ゴジラ映画の「業」

最近、ゴジラの「最終作」が封切られる、ということで、ゴジラ映画の過去の作品を色んなところが放送しています。特撮映画が好きだった昔の血が騒いで、最近録画してよく見ています。なので、我が家のTVでは、最近やたらにゴジラ放射能を吐いている。女房は呆れ、娘は、「パパいっつもゴジラばっかり」と笑っている。昨夜、娘が、小さな紙に、「パパだいすきちけっと」と書いて渡してくれたのですが、そのちけっとには、恐竜のシールが貼ってあって、「ゴジラだよ」と教えてくれました。ははは。

ゴジラ映画について語れるほど、ゴジラシリーズを見ているわけじゃないんですが、先日、「ゴジラ対メカゴジラ」と、「ゴジラメカゴジラ」の2作品を見比べて、このシリーズは何か、「業」のようなものを背負っているんだなぁ、と思いました。そのあたりをちらりと。

「業」、とここで言うのは、ゴジラ自体が、戦後の日本映画の歴史を色んな意味で背負ってしまった、ということです。映画の黄金時代のヒーローであったが故に、様々な遺産を背負いすぎている。一番分かりやすいのは、ゴジラと、それを取り巻く怪獣達の造型です。いかに技術が進化し、メカトロニクスが進化し、着ぐるみ怪獣の造型技術が進んでも、基本となる怪獣の造型に手を加えることができない。アメリカのゴジラが、ゴジラの原型を完全に破壊した時に、なんともいえない違和感があったのは否定できない。

でもその造型は、やっぱり50年代・60年代のセンスなんですよね。どうにも古臭い。でも、これを壊すことができない。メカゴジラがいかに近代的な造型によみがえっても、やっぱり原型の70年代テイストから逃れきれないんだなぁ。そこが、どうにもレトロな感じになってしまう。平成ガメラシリーズのガメラが、原型のガメラから大幅に改造されたのとは大違い。平成ガメラを造型した、原口智生さんの力も大きいとは思うのだけど。

もう一つの業は、ゴジラシリーズが、日本映画の現場の制作力の衰退に伴って、一旦B級エンターテイメントに堕落してしまった過去を持っている、ということです。その最大の戦犯の一人が、特撮監督の中野昭慶さんである、というのは、指摘せざるを得ないだろうなぁ。円谷英二さんが、一旦世界的なレベルにまで引き上げた日本の特撮技術が、中野さんの下で、ただその遺産を食いつぶすだけのサラリーマン職人の伝統芸になっちゃった。伝統芸といっても、常に新しいことを試みていかないと、エンターテイメントとしては死んでいくしかないんですけど、中野さんの特撮画面は、円谷時代から全然変わってない。むしろ後退してる。空を飛ぶメカゴジラのちゃちさはなんだ。プラスチックのおもちゃじゃないか。予算のせいだ、というなら、結構予算もらったはずの「首都消失」の飛行機のシーンだって、「地震列島」の大破壊のシーンも、「日本沈没」も全部同じだぞ。確かに、東宝特撮の伝統を守った、という意味では偉大な人なんだけど、ただ守っただけだもんなぁ。

その過去から、ゴジラ映画を、一級のエンターテイメントに引き上げたい。でも、60年代の遺産からは逃れられない。先輩方が作り上げたものを壊しきれない。造型もそうだし、特撮現場の伝統も中々変えられない。そういう、過去の遺産との戦いの「業」のようなものを、ゴジラ映画にはどうしても感じてしまう。

でもそういう葛藤というのは、今まさに、日本経済において、日本の企業の数々が直面している「業」と共通のように思うんです。伝統を守ろうとする団塊の世代、いわゆる抵抗勢力と、新しい世代が、旧来のシステムを壊そうとする、その葛藤。それと同じ葛藤が、ゴジラ映画の上で行われているような、そんな気がするんです。

ゴジラメカゴジラ」は、手塚昌明監督の、旧ゴジラシリーズや東宝特撮映画への愛情が、そういう葛藤をある程度乗り越えた佳作だな、と思いました。マニアが作った映画、という感じはしますけどね。人間ドラマの部分がどうにも薄っぺらいし。宅麻伸って、なんでこんなにペラっとした感じがするのかなぁ。人間ドラマを子役に背負わせるのは、アニメならともかく、実写ではかわいそうだぞ。

そういう意味で、やっぱり平成ゴジラシリーズの中では、金子修介さんの「ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総進撃」が一番好きなんですよね。右翼映画、という感じもするんだけど、旧来のゴジラの造型を一旦破壊しただけでも、功績は大きい気がする。ゴジラがバラゴンを粉砕するシーンで、前のめりのゴジラを下からあおった画を見た時に、ゴジラの生物としての凶悪さと恐竜としてのしなやかさみたいなものを見事に表現した画だなぁ、と感動しました。横浜の夜を飛翔するモスラの姿も、これまで描かれたモスラの造型を否定して、生物としてのモスラをきっちり描いた感じがした。金子修介さんも当たり外れの多い監督さんですけど、とにかく、何か新しいものを作ってやろう、という意欲がいい。「1999年の夏休み」も面白かった。何が言いたいのか、イマイチ分からんかったけど。ガメラシリーズでも思ったけど、わりときちんとした映画撮った方がいいと思うぞ。恋愛映画とか。「恋に唄えば」とか、不可思議な映画撮ってないで。