ニューヨーク・シティ・バレエ「くるみ割り人形」・MET「魔笛」

女房と娘と年末年始を過ごす中で、折角だから、年末らしい演目を見に行こうよ、と、ニューヨーク・シティ・バレエの「くるみ割り人形」と、METの「魔笛」を見に行く。色んな意味で、アメリカらしいパフォーマンスを楽しむ。

くるみ割り人形」は、色んな演出を見ていますけど、今回の演出では、ドロッセルマイヤーの甥っ子、というのが出てきて、これがくるみ割りの王子になり、クララ(米国ではMaryという名前)をエスコートする。子供の観客が喜びそうな仕掛けなんですが、このクララと甥っ子の子役2人が実に達者。先日の「ライオン・キング」の時にも感じましたけど、舞台に立つ子供たちの層の厚さ、質の高さがすごいんですね。甥っ子がお菓子の国で、ネズミとの戦いをパントマイムで一人で演じるシーンでは、その大熱演に、観客から拍手が起こりました。

雪の国のシーンで、これでもかとばかりに降ってくる雪の量の多さに、女房が、「アメリカだなぁ」とつぶやく。女房は、ロシアの舞台の映像を見ているそうなのですけど、「ロシアの演出よりも、色んな意味で間とか、隙間がない」そうです。ロシア、というか、ヨーロッパの感覚なのかもしれないけど、一つ一つの振付をしっかり印象的に見せていく。だからこそ、一つ一つの振付・姿勢が完ぺきに優雅に完成されていないといけない。それが、ニューヨークの舞台だと、とにかく次から次へと見せ場が続き、なんだか、中国の京劇を見ているような気になる。京劇と歌舞伎の違い、というか。

「結局、キム・ヨナ浅田真央っていうのも、米国スタイルとロシアスタイルの戦いだったんだよなぁ」と、女房がぶつぶつ言っている。そういうことはまぁ置いておいて、娘と私は、とにかく絢爛と繰り広げられる夢の世界を堪能しておりました。
 
METの「魔笛」は、昨年発表されたMETの新プロダクションで、1時間30分という短い上演時間の、英語による上演。演出家は、「ライオンキング」の演出家、ということで、操り人形や仮面を使ったファンタジックな舞台が楽しい。序曲をほとんど全部ぶっ飛ばして、いきなり蛇の登場から始まるスピーディーな展開。次から次へと楽しい仕掛けが繰り広げられ、まさにアメリカンテイストに味付けされた魔笛。娘は、熊さんが楽しかった、との感想。

それでも、やっぱりパフォーマンスのクオリティはすごく高いんだよね。一人ひとりのソリストの声の圧力、存在感、オーケストラの疾走感、どれをとってもやっぱりMET。METのクオリティで子供向けパフォーマンスを作ったらこうなるよ、というような感じ。ガラスのような透明な材質を使った舞台装置がとても美しかった。

よく聞くメロディが英語で歌われているのを聞きながら、ドイツ語も英語も、脚韻という共通の文法を持っているんだよなぁ、というのを改めて感じる。子音と母音の組み合わせ構造の近似、というのもそうですけど、脚韻ってのは日本語にはあまりない文法なんだよねぇ。

魔笛」を観終わって出てきたリンカーンセンターの広場には、雪かきをした後の巨大な雪山が出来上がっており、子供たちがよじのぼって歓声を上げている。舞台上でも、舞台の外でも、なんだか夢のような年末年始のイベントでした。