とある横浜での演奏会〜自分のポジションの確認〜

昨日、女房が、とある横浜での演奏会に出演する、というので、その直前練習のお付き合いと、演奏会本番を娘と2人で聴いてきました。

主催者側が当日の本番会場を午前中から押さえてくれていなかったので、女房がネットで見つけてきた会場で、自前調達の直前練習。川崎市のとあるスタジオを借りたのですが、これが掘り出し物。この1月にオープンしたばかりの小さな貸しスタジオだったのですが、今後も色々と使えそうないい感じの場所でした。ここで固有名詞を書くと予約しにくくなっちゃうかもしれないから、秘密にしちゃうぞ〜。我が家からは車で20分くらいのアクセスで、オーナーさんもとても感じのいい方。これからもひいきにしちゃおうと思っています。

練習したのは、「蝶々夫人」で、蝶々さんとスズキが、ピンカートンが帰ってきた船の汽笛を聞いて、家の中を花で満たそうと歌う二重唱。待ちに待った夫の帰還に、貧しさの中で、せめて庭の花で家を飾ろうとする蝶々さんの健気さ。そして、曲の終結部では、その後の悲劇を予感させる不協和音の中に、二人の幸福感が溢れる。悲劇の結末を知る観客に涙を誘わずにはいられない二重唱です。女房の方が基本的な演出プランを作って、二人の演技を私が見ながらダメを出す、という形で作りました。

オペラアリアの演出・ダメ出しをやるのは本当に久しぶり。正直、自分がちゃんとできるか、不安もあったのですけど、音楽から湧き出るイメージや、しっくりこない所の解決方法など、それなりにアイデアを出すことができたように思います。女房はもちろん、私の出すダメ出しには慣れていますけど、女房と共演してくださったスズキ役のメゾの金田智津子さんが、こちらのダメ出しに対して非常に的確に反応してくださる方で、ダメを出す側もとてもやりやすい。きちんとこちらのイメージ通り、あるいはそれを上回るアウトプットが出てくるし、それに対してこちらも、さらに要求水準を上げていくことができる。手伝ってくださった馴染みのピアニストのPさん含め、とても幸福な練習時間を持つことができました。こういう練習時間は本当に楽しいよねぇ。練習会場から本番会場に向かう車で、かかってきた携帯にちょっと出た瞬間に、おまわりさんに捕まって、罰金切られたのだけが余計だったけど・・・

さて本番。実を言うと、自分が演出した舞台を、お客様と一緒に客席で見る、というのは、今回が初めての経験だったんですね。ガレリア座で自分が演出した舞台は、出演者、あるいは舞台監督としてしか経験したことがないんです。初めてだったから、というわけでもないと思うのですが、異常に緊張しました。休憩直前がその二重唱だったのだけど、終わって休憩で立ち上がろうとすると、膝ががくがく笑っている。ひょっとしたら出演者よりも緊張したかもしれん。

何が緊張するって、やっぱり自分がイメージして、「これが美しい」「これがお客様に受けるはず」と思っているシーンで、観客がきちんと反応してくれるか、ということにものすごくドキドキハラハラするんですね。今回、女房のアイデアで、曲の最後の間奏の間に、スズキが、蝶々さんの髪に桜の花を挿してあげる、という演出を入れました。これがこの二重唱のクライマックスになっていて、そこに向かって、蝶々さんとスズキの関係性(擬似的な親子関係)をきちんとお客様に見せていく仕掛けをいくつも仕込んである。これをソリスト二人がきちんとこなしてくれれば、お客様がそのクライマックスシーンで「きゅん」と来るはず。中距離走の中盤の細かい駆け引きがあって、ゴールに向かってダッシュしていくのを観客席で見ているような、そんなハラハラ。

おかげさまで、二人のソリストの熱演と、お客様に恵まれたこともあって、緊張でコチコチになっている私を尻目に、客席はとてもいい感じに反応してくれました。女房が言っていたのだけど、スズキが桜の花を挿してあげるシーンで、最前列に座っていたおばさまが、にこにこしながらうんうんと頷いてくれて、とっても嬉しかったんだって。金田さんと女房には、本当にお疲れ様でした。いい二重唱に仕上がってよかったね。

演奏会全体を仕切っているのが、どうも横浜近辺で政治力のある方のようで、色々と「?」が飛ぶ場面も多く、企画としてはかなりアヤシイ演奏会。それでも女房は、色んな実力の歌手の方々と、お客様の前できちんと歌うことで、自分自身がどれくらいお客様に対してアピールできる力を持っているのか、自分のポジションをきちんと確認する意味で、有意義な経験だった、と言っておりました。私自身も、すっかりさび付いていた自分の演出スタイルを確認することができ、いい経験をさせてもらいました。

2時間の玉石混交のコンサート、娘は色んな歌い手さんの歌を聴きながら、「ママが一番!」との感想。身内の贔屓目かもしれないけど、女房が歌った蝶々さんの二重唱も、マノン・レスコーのソロも、なかなかいい出来に仕上がっていました。自分の声の響きを確立していること、その声が、他のソプラノ歌手と明確に区別できる個性的な色を持っていることっていうのは、競争率の無茶苦茶高いソプラノ歌手の中では強みだね。まだまだ素人っぽいところもあるから、もっと修行も必要だと思うけど、我が女房どの、とりあえず、母の日の演奏会、お疲れ様でした。今後は、我々自身の持っている人脈や企画力も活用しながら、お客様も出演者も楽しい時間を過ごせる素敵な演奏会を、自分たちの手で作っていければいいな、と思います。金田さんもPさんも、お疲れ様でした。是非またどこかで、一緒に遊びましょう!