オペラとの出会い

今回の「乞食学生」で初めてガレリア座に参加された方から、こんな質問を受けました。「Singさんって、お芝居の方から舞台に入られたんですか?」

いや、大学時代に合唱団に入って・・・などと、自分と音楽の出会いの話をし始めて、はた、と思った。「そういえば、オペラに初めて出会ったのって、いつだっけ?」

中学時代から、学内の発表会でバンドをやったり、演劇をしたり、舞台表現というものには常に興味はありました。それが、「オペラ」という表現に出会ったきっかけ、というのは、なんともみょーな経緯だった気がします。まっすぐ直球で行けば、大学の合唱団に入ってオペラアリアなどを練習して興味を持ち、実際にオペラの舞台を見て興奮し・・・というのが普通のルートなんでしょうけど、私の場合、最初に触れたのは、合唱団内での内輪受けのミュージカルだったんです。

私の所属していた合唱団では、昔からの慣習で、夏の強化合宿の最終日に、学年ミュージカル、というのを上演していました。まぁ内輪受けの軽いお芝居で、合唱団なんだから歌もある、という感じ。歌は、音大の方がオリジナル曲を作曲する場合もあれば、有名なオペラやオペレッタの曲を替え歌にして歌う、というものもあり。1年生で入学して初めての合宿で、3年生の幹部学年が演じたミュージカルがなかなか面白かったんです。この中で、レハールの「メリーウィドウ」の、「女、女、女」のコーラスをやったんですね。これが、今から思えば初めて、「オペラ・オペレッタ」って楽しいんだなぁ、と思った瞬間でした。なんだ、最初がオペレッタだったんだね。

で、感激してオペラを聴きに行ったか、というと、そうでもない。当時の私はどちらかといえば、舞台よりも映画の方に興味があったので、毎週のように映画ばっかり見てました。それに、当時、オペラの舞台を見に行く、というのは、そんなに一般的な娯楽ではなかったと思います。そんな私が、さらに「オペラって結構面白いかも」と思うようになるのは、またしても裏道。あるマンガに出会ったせいでした。

高校生くらいの頃に萩尾望都に目覚め、以来、少年マンガよりも少女マンガを中心に読んでいたのですが、萩尾望都さんが連載マンガを持っていた雑誌に、たらさわみち、という漫画家が、「バイエルンの天使」というシリーズを連載していたんですね。バイエルンに実在するテルツ少年合唱団を舞台にしたマンガ。これが結構面白いマンガだったんです。

合唱団が舞台とはいえ、テルツ少年合唱団の歌い手達は、合唱曲よりも、オペラのボーイソプラノの役として活躍します。オペラの方がマンガになりやすい、という背景もあるのかもしれないですが、「フィガロの結婚」のケルビーノを、ボーイソプラノの少年に演じさせる、など、今から考えても、「へぇ、それも面白いかも」と思うような話が出てくる。このマンガで、「フィガロの結婚」「魔笛」「ディドとエーネアス」「歯車」などのオペラの世界を知ることになります。ヘルマン・プライの名前を初めて知ったのも、このマンガなんです。なんて亜流なんだ。

この亜流の流れはさらに続き、初めて見たオペラの舞台、というのは、御茶ノ水女子大の徽音祭で上演された「こうもり」でした。毎年、この大学の音楽部の学生さんたちが、お茶大オケと共演して上演しているオペラなんですが、当然、女子大ですから、男役も女性が演じる。宝塚風オペラですね。これが結構面白く、ちょっと聞いてみようかなぁ、と思って、「こうもり」と「魔笛」のLPを買ったのが、オペラを聴き始めた最初でした。

こうして見ると、ほとんどまともな出会いをしてませんね。ガレリア座には、「オペラを見るよりも、自分がオペラを演奏した方が先」という方が沢山いらっしゃいます。今や、東京は、おそらく世界でも指折りの「オペラ上演都市」ですよね。とてもリーズナブルなお値段で、質の高い公演を聴きにいける。自分の屈折したオペラとの出会いを振り返るにつけ、娘に最初に見せるオペラは、至極まっとうなものにしなければ、と思う今日この頃。しかし、この子が最初にみたオペラってのは、ガレリア座の公演だよなぁ・・・最近も、「乞食学生」のワルツとか大喜びで歌ってるしなぁ・・・全然まっとうじゃないなぁ・・・