活動寫眞の女

先日、読書に対する飢餓感の話を書きましたが、あの日早速、職場近くの図書館で、本を借りてきてしまいました。やること一杯あるのにいいのか。本番も近いんだから、イメージトレーニングやらんとまずいんじゃないのか。そういう良心の声からの逃避行動です。本番近くなると、緊張が高まってくるのもあるのか、こういう逃避行動に走りたがるんですね。そこまで自己分析できているのに何故やるのだ。サルだからか。すみません。

というわけで、昨日読み終えたのは、浅田次郎さんの「活動寫眞の女」。浅田次郎さんの小説で読んだのは、「鉄道員」と、「月のしずく」「地下鉄(メトロ)に乗って」、くらいなんですが、昔から、この人は映画マニアだなぁ、とは思ってたんです。「鉄道員」、というタイトルからして、名画「鉄道員」へのオマージュだし。地下鉄をわざわざ、「メトロ」という所なんか、フランス映画への意識が確実にある。「活動寫眞の女」は、全編が、全盛期の日本映画への哀悼歌になっていて、そのディテールの書き込みに圧倒されました。

中でも、山中貞雄監督の「人情紙風船」への言及が多く、小説自体、この映画に捧げられたような感もあります。この映画まだ見てないんだよなぁ。見ないといけない、と思っているんだけど。映画が好き、というからには、必ず、「この映画を見ていないのに、映画好き、とは名乗れない!」みたいな映画がありますよね。「人情紙風船」も、そういう「必須映画」の一つのような気がします。

「活動寫眞の女」は、映画への思い入れが強すぎて、メインの物語を食ってしまった感じがあります。個人的には、「地下鉄に乗って」の、めくるめく時間の渦の中でクライマックスに収束していくスピード感の方が、感動も大きかった気がする。でも、浅田次郎さんは、こういう、過去と現在の不思議な交感、という物語を書かせると、ほんとに素晴らしいですね。宮部みゆきさん同様、浅田次郎さんも、絶対にはずれのない作家だなぁ。

個人的に、藤沢周平さん、宮部みゆきさん、浅田次郎さん、の3人の作家が非常に好き。小説の構成力、というか、風格みたいなものでいえば、藤沢周平さんの小説が一番重量感があるとは思います。その一方で、宮部みゆきさんのバランス感覚も大好き。浅田次郎さんの、ベタな浪花節なんだけど、愛情あふれるタッチも好き。一時期、藤沢周平さんの本を全部読む、というのを目指してせっせと本屋さんに通っていた頃があったんですが、浅田次郎さんの本もなめてみようかな。そんな時間あるのか。逃避じゃないのか。逃避ですね。逃げろ逃げろ。