GAG公演「TAKE FIVE」〜5つの物語、10の人生〜

昨日、GAG公演の本番でした。以下、ちょっとルポルタージュ風に。

一昨日から会場に入って仕込み。音響・照明・受付スタッフの仲間も集まって、どんどん会場が「演劇スペース」に変貌していく。調布市民文化会館「たづくり」の映像ホール、という本番会場は、もともと演劇用に作られた場所ではないので、ここを「演劇スペース」にするには色んな工夫が必要なんです。会場スタッフのSさんが、色んな細かいところにまで気配りして下さって、実に居心地のいい即席楽屋や、控えスペースが出来上がっていきました。演劇的なスペースであるだけじゃなくって、控えスペースの居心地がいいってのもなんだか嬉しい。

一通りセッティング。大道具といっても、一辺40センチの立方体が6つだけ、というシンプルな舞台です。このシンプルさがGAGの真骨頂、と言えば格好いいんですけど、要するにお金がないだけ。今回は地元開催、ということで、我が家にある道具を、自家用車でピストン輸送する。2往復すれば全部の道具が搬入できてしまいました。いつもだったら、会場まで行くのが大変だから、ライトバンとかレンタルしてたんだけどね。今回は本当に簡単。

夕方から、一通り通し稽古。GPというやつです。きちんと衣装換えの段取りも入れてやってみる。一応、7月ごろに、一度本番会場を借りて練習したことがあったのですが、それから随分、役の作りこみも変わってきているし、久しぶりに来た本番会場は、練習会場で考えていたよりも随分広い。共演のはしもとさんも、「やっぱり本番舞台にくると、みんな芝居が大きくなりますよね」と呟いていました。実際、一昨日と昨日の直前練習で、今まで練習では一度もやったことがないような表現が随分出てきた。

GP終了後、見てくれていた受付スタッフのKさんやTさんたちと、再び役の作りこみについてディスカッションする。照明スタッフのAさんが、私のやるある役について、色々と語り始める。「結構いるんですよねぇ、身近にこういうコミュニケーション障害の男性って」とおっしゃっていました。みんな色々感じることがあるんだなぁ。

地元開催、というのは我々からすると本当に気楽で、本番当日はちょっとお寝坊。慌てて飛び出しましたけど、それでもちゃんと集合時間には間に合っちゃいました。午前中、アップも兼ねて、5本ある短編のうち、2本を通し稽古。受付に入ってくれたOさんが、客席で涙ぐんでいるのを見て、美人が涙目になっているってのはいいもんだなぁ、と見とれる。そんなことしているヒマはないぞ。と、言いながら、午前中の稽古が終わったら、1階の喫茶店でのんびりランチ。普段、家族で一緒に食事することもある喫茶店なので、なんだかみんなして和んでしまう。地元開催ってのはやっぱりいいもんですねぇ。

さて、本番。お客様が入ってきてからは、役者は控え室から出て行けないので、娘に控え室にいてもらって、伝令に走ってもらうことにしました。娘は、「たびびとだね」と張り切る。どうやら「付き人」のことを言っているらしい…やがて、音響のOさんが本番前のアナウンスを入れ、音楽が流れて、本番開始…

舞台をやるときにいつも感じることですけど、本番舞台、というのは本当に特別なものです。練習の時に積み上げてきた表現や段取りをきちんと再現する、というのも大事なのだけど、本番会場のお客様の空気を読みながら、別の表現や別の段取りをどれだけ組み込んでいけるか…というのも、本番ならではの面白さだったりする。今回に限らず、GAG公演というのは、結構身内のお客様が多いので、客席が常に温かいんです。世の中にはもっと厳しいお客様が沢山いるだろうなぁ、とは思うのだけど、拍手も温かいし、とにかくよく笑ってくれる。こちらの思ってもいないところで笑いが出てくると、こちらとしても間の取り方も変わってくる。

本番というのは恐ろしいもので、そういうお客様の反応だけじゃなく、こちらの予想していなかったトラブルなども必ず起こります。今回は、私がばあさんメイクをしたお話の冒頭で、ばあさんが道具を、えいや、と持ち上げた瞬間、スカートの下にはいていたズボンのベルトが切れちゃった。このズボンは、その次のお話の時にはいてくる衣装を仕込んでおいたもの。完全に頭真っ白になって、次どうすりゃいいんだ、とそればっかり考えながら、段取りにない意味不明の動きをいくつかした挙句に、しょうがない、と開き直って、次の演技を続けていたら、今度は左目のコンタクトがぽろっと落ちた…途端に舞台は暗転。あとはもうパニックです。このお話の冒頭では、演技を続けながら、ベルトをどうするか、コンタクトは無事か、そんなことばっかり考えてました。なんだか上の空のお芝居になってたら申し訳ありません…(結局、コンタクトは終演後、真っ二つに割れた状態で発見されました…今日コンタクト屋さんに行くつもり)

心配だった台風13号は、少し西に逸れてくれましたが、時折突風や天気雨のぱらつく不安定な天気。それでも、会場には60名近いお客様がご来場くださいました。終演後、撤収を手伝ってくれたり、打ち上げ会場に合流してくれたお客様もいて、スタッフの皆さんともども、本当に、感謝感謝です。

以下、ガレリア座のメールリストに流した感想文の抜粋。これが一番思ったことだったりする。

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今回の演目の台本に巡り合ったのは、いつごろだったか・・・
はっきりした記憶がないのですが、恐らく、5〜6年くらい前だったと思います。
いつか舞台にしたいなぁ、と、ずっと温め続けてきた題材でした。

でも、実際に仕上がった舞台は、出会った時とはまるで違った表情で、
演じた側の私自身も、いささかあっけに取られています。
日本語に翻訳する過程・・・
上演台本に仕上げる過程・・・
役者達の間で、何度も何度もディスカッションしながら、作りこんでいく過程・・・
そして何より、本番のお客様の反応から、自然に出てきた表現たち・・・
出発点から、いくつもの過程を経ていくうちに、出会った時とはまるで違った5つの物語が仕上がっていきました。

終演後、何人かのお客様から、色々な感想をいただきました。
それを聞いてさらに、自分が思っていた物語と、皆さんが受け取った物語の間のギャップが、驚きでもあり、面白くもありました。

昨日、ご来場いただいた60名ほどのお客様たち。
5つの物語、10人の登場人物が、一人ひとりのお客様の心の中で、またそれぞれの人生を生き始めているんだろうなぁ、なんて思って、なんだか、それがとても嬉しかったりします。

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終演後、お客様を笑顔で送り出した後、舞台道具の色とりどりの箱たちを車につんで、我が家に向かいました。会館の外は、台風の過ぎた後の見事な夕焼け。刻一刻と彩を変えていく夕焼け空に向かって車を走らせながら、お客様の心の中に、5つの物語の記憶が、今日のこの夕焼けの記憶と一緒になって、爽やかな思い出になって残ればいいなぁ、なんて、そんなおこがましいことを考えたりしました。

次はいつになるやら分かりませんが、夫婦の間で色々と企画だけはあります。またぽっと、思い出した頃に、そんな企画を実現させていければいいなぁ、と、のんびり考えています。今回手伝ってくれたスタッフのみんな、魅力あふれる共演者のはしもとさと子さん、パパママの道楽にニコニコ付き合ってくれたわが娘、そして、ずっと温めていた企画の実現を強力にプッシュしてくれた最高のパートナー、我が女房どの。そして何よりも、本番会場に来てくださった素晴らしいお客様。トラブルもなにもかも、一切合財をひっくるめて、あの時間、あの空間、あの空気を共有できた全ての人たちに。本当に楽しかったです。ありがとうございました。

また一つ、心の中に温かな温かな思いの残った舞台が終わりました。表現することの喜び、共有することの喜び、そして、みんなが違う思いを持つことができる喜び。そんな素敵な時間を、本当にありがとう。舞台っていいなぁ。本当にいいなぁ。