何よりも嬉しいこと

8ヶ月間かけて作ってきた「乞食学生」の本番が終わりました。ずっと調子が悪かった気管支炎があまり改善せず、本当に綱渡りの本番。本番前の日記にも書いたのに、練習の時にはやらなかった余計なお芝居を増やしてしまって、本番でやらかしてしまいました。「出とちり」です。それ以外にも、途中で財布を落としたり、衣装の肩紐がはずれたり、想像もしていなかった事故やトラブルが続発。それでもなんとか、最後のセリフまでたどりつくことができました。

客出しが終わって、打ち上げ会場に行く頃から、体中が急激にだるくなる。本番が終わった安堵感からか、と思っていましたが、会場から出る時には体がふらつき、家にたどりついたら悪寒で震えが止まらない。翌朝には38度を超える発熱。ものの見事に、「インフルエンザA型」と診断されてしまいました。幸い、発症から時間があまり経っていないので、タミフルという特効薬が効きそうです。それでも会社は2日連続でお休み。何をやってるんだかねぇ。

以前にも書きましたが、舞台の出来がどうだったか、ということは、出演者の自分が言うべきことではないと思っています。少なくとも自分としては、100%の出来だったとはとても思えません。体調の問題、種々のトラブルもそうですが、もっともっと、このオルレンドルフという人物を魅力的に聞かせる、見せることができたのではないか、という思いで一杯です。2005年3月6日という時点での私ができる、精一杯のオルレンドルフだったとは思います。でも、これが決して完成形ではない。もっともっと素敵な、もっともっとかっこいい、そして憎めない、愛すべきオルレンドルフ大佐がいるはず。それが表現し切れなかった自分の力不足を、今は痛感しています。

だからといって、落ち込んでいるわけではありません。今の自分ができる精一杯の表現ができた、という充実感はあります。でも、まだまだできるはず。まだまだ自分には足りない所が一杯ある。それがすごく具体的な課題として見えている。それって、すごく幸せなこと。もしも、また再び、このオルレンドルフ大佐に出会うことがあったら、もっともっと魅力的な大佐に仕上げてあげたい。そのために、明日から、また精進です。

何よりも嬉しかったことは、客出しの時、知り合いでもなく、身内でもない見知らぬ人たちが、「よかったよ」「素敵だったよ」と、声をかけてくれたこと。握手を求めてきてくれたこと。知っている人の賛辞や身内の賞賛には、どうしてもバイアスがかかるもの。見ず知らずの人がかけてくれた温かい言葉が、今回は本当に嬉しかったです。本当にありがとうございました。

今回の舞台は、これまでの舞台経験の中でも、表現すること、お客様に伝えることの意味を、今まで以上に考えて考えて考え抜いた舞台だったように思います。あの時間を共有した全ての皆様に感謝したいと思います。共演者のみんな、特に、オルレンドルフの部下の4人。本当に部下に恵まれた大佐でした。お客様方も、本当にいいお客様たちでした。客席での私の芝居の時、私に注がれているお客様の視線が、なんて心地よかったことか。そして誰よりも、練習会場でいつもいい子にしてくれていたうちの娘と、本番前日のぎりぎりのところまで、私の表現について厳しく、温かく、そして鋭い助言をくれたうちの女房に、本当に感謝したいと思います。

また一つ、忘れがたい舞台が終わりました。これがゴールではない、ここが通過点であり、始まりなのだ、と思える舞台でした。これからも、もっともっと、お客様に楽しんでもらえる舞台を作っていくために、自分の技量を磨いていきたいと思います。

つらいこともある、しんどいこともある。でも、舞台っていいなぁ。本当にいいなぁ。