里見八犬伝~色々繋がって色々見れて~

今日は、中野ZEROで上演された舞台版「里見八犬伝」の感想を。以下、ネタバレ含みますので、未見の方はご注意ください。

例によって、さくら学院を昨年卒業した日髙麻鈴さんが出演する、ということで見に行ったんですが、意外に色んな気づきがあって面白かったです。実は今日は、お昼にこの「里見八犬伝」を見て、その足で神奈川芸術劇場さくら学院学院祭の一日目に行く、という推し事連チャン日だったんですが、学院祭の方はまだ二日目があるので、感想は後日アップしますね。

さて、「里見八犬伝」。さくら学院の卒業生の舞台を全部見に行っている猛者父兄ではないのですけど、日髙さんが「ぬい」を演じると聞いて、これは見に行かねば、と思ってしまったんですね。原作の「ぬい」は、自らの身を犠牲にして犬士の命を救い、産み落とした子が最強の犬士、犬江親兵衛になる、という、母性と慈悲のキャラクター。これを憑依型女優の日髙さんがどう演じるのか、というのがとても興味があったんです。

拝見した舞台は、原作を大きく改変していて、「ぬい」も原作の母性ではなく、兄の小文吾の戦う動機付けとなる可憐さと幼さと悲劇性が前面に出ていて、期待とは違ったのだけど、別の意味で日髙さんの魅力が十分発揮できるいい役だったと思いました。壮絶な殺陣が繰り広げられる殺伐とした舞台の上の、まさに一服の清涼剤。しかもラストに物語全体の救済者として登場する。登場場面は少ないけれど、とても印象的な役。

この舞台版「里見八犬伝」、東日本震災からの復興の祈りも込めて2012年に初演されてから、なんども再演されているそうで、実はうちの娘も見に行ったことがあるそうです。今回も客席はほとんど若い女性で占められていたのだけど、その大きな理由が、八犬士を演じるイケメン男優さんなのだね。ドラマや映画で活躍する若手のイケメン男優さん達が多いのだけど、2.5次元ミュージカルと特撮ヒーローの経験者が多いのもなるほどなぁ、と思う。さて、ここからかなり知ったかぶりの衒学的な文章が続きますよ。浅はかな知識で書き飛ばしてますから、あんまり厳しく突っ込まないでくださいね~。

2.5次元ミュージカルも、特撮ヒーローも、ものすごく肉体を酷使するアクション芝居が求められると思うんです。そして思い出してみれば、かつて特撮アクション番組に人材を供給していたのは、千葉真一の率いるJAC(ジャパン・アクション・クラブ)。そのJACと深いつながりを持っていたのがアクション映画の神様、深作欣二監督で、今回の里見八犬伝の舞台演出は・・・なんとそのご子息の深作健太さん。なんだか全部繋がっているよねぇ。

舞台版「里見八犬伝」も、深作欣二監督の映画版「里見八犬伝」と展開が似ていて、犬士たちの犠牲の上に生き残った薬師丸ひろ子真田広之が悪を倒す、という展開が、犬塚志乃だけが残る舞台版の展開と重なる。映画版ではあまりきちんと描かれていなかったそれぞれの犬士の葛藤が、舞台版ではしっかり描かれていて、深作欣二監督はこういう物語を描きたかったのかもなぁ、と思ったり。

さらに、死者の無念を呼び覚ますことで死者を蘇らせる、というあたりは、まさに同じ深作欣二監督の代表作の一つ「魔界転生」。ラスト、切っても切っても切り足りない、という感じで延々と続く殺陣のシーンは、どこか工藤栄一監督の映画を思わせて、昔の東映チャンバラ映画ってこうだったよなぁ、って思ってしまう。そして現代のチャンバラ役者の第一人者、山口馬木也さんが見事な演技と殺陣を見せるに至って、日本の時代劇がこういう形で若い役者さんたちに引き継がれていくんだなぁ、と、別の感慨も沸いてきました。

今回、私はさくら学院からこの舞台を知ったのですけど、同じように、2.5次元ミュージカルや特撮ヒーロー番組から、この舞台を知った人も多いと思うんですね。色んな入り口から、日本のエンターテイメント界が積み上げてきた、そして継承してきた伝統的な舞台表現に触れる人が増えるって、なんだか素敵なことだなぁって思う。さくら学院というのは、卒業生が様々なエンターテイメントの現場で活躍することで、色んな舞台表現の現場へと父兄さん達を連れて行ってくれる、一種のエントリーシステムとしても機能している。さくら学院が繋いでくれた新しい世界の先に、思ってもいなかった懐かしいチャンバラ映画の世界があって、なんだか嬉しくなってしまいました。日髙さん、素敵な出会いをありがとう。貴女の今後の活躍をずっと応援していきたいなって思います。