人事を尽くして

雪ですねぇ。お天気というのは、我々人間には本当にどうしようもないことの代表、という気がします。私が小学生の頃はまだ、科学信仰のようなものが生きていた頃で、人工降雨実験、なんていう話から、人間が天候さえコントロールできる未来が、現実味を持って語られていました。いまでは、自然の偉大さ、自然の中で生かされている人間、という形で、世界観が大きく変わっている気がします。

神戸の震災があった直後、東灘に住む家族の元に行くために、震災直後の街を歩いた友人がいました。彼は、その直前に、エジプトに旅行していたのですが、その2つの体験を通して、「人生観が完全に変わった」と言います。

地震もそうだし、ナイル川の氾濫もそうだけど、自然の前で人間のやれることなんて、ほんとにちっぽけなことなんだよ。地震があっても、なんとか生き延びられますように。川の氾濫が、それほど大きな被害をもたらしませんように。人間にできるのは、ただそうやって、祈ることしかないんだ。」

雪もそうだし、風邪を含めた体調もそうですが、本番前に訪れる様々なアクシデントに対して、いくら備えても限界があります。最後に頼むのは、「神頼み」。人事を尽くして天命を待つ、とは本当にいい言葉。今のところ自分の心境としては、とにかく、本番の舞台で、怪我人や病人が出ないで、最後のカーテンコールまでたどり着けさえすれば、という思いだけです。

オルレンドルフ、という役と付き合って、8ヶ月以上。それでも、歌の魅力、役の魅力を隅々まで理解した、とはとても言えない。また、自分なりに理解したこの人物の魅力を、お客様に100%伝えられるほどの技術があるとも思いません。結局そう考えると、この役の本当の魅力の50%くらいしか、お客様には伝わらないかもしれない。でも、それを今から、70%や90%に上げることなんてとても無理。50%の魅力が伝えられる瞬間が、練習中にあったのなら、それを精一杯、本番会場で再現すること。それだけを目指してやるしかない。

あとは、本当に、天命を待つしかありません。本番会場というのは不思議な場所で、お客様からの熱気と、会場自体の持つ非日常性のおかげで、何かが「天から降ってくる」瞬間が時々訪れます。でも、それを天から招くのは、自分自身の発する「祈り」の力しかないんです。自分から発する、表現の力しかないんです。そうやって精一杯表現して、50%の自分の精一杯を届ける。そうしたら、その50%の種から、お客様の心の中に、何かの芽や、何かの花が開くかもしれない。

それを天に祈りつつ、本番を迎えようと思います。出演者の皆さん、ご来場を予定されている皆さん、雪の中、事故や怪我には本当に気をつけてくださいね。私も本当に気をつけないと。雪ですっころんで骨折、なんてことになったらヒサンだもんねぇ。皆さんが健やかに、共に、素敵な時間を共有することができますように、天にひたすら祈りましょう。