スポーツとしての音楽

週末は、今進行中の3つの企画の練習がありました。
 

ガレリア座3月公演「乞食学生」

土曜日の午後、乞食学生のソロ練習がありました。私の役は、「オルレンドルフ大佐」という役。まずは、先日オーケストラの練習にお邪魔して歌った、オルレンドルフの登場の歌を練習。やっぱり、高音のE・F・Gあたりの声の処理に苦労する。高音に跳躍する前の低音で、どれだけ踏み込めるか、というのが勝負のはずなんですが、そこがいつも中途半端になってしまって、高音に飛べない。跳び箱を飛ぶ時の、踏み台のタイミングと同じです。高音がうまく飛べると、そこから下降していく音程も全部安定する。ポジションがちゃんと上に保たれるから、音程がずり落ちない。頭で分かっていても、筋肉が思うように動かない。いつもながらの運動神経の悪さに苛立つ。

この登場の歌は、怒りの表現と、夢見るような美しいワルツの調べの対比が、明確になることがポイント、だと思っているんですが、そんな曲調のことなんか考えている余裕もない。というか、ヘンに頭でそんなことを考えないで、体に任せてしまった方がうまく聞こえたりする。オルレンドルフには、この登場の歌と、2幕の後半にクプレが1曲あるんですが、3月まで、じっくり取り組ませてもらおうと思います。

もう1曲、主役の2人、ジーモンとヤーンの二重唱を練習。二重唱なんですが、後半部分で、少しだけオルレンドルフが絡む旋律があります。基本的には簡単な音型なんですが、最後の和音を作る所がどうしても音が取れない。単独で練習してみると、非常に単純な、ドレミレドの音型なのに気付いて愕然とする。なんで取れないんだ?何度やってもダメで、最後に、下降する時の「レ」の音を、自分の感じているよりもずっと高めに意識してみて、やっと「近い」音になりました。
 

こういう基礎練習の段階でいつも感じるのは、音楽の演奏というのはスポーツだ、ということです。上の文章の中でも、スポーツを思わせるような表現が一杯出てきましたけど、多分、陸上競技の感覚にすごく近いんだと思います。三段とびの最初の踏み込みのポイントをどこに置くか、といった調整。そのポイントを探っていくうちに、あと10センチ、とか、あと0.5秒タイミングを早く、といった段階から、あと2ミリ、あと0.05秒、といった段階まで、どんどんポイントが絞り込まれていく。そうやって磨き上げていく過程が、美しい音楽を作る作業につながっていく気がする。ヘンに頭で、「ここは怒っているから」とか、「この言葉はこういう意味だから」なんて考えるよりも、筋肉の動きやポジションの意識を考えた方が、美しく磨かれていく部分が沢山ある気がする。まだまだ勉強中なので、あんまり偉そうなことは言えませんが。
 

大田区民オペラ合唱団の「ヴェルディ・レクイエム」

本番指揮者の宮松先生の練習。この練習では、先日の山口悠紀子先生のレッスンの時に言われた、「声帯を鳴らすのではなくて、体から声を遠くに飛ばすイメージ」というのを自分なりにすごく意識してみました。

個人的な感覚なのですが、オペレッタの曲をさんざ歌った後で、こういう合唱曲らしい合唱曲(ヴェルディですからかなりオペラが入ってますけど(^_^;))を歌うと、自分の歌のポジションをきちんと確認することができる気がします。単純に、ソロじゃないから、「鳴らそう」という悪い意識をあんまり持たないで済む。声帯の鳴りではなくて、息の流れとポジションだけ、フォームだけを意識して歌うことができる。ソロだと、どうしても自分の声帯の「鳴り」を確かめたくなって、どんどんフォームが崩れてしまうんですけど、合唱だと、もっとストイックにアプローチできる気がするんですね。

さらに、山口俊彦先生や、宮松先生のご指導から色んな示唆を得ることができて、そのあたりでも非常に勉強になる。当たり前のことなんだけど、そういえば意識してなかったなぁ、ということを、改めて自覚することが多いです。今回は、「レガートだからって、音と音の変化はきちんと階段状になるようにするんだよ。レガートとポルタメントとは違うんだから」と言われて、そういえばそういう意識がなかったなぁ、と。毎回何かしら得るところがあって、本当に得難い時間です。

それでも、「Dies irae」あたりはどうしてもガンガン鳴らしたくなっちゃって、最終的にはノドがちょっと腫れちゃった。ダメだなぁ。ちゃんとしたポジションで歌ってたら、ノドを傷めるなんてことはないはずなんですがねぇ・・・
 

③蔵コンサート

日曜日は昼・夜と蔵コンサートの練習。各曲、かなりいい感じに仕上がってきているので、細かいところの詰めを中心にやりました。個人的には、オッフェンバックの「天国と地獄」の「ハエの二重唱」の段取りがやっと整理できたので、あとはそれをどう身体に落とし込むか、というのが課題。

夜は「闘牛士の歌」を練習。先日のレッスンで確認したことがきちんとできない。難しいなぁ。「こことここを直しなさい」と、10個指摘を受けたのに、そのうち3個くらいしか実現できない、という感じです。こういうところでも、運動神経の悪さ、体の記憶力の悪さに呆れる。もう一度楽譜を見直さないと。

蔵コンサートのチケットは完売状態で、立ち見席まで全部売り切れてしまいました。大船渡の皆さん、そんなに期待はされていないと思いますけど、がっかりされないように頑張りますので、よろしくお願いします。大丈夫かなぁ。

日曜日の練習では、ヴァイオリンで参加してくれているSさんのオブリガードの美しさに驚愕。失礼な言い方かもしれませんが、練習を開始した時とピッチが全然違うし、フレーズ感も全然美しい。楽器の演奏、というのも、多分、指の位置の微妙な調整や、その指の力の入れ具合、弓の圧力の微妙な調整など、非常に身体的なもの=スポーツに近いもの、なんでしょうね。この場所で、この力の入れ具合なら、このフレーズ感とこの音程が出せる、というのを、反復して反復して確認していく作業。Sさんはガレリア座コンサートマスターなんですが、さすがだと思いました。
 
練習を早めに切り上げて、花火で賑わう外苑の周辺を車でぐるっと回りました。車の窓から見える花火に、娘が歓声を上げる。信号待ちの度に結構間近に見えて、随分楽しめました。娘が縁日で取ってきた金魚の金魚鉢を買って帰宅。夏、って感じです。

金魚には、「ハートちゃん」という名前がつきました。娘の命名です。縁日で取ってきた金魚って、子供のペット第一号の見本って感じですね。長生きしてくれますように。