いい通し稽古でした。

ちょっとバイオリズム(懐かしい単語だな)の低調期にあるみたいで、どうも気分がすっきりしません。日記の更新も滞りがち。表現意欲そのものが下がっているんだな。仕事も全然はけないしなぁ。困ったもんだ。

花粉症を発端とした気管支炎&鼻炎がなかなか改善しない、というのも一因で、咳ってのはそれだけで体力をけずるんだよねー。ここ数日、やっと多少症状が改善してきたのだけど、なかなかすっきりしない。

そんな中で、ガレリア座ファウストの練習の方は順調。演出も半分以上付いて、土曜日は1幕冒頭から3幕の途中まで一気に通す。この通し練習がなかなかいい仕上がりでした。

いい通し練習の鍵を握っているのは、冒頭のソリストの踏ん張りだったりする。冒頭、ファウストの独白場面から、ファウスト役のT君が、現時点での最高水準のパフォーマンスを見せてくれる。T君含め、ガレリア座ソリストたちの間では、「毎回の練習が本番だと思え」といつも言い合っているんです。同じ演目を何度も舞台にかけられるプロと違って、ガレリア座の本番舞台は一度きりです。練習も毎日できるわけじゃない。合唱陣や演出家というギャラリーを前にしたパフォーマンスを試せるのは、週末の練習の機会だけ。たった一度の本番舞台に向けて、できる限り演目の本質に迫るためには、毎回の練習会場でのパフォーマンスを、その時点での最高水準のところまで持っていって、ギャラリーの反応を見ながら、自分自身が発することができるオーラの総量を確認し続けていかないとダメなんです。

杉村春子さんが、「女の一生」の舞台を繰り返す中で、「100回本番をこなして、やっと脚本家が意図するセリフの流れが理解できた」とおっしゃっていた、という話、この日記でも紹介したことがあります。100回の本番の裏にある本番さながらの稽古を入れれば、多分1000回は下らない。でも、1回しか本番を持てない我々アマチュアは、毎回の稽古で、その100回分の本番をこなしていかないといけない。

T君が渾身のパフォーマンスを見せれば、後から参加していくメフィストのN君も、もちろん、ヴァランタン役の私も、ワーグナーのHさん、シーベルのKちゃんも、精一杯のパフォーマンスをぶつけていくしかない。さらに素晴らしかったのが合唱。メフィストの有名なクプレ「金色の子牛の歌」は、N君の熱唱ももちろん、N君の周囲で合唱陣が見せる群舞がものすごく見ごたえがあります。私のアリアの直前の合唱曲も、構成の複雑さと振り付けの複雑さで目が回りそうなんだけど、合唱陣はものすごく頑張っていた。全体で合わせることができる時間も少ない中で、これだけのクオリティを出している、というのは本当にすごい。

飲み会でも話していたのだけど、ガレリア座合唱団というのは、日本の普通の合唱団の中でも極めて特異な存在だと思います。普通の合唱団が、一人ひとりの表現よりも、集団として統一された表現を追い求める傾向が強いのに比べて、ガレリア座合唱団は一人ひとりが野放図なまでに思いっきり歌います。結果として出てきた歌は、合唱として聞くと、ハーモニーがガタガタだったり、あっちが飛び出たりこっちが遅れたり、かなり無茶苦茶なのだけど、オペラ合唱団としての総体としてのパワーはものすごかったりする。そんじょそこらの合唱団では真似出来ないアンサンブルが生まれてきたりするんです。

通し稽古のラストは、三幕、女房の演じるマルガレーテの場面。「トゥーレの王」から「宝石の歌」に至るシークエンスで、メフィストに操られるマルグレーテの狂気を、端整な歌唱とメリハリの効いた演技で精一杯演じきって、通し稽古は実にいい感じで終了。演出のY氏はもうご機嫌で、飲み会でも終始ハイテンションでした。でもまだまだこれから。私個人で言えば、「ファウスト」のプロジェクトの当初は中々突破できなかった高音部分が、最近かなり楽に出るようになってきていて、どんどん欲が出てきているところです。ただ高音が出る、というだけじゃなく、もっとフレーズとして長く、もっと音程も正確に・・・と、さらにさらに上を目指していければ、と。聞けば聞くほど、やればやるほどいい曲ばっかりの素晴らしいオペラ。あと2ヶ月半、目一杯しゃぶりつくそうと思います。