山口俊彦&上江法明リサイタル

6月6日のリサイタルのお手伝いのことを書きましょう。舞台裏から見た雑感です。

御茶ノ水近辺は、学生時代に使った駅なんですが、駅周辺は全然変わってないですね。夕方になると「占いに興味ありませんか?」と思いつめた顔した若者が寄って来るところも変わってない。君が占ってもらった方がいいぞ。

でも、カザルスホール周辺は随分変わりましたね。明治大学の新校舎があったり、急に大きな駐車場があったり。カザルスホール自体、「日本大学カザルスホール」ですからねぇ・・・でも、舞台裏においてあった消火器には、「主婦の友社」って思いっきり書かれていました。何となく嬉しい。

ホールのスタッフさんは非常に優秀な方々で、気持ちよかったです。リハーサルの間も舞台上に集中されていて、細かい段取りをチェックされているようなんですが、リハーサルの最中には確認に来ない。終ってからいらっしゃって、「大体の段取りはわかりましたけど、ここを確認させてください」とおっしゃる。リハーサルを邪魔しないように、という配慮もさりげなく、嫌味がない。確認ポイントもとても明確。お任せするところは安心して任せられました。さすが、一流のホールのスタッフさんたちです。

合唱団の出入りの確認。なんだか、ずっと前から団員の動きをカンペキに計算していたような顔をして、「こう動いてください」と指示を出す。実はその場の思いつき「だけ」で動かしていて、腹の中では、「ほんとにうまく行くのかぁ?」と、??が飛びまくっているのだが、涼しい顔を保つ。うまく行かなかったりすると、「やっぱりそうなりますよね。だからこうしましょう」などと、最初から解決方法を用意していたような顔をする。実は全部、その場でとっさに考えて言っている。最後に、「いやぁ、この場で思いついたにしては、うまく行きましたね」と言って、ウケを取る。ごめんなさい。冗談じゃなくて、ほんとのことなんです。全部行き当たりばったりなんです。ハッタリ野郎の思いつきに、あんなに素直に従ってくださった合唱団の皆様、本当にありがとうございました。いやぁ、いい演奏になってよかったですねぇ。わはははは。

(いや、そんなにその場限りでやってるわけでもないんですよ。冗談ですからね。ちゃんと、ある程度は頭でイメージは作っていくんです。この文章読んで、「あいつはいい加減だから、もうステマネはお願いしないようにしよう」なんて言わないでね。ちゃんとやるから、仕事ちょうだい。)

実は今回、ソリストのリサイタルのステマネ、というのは初めての経験だったんです。合唱団の演奏会、オペレッタの舞台監督、というのは経験があったんですが。ソリストのリサイタルとなると、リハーサルの時間は、別に段取りが決まっているわけではなくって、全部ソリストさんたちのペースで進んでいく。それが逆に、とても新鮮でした。「じゃ、ここで山口先生と上江先生が出てきて・・・」なんて言っていると、「俊彦さん、どっか行っちゃったよ」なんて言われてずっこけたり。でも、それが逆に面白かったなぁ。一級の演奏家の方が、一つのモノを作っていく現場で、一緒にお話に参加している。なんて恐れ多いんだろう。

今回本当に心がけたのは、リサイタルなんだから、歌い手の方がやりたいことを全てに優先させる、ということでした。「こうしてください」ではなくて、「どうしたいですか?」と問い掛けることから始める。「こうしたいんだけど?」と言われたら、全て、「分かりました」と答えてから、解決方法を考える。演奏者が多くなればなるほど、色んな調整が入ってしまって、やりたいことがどんどん制限されてしまいますけど、折角、気を使わない演奏者3人だけのリサイタルですもん、やりたいことを全部やりたい!と思ってらっしゃるはず。そして、やりたいことを全部やっても、きっと楽しい、いい演奏になる。それだけの一流の方々なんだから、余計な口は出さない。そう思って、裏方を勤めさせていただきました。

色々と不備もあったと思いますが、やっぱり、両先生の演奏は素晴らしく、お二人のキャラクターが存分に発揮された、本当に楽しい演奏会だったと思います。アンコールのパフォーマンスでは袖で笑い転げておりました。調子にのって、打ち上げの司会までやっちゃったんですけど、なんだかでしゃばっちゃって申し訳なかったなぁ。

でも本番で一つ失敗しちゃったんだよねー。合唱指揮者の譜面台を入れるときに、間違えて、向きを反対に置いちゃった。指揮者が合唱団にお尻を向ける方向に譜面台を置いちゃったんです。指揮者の悠紀子先生が、入場してから、ぐいっと譜面台を直して、指揮をはじめたって後から聞いて、大赤面。合唱団員の皆さんからは、「おかげでリラックスできましたよ」なんてフォローしてもらったりして、まぁ情けないこと。まだまだ修行が足りないなぁ。

また一つの舞台に関わることができました。水野晴郎じゃないけど、やっぱり、舞台はいいなぁ。ほんとにいいなぁ。