新宿オペレッタ劇場15〜聴衆を引き込む力〜

この週末、大きく2つのインプットがありました。金曜日の新宿オペレッタ劇場15と、日曜日のコール・サファイア/コール・キルシュの合同演奏会の練習。それぞれについてぼちぼち書いていこうと思います。今日は、金曜日の新宿オペレッタ劇場15のことを。

新宿オペレッタ劇場15
オペレッタで夏祭り〜

三塚直美(S)
齊藤祐紀(S)
佐藤一昭(T)
吉武大地(Br)
中西勝之(Br)
児玉ゆかり(pf)

という布陣でした。

今回は、新宿オペレッタ劇場の常連さんと、新顔のお二人(齊藤さんと吉武さん)という布陣もそうだったのですが、どこか、クラシックとミュージカルの混成部隊のような、そんな感じがして面白かったです。歌唱テクニック、という点でもそうだし、演技的な部分でもそう。さすが、どんなジャンルの音楽もごっぷり飲み込んでしまう、「オペレッタ」という表現形態の幅の広さを見せ付けられたような。

齊藤さんは、恵まれた体格と容姿で、ぱっと華やかな雰囲気を作ることができる、とても素敵な歌い手さん。日本語の響きがクリアで、芝居っ気もサービス精神も旺盛で、いい歌役者さんになりそう・・・と期待。コロラトゥーラはかなり未成熟で、あんまり無理に高音で勝負しようとしない方がいい気がしたけどね。メイドさん衣装に萌えていた男性聴衆は多かったような。私もその一人。はい。

吉武さんは、美形男声カルテット(和製IL DIVOを狙っているらしい)ESCOLTAの一員、ということで、恵まれた容姿としなやかな身のこなし、確かな日本語の響きと甘い美声、これまた、とてもいい歌役者さんになりそう。声の響き自体はまだ発展途上、という気がしました。中西さんとのデュオなんかではっきり感じてしまうのだけど、響きの芯がまだ貧弱で、全体にぼわんと散ってしまう感じがする。それでも、とてもきれいに日本語が聞こえる、いい歌い手さんに成長されそうな予感がします。

中西さんは、相変わらずの存在感と美声。ミュージカルの舞台をいくつか経験されたせいか、以前の奥深い響きから、少し浅めの響きに色合いが変わってきている感じがしました。好みの分かれるところかもしれないなぁ。個人的には、昔の、まろやかでありながらヴォリューム感のあるたっぷりした声の色が好きでしたけどね。ちょっと試行錯誤の時期なのか、響きの位置が揺れている感じがしました。それでも、パフォーマンスとしてしっかり聞かせる、完成度の高い歌唱と色気はさすがです。

女房ともども、「やっぱりすごいね」とうなったのは三塚さん。今回は「妖艶系」ということで全体に統一してらっしゃったようですけど、音程の確かさ、高音から低音までまんべんなく鳴る響きの安定感、その響きを支えている日本語の母音処理技術の高さ、どれをとっても一級品。他の歌い手さんがミュージカル系の響きの方々が多かったこともあり、クラシック歌唱の王道をきちんと踏まえた三塚さんが登場すると、なんだかほっとする感じがありました。もちろん、「妖艶系」と、それを少しはずしたコミカル系の演技もとってもキュート。

しかし今回は何と言っても、佐藤一昭さん。新宿オペレッタ劇場では常連、ということもあるのかもしれないし、地元の演奏会で、お客様の中に佐藤さんのファンも多い、ということもあるのだろうけど、そういうことを差し引いても、客席全体をしっかりと自分の掌中に納めてしまうオーラの強さには感動させられました。佐藤さんの温かなお人柄もあるのですが、それよりもやっぱり、舞台の上で一つの歌の世界を作り上げる技術の確かさ。一つ一つの所作のお洒落なこと、コミカルな部分とシリアスな部分の見事なバランス。年齢を感じさせない伸びやかな声と、歌の全体像をきちんとクリアに見せながら、パフォーマンスの完成度を高める楽曲分析の確かさ。ちょっと失礼な言い方ですが、このくらいの年齢になられて、声の色艶を保つためには、相当な努力が必要だと思います。実際、かなり技術的にも磨きをかけられたようで、以前よりもさらに艶やかさが増したような感じ。相当レッスンを重ねられたんじゃないかなぁ。常に努力を続けるその姿勢にも頭が下がります。

「僕もすっかり長老です」とおっしゃりながら、オペレッタの粋を表現させればやっぱり第一人者、という貫禄のステージ。今回、若い歌い手さんが多かっただけに、長い経験に裏打ちされた佐藤さんの「粋」が際立った舞台でした。結局、付け焼刃ではない、自然に身についたものが、一番強いんだよね。劇場支配人の選曲と、訳詩家のタッグも相変わらずで、聞いたこともないオペレッタのお洒落な曲を次々と並べたワクワク感あふれる演奏会。最後の「新宿オペレッタ劇場の歌」では会場全員で大合唱で大盛り上がり。メインディッシュも豪華、デザートもたっぷりの美味しいフルコースをいただいたような満足感で、箪笥町区民ホールを後にしました。出演者の皆様、スタッフの皆様、本当にお疲れ様でした。なんだか偉そうな、失礼極まりない感想も書いちゃって申し訳ありません。皆様の今後のご活躍をお祈りしております。