唱はあんまりネタになっていなくて、むしろ歌うこと自体がネタになっている。そこが何となく引っかかる。「天使にラブソングを」でもそうだったし、「Glee」を見てても思うけど、いわゆる合唱曲ではなくて、ポップスやロック、ソウルの方が「カッコイイ」音楽として取り上げられることが多いんだよね。「アンコール!!」でも、第九を上手に歌っている合唱団を見て「つまんない」と言い切ったり。ポップスやロックを否定する気はないんだけど、クラシックの合唱曲を否定されると、それは違うだろう、と思ってしまう。じいさんばあさんのロックが妙に上手すぎるのも違和感あり。

まぁそのあたりは抜きにして、テレンス・スタンプヴァネッサ・レッドグレーヴの老夫婦の円熟の演技だけで泣けちゃいます。合唱のお話、というよりも、音楽によって解放されていく心、というとらえ方をした方が素直に見ることができそう。笑いと涙のバランスのいい佳品でした。子供と動物を使うのは反則、というセリフがあったけど、老人を使うのも一種の反則のような気がする。というか、そういう夫婦の描写に感情移入してしまうくらい、私自身が年を取った、ということなんでしょうが。
 
・「俺はまだ本気出してないだけ」

娘が友達と映画館に見に行って、面白かった、というので見てみたんですが、いやー不愉快な映画だった。誰一人としてポジティブな感情移入ができない。生瀬勝久さんの演じる主人公の友達と、キャバクラでいじめられるオッサンあたりに思わず感情移入しちゃうんだけど、決して前向きな感情移入じゃなくて、「身につまされる」という感じの感情移入。ほくろのおっさんを演じる村松利史さんの演技がまた不愉快なんだ。橋本愛さんは本当にきれいだったし、石橋蓮司は素晴らしかったし、どうしようもないけどよくできた映画だとは思うんだけどさ。

この映画のずるいところは、主人公が「俺はまだ本気出してないだけ」という漫画を完成させ、最終的には成功する、という実世界でのサクセスストーリが観客に分かっているから。そこまで描きこまずに、とにかくどうしようもないところであがき続ける姿を描いても、「結局この人、最後には成功するんだよね」と思いながら見ることができる。でもそれって映画としての爽快感を犠牲にしてる気がするけどなー。逆に、肩入れしてしまうような主人公じゃないから、どん底で馬鹿ばっかりやってる姿に、「当り前だバカ」と思いながら見ることができるのかもしれないけど。それにしてもこれが日活の100周年記念作品っていうのはどういうことだ。
 
・「奇跡のりんご」

同じように、「結局この人、最後には成功するんだよね」という確信と共に見ながら、主人公に肩入れして見たのが「奇跡のりんご」。「俺はまだ・・・」は、「奇跡のりんご」みたいな安易な感動ドラマのアンチテーゼとして作られている、と思うとそれは見事に成功している、としか言えない。それくらい、「奇跡のりんご」というのは直球勝負のサクセス感動物語で、取り上げられている無農薬農業、という素材の政治色もあって、どこか胡散臭さも漂う。

ただ、作り手はかなりそのあたりを繊細に、気を使って製作しているように思えて、無農薬農業、というのも、自然と共生する美しい農業、として描かれているわけではない。あくまで人為的に環境を作り変えていくプロセス、りんごにとってベストな環境は何か、を追い続けた農家のチャレンジ、として描かれているように思いました。

それでも多少の胡散臭さは残るんだけど、そのあたりをブッ飛ばして感動してしまうのは、やっぱり阿部サダヲさんと菅野美穂さんの演技力のなせる技なんだね。無農薬という地獄に落ちてどんどん壊れていく主人公を阿部さんみたいな普通のおじさんがやるから怖いくらいだし、そこでもひたすら前を向こうとする菅野美穂さんの潔さ、というのには本当に惚れてしまう。しかし菅野美穂さんっていうのは、美人なのになぜこんなに泥臭い役やら素っ頓狂な役が多いのだろう。もっとお姫様キャラができる人だと思うのに。
 
・「ザ・マジックアワー

で、このところ脂が乗っている深津絵里さんが、絵に描いたようなお姫様キャラを演じきったのがこの三谷幸喜さんの映画。三谷さんは、楽屋落ちものがとにかくお好きで、舞台裏のドタバタをやたらに描きたがる人なんだけど、この映画もとにかく全編が作り物として出来上がっていて、日活アクション映画から、その原点になったハリウッドの良質なコメディー映画へのオマージュだけで出来上がっている。そのバランスが嘘くさい方に傾きすぎていて、映画としては以前見た「ラヂオの時間」の方が傑作だったと思いますけどね。それにしてもここまでバカバカしい話で一本映画を作り上げてしまうパワーには脱帽。というか、街のセットの完成度が高すぎて茫然。
 
・「ザ・ホスト」

「トワイライト」シリーズの原作者が書いた別のSF「恋愛小説」を原作にしている、というので、飛行機内で眠気覚ましに気楽に見るにはいいかな、と思ってみたら、本当に気楽な映画でびっくり。しかもやっとることは「トワイライト」と変わらない三角関係。主人公が美人なので思わず見てしまう、というところも変わらない。寄生生物、という設定自体、「ボディ・スナッチャー」以来、昔からのSFでかなり使い古されたネタなんだけど、それを三角関係に持ち込んじゃう強引さがすごい。「トワイライト」の吸血鬼と狼男と人間の三角関係ってのも相当強引だったけどなー。まぁ肩の力を抜いて楽しめる映画でした。
 
・「アップサイドダウン」

これも相当無茶な設定の映画なんだけど、その設定を映像化してしまったCG映像がきれいで、それで見入ってしまいました。主役の二人のカップルがちょっと好みじゃなかったんだけどね。この設定でこういう映像が撮りたかったんだろうなー、というか、その映像を撮るためだけにこの映画を作ったんだろうなー、と思った。ストーリは安易なんだけど、目的がとにかく映像を撮ることなので、それはそれでいいか、という感じ。日本だと映像主義で映画撮ってても、妙に哲学的になったり破滅的になったりしちゃうからねー。映像主義なんだったらヘンにかっこつけずに安易にエンターテイメントにしちゃえばいいのに、と思う。