新宿オペレッタ劇場9〜カールマンのヴァラエティ〜

この日記をつけ始めて1年以上になります。半年前くらいからカウンターをつけてみたら、昨日、とうとう、10000アクセスを越えました。定期的に読んでくださっている方もいらっしゃるようで、ありがたい限りです。毎度、無駄話につき合わせてしまって申し訳ございません。今後も、無駄話を書き連ねていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

さて、今日は、先週金曜日に行った、新宿オペレッタ劇場9の感想を書きましょう。

新宿オペレッタ劇場9「プスタに踊れば - カールマン祭り」
赤池優(ソプラノ)
嶋崎裕美(ソプラノ)
田切一恵(ソプラノ)
竹内そのか(ソプラノ)
横井香奈(ソプラノ)
坂詰克洋(テノール
柳隆幸(テノール
中西勝之バリトン
新宿オペレッタ・ダンサーズ
児玉ゆかり(ピアノ)
越智伊穂里(振付)
三浦真弓(訳詞)

という布陣でした。

カールマン、という作曲家は、オペレッタ愛好家の間では、「ワンパターンのカールマン」ということで知られている人だと思います。どの曲も同じに聞こえる。「チャールダッシュの女王」と「マリツァ伯爵令嬢」なんか、そっくりな曲が一杯ある。なので、「カールマン祭り」というサブタイトルを聞いたとき、ステージングや、ダンスでバラエティを出すのかなぁ、と漠然と思っていたんです。

ところが全然、予想は裏切られました。カールマンらしい、哀愁溢れるチャールダッシュは当然ながら、フランスの香りすら漂う洒落た歌曲から、コミックソングアメリカ音楽、果てはルンバ(!)まで。カールマンという作曲家が、こんなに様々な試みを行っていたのか、という、新鮮な発見に溢れた舞台。曲のヴァラエティだけで、次はどんな曲なのかな、とわくわくさせる、実に楽しい舞台でした。「カールマン」と「ヴァラエティ」なんて、並立する概念だとは思えなかったのに、全く印象が変わってしまいました。

というか、これは、選曲者の苦労、センスの賜物のようです。もちろん、色んな異文化が交流し始めた時代背景もあり、作曲家が色んな試みをしたのは事実らしいのですが、選曲者に直接聞いてみた所、色々試みてはみても、最後はやっぱり、「どれもカールマン節になる」らしい。その中から、相当苦労してヴァラエティある選曲をしたらしい。本当に、よくこんな曲を見つけてくるなぁ、という、聞いたこともないオペレッタの曲が並んでいて、毎度のことながら感心しました。新宿オペレッタ劇場支配人、さすがです。

出演者の皆様について。今回の舞台への出演者をオーディションで決める、という初めての試みの結果、今までのこの劇場の公演の中でも、出演者が非常に多い舞台でした。その分、見る側としては、ソリストさんの様々な個性を楽しむことができ、最後まで飽きませんでした。この点でも、実にヴァラエティにとんだ舞台になったと思います。

個別のソリストさんたちについて語り始めると、結構きりがない、というか、どの方も本当に魅力的で、自分の魅力を十分に発揮された舞台だったと思います。長くなるので、一言ずつ。

まずは赤池さん。とにかく美しい。でも、確実に、以前よりも声が飛んでいる。常に向上されていく、その真摯な姿勢に頭が下がります。

嶋崎さん。最高のエンターテナー。発するオーラが違う。お客様を楽しませること、自分の世界を作り上げること、について、これだけ徹底的に追求されている歌い手さんを、他にあまり知りません。まさに、ひろみさまオンステージ、という感じでした。

田切さん。コロラトゥーラの技術も素晴らしいし、コミカルなお芝居も達者。実に表現に幅があって、なおかつ、舞台上でお客様の視線をきゅうっと収束させるオーラも持ってらっしゃる。いい歌い手さんだなぁ、と思いました。

竹内さん。日本語がとってもきれいで、クリアです。歌のお姉さんのお仕事をされていた、ということで、キュートで軽やかなオーラをまとってらっしゃる。坂詰さんとのデュエットは本当に可愛くて、素敵でした。

横井さん。上背があって、とても舞台映えする方ですね。チャールダッシュのシルヴァのアリアは、まさにはまり、という感じでしたが、男装のデュエットもとてもはまってました。押し出しが素晴らしかったです。

坂詰さん。とにかくカッコイイ。身のこなし、ダンスも素晴らしいんですが、それだけじゃなくて、歌にもとっても味があります。ソロ曲ではしっかり自分の世界を作り上げてらっしゃって、引き込まれました。

柳さん。高音のカーンと明るく開いた響きが素晴らしい。舞台上に立った時の立ち姿が決まっていて、いい歌役者さんだなぁ、と思います。オペレッタをさんざ歌ってた頃のルネ・コロをちょっと思い出しました。

中西さん。とにかく見事な声の色を持ってらっしゃって、それが本当にぶれない。オペレッタの色気のあるお芝居がお好きなようで、それもお上手なんですが、やっぱり歌が素晴らしい。ストラディヴァリ讃歌は本当に、涙を誘う感動的な歌唱でした。

最後に、面白いなぁ、と思ったのは、プロセニアムの魔術・・・です。新宿オペレッタ劇場、というのは、いつもは、新宿文化センターの小ホール、という所で行われます。ここの舞台は、いわゆる「平場」。つまり、舞台、という高いところで、枠に囲まれた「プロセニアム」という所がないのです。もっと簡単に言えば、お客様と出演者が同じ高さに存在している。

そうなると、出演者の演技空間と、客席の区分けがあいまいになる。それが「平場」舞台の魅力でもあるのですが、すごいハンデでもあるんですね。演技空間を、客席という日常空間から切り離すのがすごく難しくなる。それを切り離すのは、出演者の発するオーラだけなんです。

新宿オペレッタ劇場の常連の皆さんは、ある意味、そういう「平場」で、自分のオーラだけで舞台空間を構築してきた方々。そういう方々が、今回、四谷区民センターというホールで、舞台、プロセニアム、という武器を手に入れた時に、舞台上の世界の「非日常性」があっというまに構築される。その皆さんのパワーにも驚嘆したのですが、やっぱり、プロセニアムっていいなぁ、とも思いました。我々素人が舞台をやるとき、このプロセニアムの力に随分助けられている部分もあるんだろうな、と思いました。

終演後、打ち上げ会場にお邪魔して、出演者の方々とお話しする機会を持つことができました。皆さん、お疲れのところお邪魔してしまって、申し訳ありませんでした。本当に素敵な方ばかり。柳さん、日本がイランに負けちゃって悲しかったですねぇ。児玉さん、ゆっくり休んでくださいね。出演者の皆様、本当にお疲れ様でした。また、素敵な舞台でお会いできる日を、心待ちにしております。