根気よく

昨夜は、「ワルツの夢」のリートの自主練習。女房のスパルタ指導のもと、1時間みっちりやりました。フレーズにくっついている色んな癖を取って、すっきりさせる作業と、ドイツ語の子音のさばき方をひたすら練習。妙に鼻に抜ける癖だの、ヘンなケレン味だのがやたらにまとわりついているので、これを取り除くのが大変。

一くさり歌っては、「ここでヘンなクセが出る」「こういうイメージを持ってみて」など、女房が色々と指導してくれる。例えばピアノとかなら、鍵盤を叩いている指を押さえたり、多少物理的に「いじる」ことができると思うのですが、声というのは声帯と腹筋ですから、外から「いじる」ことができない。なので、女房が「こうかなぁ」「ああかなぁ」などと、色々と引き出しから出してきてくれる訓練方法や対処療法を試してみて、うまく行くこともあれば、どうにも変わらないこともある。それを夫婦して、あーでもない、こーでもないとやっている。やってるうちに、何をどうしたらいいのか全然分からなくなってきて、苛々してくるのですが、とにかく我慢して、繰り返し繰り返しやる。いじられている私の方はかなりムカツクこともあるんですが、女房の耳と引き出しには絶対の信頼を置いているので、ぐっと我慢して、とにかく言われる通りにやりつづけてみる。

すると、時々、ふっと方向が見えるような気がする。確かに、少しずつ目標が見えるような気がする。気分だけで、再現性がなかったりして、また苛々する。一つできると、別のことを忘れる。やってるうちに腹筋がもたなくなる。ブレスが浅くなる。1時間もやると頭が真っ白になって、目が回ってきました。ダメだこりゃ。

一つの歌を仕上げるために、やらなきゃいけないことってほんとに一杯あるんですよね。自分ひとりでやっているときにはうまく行ってるつもりでも、きちんとした耳を持っている人が聞けば、全然クリアできていない課題が山のように掘り出されてくる。ほんの4小節くらいの1つのフレーズの中で、この子音はこのタイミングで鳴らす、この母音は言い直す、この音の音価を少し重く感じて、ここに山を持ってくるように呼吸をコントロールして・・・なんていう感じで、女房がごろごろと課題を掘り出してきてくれます。短いリートなんですけど、この中に20くらいのフレーズがあるとして、指摘されたチェックポイントは100近いかも。一気にやろうと思っちゃダメですね。一つ一つを整理して、根気よく、身体に落とし込むようにしないと。

大量の宿題をどどん、と背中に背負わされたような気分である。これが我が家の夫婦のコミュニケーションです。わはは。

基礎訓練が出来ていないから余計に、こういう作業がすごく苦痛に感じるときがあります。毎日ダッシュ100本、とかいった基礎訓練をやらないで、いきなりインターハイに出ているみたいなことをやっているのがガレリア座ですから、とにかくこんな基本的なことはいいから、歌いたい!と思うときもある。そこをぐっとこらえて、女房の「全然ダメ」という罵声に耐えつつ、自分の中の色気を押さえて、ひたすら音符をきちんと追いかける作業を繰り返す。かなりしんどいですけど、この時間を越えないと、実は「歌えない」んだよね。歌いたい、と気持ちだけ空回りするばっかりになっちゃう。

夜のTVを見ていたら、ハンマー投げの室伏さんが、「とにかくハンマーを遠くに投げるにはどうしたらいいか、ということだけを考え始めると、どんどん楽しくなってくるんです」という話をしていました。まだまだその域には達していないけど、この歌や、オルレンドルフにじっくり根気よく取り組んでみて、苦しい時間を楽しい時間に変えられるように、うちの優秀な調教師の愛のムチに耐えながら、日々精進。

夜、以前録画しておいた「シャイニング」をDVDにダビングしながらチラチラと見る。キューブリック監督の映画って、一つ一つのカットがほんとにスタイリッシュ。しかし考えてみると、この映画のお父さん、結構可哀想だよなぁ。家族は自分の仕事のことを全然理解してくれないし、幽霊にそそのかされた挙句に、かあちゃんにバットで殴られて、息子に迷路におびき寄せられて凍死しちゃうんだもんなぁ。これに比べて我が家では、女房と一緒にモノを作っていけるわけで、その点は幸せ。罵声入りの的確なご指導にはムカツキますが。(^_^;)